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クラブW杯で痛感した世界との差を埋めるために。浦和が引き継ぐべきスコルジャ監督の遺産

2023.12.29

Jリーグ新時代に求められるもの――2023シーズン注目クラブ総括
Vol.11 浦和レッズ

30周年を迎えたJリーグ、J1・J2注目クラブの2023シーズンを徹底総括。有望株や実力者の海外流出、人材流動の加速で変化する序列と台頭する新戦力、そしてACLの秋春制移行――環境が激変する新時代を生き残るための戦術&人心掌握術とは? 最終結果だけでは見えてこないチーム作りの方向性と試行錯誤、そして選手自身の成長と物語を専門家と番記者の視点で掘り下げる。

第11回で取り上げるのは浦和レッズ。5月には5大会ぶりにACL王座を奪還するも、シーズン終盤にJ1優勝争いから脱落、ルヴァンカップ準優勝とタイトルに手が届かず。監督就任1年での退任が発表されていたマチェイ・スコルジャ体制で有終の美を飾るはずだったクラブW杯も4位で表彰台を逃したが、この失意の1年は果たして来季の糧となるのか。課題と収穫を番記者のジェイ氏が振り返る。

 シーズン最後の2カ月で、何度この光景を見ただろうか。虚ろな表情の選手・スタッフらが重い足取りで空港に現れ、ふらふらと搭乗口に吸い込まれて帰国の途に就く。ただ、最も疲れ切った状態での最後のフライトには、“次の試合”が存在しなかったのがわずかな救いだった。J1最終節から約3週間が経った12月24日、イブの夜に中東からの帰国を果たし、浦和レッズのシーズンがようやく幕を閉じた。

 J1開幕戦からクラブW杯3位決定戦まで、実に公式戦60試合をこなしたチームにもはや余力はなく、ラストゲームで今季最多の4失点を記録。最後の望みだった3位入賞も果たせなかったが、なにはともあれ最後までやり切ったという充足感もあり、表情も足音も、いくらかは明るく映った。

 5月にアジアを制した浦和だったが、あまりに早過ぎるハッピーエンドゆえか、その後はうまくいかなかった。いや、「うまくいかなかった」は言い過ぎかもしれない。天皇杯を4回戦で、ACLをグループステージで敗退したとはいえ、J1リーグ戦4位、ルヴァンカップ準優勝は悪くない成果だ。ACL出場権とカップタイトルを寸前で逃したことが印象を悪くしてはいるが、むしろ、よくここまでの成績を残したと評価すべきだろう。

 ただそれでも、もっとできたのではという口惜しさがある。ACL優勝を総括した際、「次に求められるのは攻撃の改善」と記したが、それがついに叶わなかった。ますますの過密日程に襲われ、ACL後はひたすら、試合をこなすだけで過ぎていった感もある。マンチェスター・シティという世界最高峰のチームと対峙したクラブW杯準決勝も、そのレベルの高さに打ちのめされ、差を痛感しつつも、何か新たな課題が発見されたわけではなかった。

 「僕個人としては、相手が誰だろうとどこの国だろうと、できることはできるし、できないことはできない印象だった」(小泉佳穂)

得点手段の乏しさに繋がった「運び」と「アタッカー」の不足

 今季の浦和の課題はというと、一にも二にも得点力、攻撃力の不足になる。ではその原因は何か。少し整理しておきたい。いくつかピックアップすると……

Profile

ジェイ

1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。