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文武両道「目標」があるから頑張れる。札幌の希望、原康介の自覚、風格、状況把握

2024.07.19

【特集】ポストユースの壁に挑むルーキーたち
#5 原康介(北海道コンサドーレ札幌)

高卒Jリーガーが試合経験を積む場がない――「ポストユース問題」が深刻化している。J1で出番を得ることは容易ではなく、J2J3にレンタルしても必ずしもうまくいかない。近年、ルーキーイヤーからJ1で活躍しているのは松木玖生(FC東京)や荒木遼太郎(当時鹿島)が目立つくらいだ。有力選手の大学進学や欧州移籍が加速しているのも、この問題と無関係ではない。彼らはプロでどんな壁に直面し、それを乗り越えようとしているのか。ユース年代を卒業したプロ1年目のルーキーたちの挑戦に光を当ててみたい。

第5回は、大学受験かプロ入りか、愛知県内有数の進学校から半年前に急転直下の札幌行きを決めた原康介。すでにJ1で2ゴールを挙げている18歳のアタッカーは、「サッカーも勉強も一生懸命やってきた」から今がある。

「名古屋高のみんなも、きっとどこかで目標に近づいているはず」

 2024年1月末、名古屋高(愛知)の3年生で練習生として北海道コンサドーレ札幌の沖縄キャンプに参加していた原康介は、ハードな練習を終えて宿舎の自室に戻ると、とにかく違和感に包まれていた。その時の心境を「自分でもよくわからなくなってしまって。なんて言うんですかね、理由もなく混乱したというか……」と明かす。実はこの直前、パフォーマンスを評価された原はいわば“合格”を勝ち取り、札幌から正式オファーを提示されていた。その事実にはもちろん喜び、嬉しさでいっぱいだったのだが、部屋に戻ってみると味わったことのない心境に襲われた。そして、「そうか、もう受験はしないんだ。勉強をしなくていいんだ!」と気づき、安堵感も含めた特別な喜びがジワジワと湧き上がってきたという。

 前述したように当時、原は名古屋高の3年生。1月の全国高校サッカー選手権大会ではベスト8まで勝ち進んだものの、そこで敗退。「僕にとっての高校サッカーはそこで終わり」とすぐに気持ちを切り替えた。名古屋高は進学校として知られ、プロクラブ加入や強豪大学への推薦入学も決まっていなかった原は、チームメイトや同級生らとともに大学受験に向けて引き続き勉強に励むこととなった。高校選手権の最中もチームの全員が勉強道具を持参し、宿舎では黙々と受験勉強に打ち込んでいた。

 すると大会を終えて地元に戻ってから数日後、サッカー部の監督から札幌の練習参加打診の話をされたという。「びっくりしましたよ。まさかそんなことになるなんて、想像もしていませんでしたから」と原。実は名古屋高サッカー部のコーチと札幌のスカウトとは接点があり、かねてより原の可能性を強く感じ取っていたコーチが以前からプレー映像を札幌に送っていたのだという。また個人的な感想で恐縮だが、高校選手権2回戦で北海道代表の北海高を下していたという部分にも縁を感じる。この試合でも個人のドリブル力で相手を押し下げるプレーを随所に見せたのはもちろん、得点さらにはアシストを記録。小柄ながらも高い空間認知力を発揮してヘディングでもゴールを狙うプレーを見せ、この原のプレーぶりは筆者の記憶にも強く残った。

 ただし原本人は、札幌から打診に驚きこそしたものの、浮き立つことはなかった。「もちろん嬉しかったですよ。でも、何かが決まったわけではありませんでしたので。その時点でも変わらず、受験をするつもりでいました」と原は当時の心境を振り返る。キャンプ地の沖縄県にはサッカー用具のみならず勉強道具、参考書なども大量に持ち込み、部屋にいる時間は常に勉強漬けだった。……

Profile

斉藤 宏則

北海道札幌市在住。国内外問わず様々な場所でサッカーを注視するサッカーウォッチャー。Jリーグでは地元のコンサドーレ札幌を中心にスポーツ紙、一般紙、専門誌などに原稿を寄稿。