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明確なプレーモデルが選手を再生させる!?「迷いを減らし、同じ絵を描かせる」手法とは。栃木シティ・今矢直城監督インタビュー(前編)

2025.06.26

2025Jリーグ前半戦のサプライズ監督#6
今矢直城監督(栃木シティ)

2025シーズンのJリーグも折り返し地点を迎えた。前評判通りにいかない激動のシーズンとなっているが、その立役者とも言える「サプライズ監督=ポジティブな驚きを与えてくれた監督」たちをフォーカス。チーム作りの背景にある哲学やマネージメントについて掘り下げてみたい。

第6回は、一度は契約満了を言い渡された選手たちを主軸に成長させ、組織的かつ攻撃的なチームを作り上げる栃木シティの今矢直城監督に注目したい。選手たちに「同じ絵を描かせる」プレーモデルの有用性や細部について、ライターの清水英斗氏が迫る。

いいポジションにはいるが「まだまだ足りない」

――栃木シティが躍進するなかで田中パウロ淳一選手の活躍は目に留まりますが、彼は「指導陣から伝えられたことをトレーニングで100%出すことに集中している」「それができれば120%を出す必要はない」「自分は指導陣に動かされている」というニュアンスで発言をしています。選手の言葉を聞いても、やはり今矢監督の『プレーモデル』は大きなポイントなので、それをお聞きしたいのが今回のテーマの一つ。もう一つは、『選手の再生』です。他クラブを契約満了になった選手たちが栃木シティで再生している背景について、今日は伺えればと思います。よろしくお願いします。

 「なるほど、わかりました。よろしくお願いします」

――栃木シティは今季かなり注目を浴びる存在になっていますが、まずはここまでの流れ、チームの状況をどのように捉えているか。ざっくり教えてもらえますか?

 「結構ギリギリな戦いを勝っている印象が強いです。結果的に一時期首位に立って、今もまだ2位にいて(※インタビューは6月2日)、いいポジションにいるとは思いますが、自分の感覚としてはまだまだ足りない部分が多いなと思っています」

今矢監督(Photo: ©TOCHIGI CITY)

――やはりJFL時代よりも相手のレベルが上がっている感覚はありますか?

 「ありますね。やはりJFLの特に後期は、終盤にも押し込むことが比較的多かったと思いますが、J3に上がると簡単にはさせてくれないですし、テゲバジャーロ宮崎戦は逆に終盤に押し込まれました。3-0というスコアがそうさせたのはあるかもしれませんが、結果的に3-2まで追い詰められてしまった。リーグのレベルが純粋に上がった感触があります」

――背後を徹底して消されるなど、そろそろ対策されて来た感覚もありますか?

 「もう本当にタイムリーで、先日のガイナーレ鳥取との試合(0-1で敗戦)がまさにそうでした。ただ、そういう相手の対策を上回って自分たちもリーグを上げてきたので、良い宿題をもらえたなと思っています」

キーワードは「前を向く、前にプレーする、前に走る」

――今はそういう状況ですが、とはいえ話を戻すと、今季これまで栃木シティが注目されてきた大きな理由は今矢監督のプレーモデルにあったと思います。田中パウロ選手も絶大な信頼を置く、その特徴を教えてもらえますか?

 「プレーモデルは各ポジションに求められること、ボールを持っているときに何をすべきか、守備のときに何をすべきかを明確にし、それによって迷いを減らせるものです。ただ、それがすべてではないと僕は認識していて、チームの全体像を考えたとき、あとは勝負事として捉えたとき、やはりプレーモデルは試合の一部でしかなく、チームのエネルギーを高めることだったり、選手の特徴を活かすことだったり、一瞬の流れを逃さないことだったり、それを支えるのがプレーモデルで、これを全部やっていればOKというわけではなく、あくまでベースはこれですよ、と伝える部分で大事なもの。勝負事の中では一部に過ぎないかなとは思っています」

――他の方とは異なる、今矢監督のプレーモデルの特徴はありますか? 何かキーワードとか。

 「キーワードは大事にしているかもしれません。やっぱり『前』。文章で3つに括ってしまうと、前を向く、前にプレーする、前に走る。超最短でプレーする」

――これはポジションにかかわらず、ですか?

 「そうですね。じゃあ、前を向くためにどういうポジションを取りますか? 身体の向きはどうですか? 前を向いた選手のサポートは、後ろでいいんですか? 前のほうがいいですよね? そこにポジションを取れば、あなたは前にプレーするのを手助けしていると言えます」

Photo: ©TOCHIGI CITY

――明確。基準がわかりやすいです。

 「やはり背後を取りたい。相手の背後にボールと人が入っていかない限り、ミドルシュートを除いて得点は難しいと思うんですよね。そういう意味では、相手のライン間をゾーン分けしています。

……

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Profile

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』『日本サッカーを強くする観戦力 決定力は誤解されている』『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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