FEATURE

『新・ムービングフットボール』の結実。東京ヴェルディが辿った16年ぶりのJ1復帰への軌跡

2023.12.28

Jリーグ新時代に求められるもの――2023シーズン注目クラブ総括
Vol.10 東京ヴェルディ

30周年を迎えたJリーグ、J1・J2注目クラブの2023シーズンを徹底総括。有望株や実力者の海外流出、人材流動の加速で変化する序列と台頭する新戦力、そしてACLの秋春制移行――環境が激変する新時代を生き残るための戦術&人心掌握術とは? 最終結果だけでは見えてこないチーム作りの方向性と試行錯誤、そして選手自身の成長と物語を専門家と番記者の視点で掘り下げる。

第10回は16年ぶりのJ1復帰を手繰り寄せた東京ヴェルディがテーマ。常に上位に付けながら1シーズンを過ごしたチームだったが、もちろんその歩みの過程では小さくない紆余曲折を味わっている。情熱の指揮官・城福浩に率いられた緑の勇者が、どのような道のりを辿って劇的なプレーオフでの昇格劇を成し遂げたのかを、上岡真里江がキーマンたちの言葉を交えて、丁寧に振り返る。

あえて封印を解いた『ムービングフットボール』の真意

 「感激を追求するサッカーをしよう!」

 2023年1月10日。新チーム始動日に、城福浩監督が一番最初に選手たちに伝えた言葉だ。そのために、U-17日本代表監督時代にすっかり代名詞ともなった、“あの”ワードを掲げた。

 「『ムービングフットボール』を、あえて今年は選手の前で出しました。でも、その意味は以前とはちょっと違って。ムービングの“ムーブ”には、『走る。動く』という意味と、もう1つ『感動させる』という意味があるので、『お客さんを感動させよう』という意図で今までは使っていました。だけど、今回は違う。『人を感動させる以上に、自分たちが感激するシチュエーションを作ろう。感激を追求するサッカーをしよう』と。つまり、目は自分たちに向いているということです。『相手チームがどう思おうが、人がどう思おうが、自分たちが苦しい時、困った時に、何に立ち返るか。このチームが立ち返るものを追求できているかということを常に意識しながらやっていこう』と話しました。それは、90分の中かもしれない。1シーズンを通した中での苦しい時かもしれない。どんな時でも、ブレないサッカーをしていきたいと思います」(城福監督)

J2第25節、町田ゼルビア戦の試合後に選手をねぎらう城福監督(Photo: Takahiro Fujii)

 清水エスパルスとのJ1昇格プレーオフ決勝戦には、その言葉のすべてが凝縮されていた。

 J2リーグ戦を3位で終えた東京ヴェルディは、引き分けでも勝ち抜けというプレーオフ進出4チームの中で最高のアドバンテージを得ていた。だが、63分に自陣ペナルティエリア内で清水MF中山克広と競っている際、キャプテン森田晃樹の手にボールが当たったとしてPKとなり、先制を許すことに。それでも、誰一人としてヘッドダウンする選手がいなかったのは、苦境に立った時こそ立ち返るべきスタイルを、シーズン通してチームで確立してこられたからに他ならない。

 実際、失点後も、清水が早々に守りに入ったのに対し、東京Vは攻めあぐねながらも戦い方を一切変えることはしなかった。0-1のビハインドのまま残り時間が刻々と減っていく中でも、ストロングである前線からの守備だけは全員が絶対にサボらず、次の1点を与えない。無作為に前線にボールを放り込むのではなく、基本的にはパスをつなぎ、ボールを保持して相手陣内でサッカーする時間を増やし、焦れずに攻撃の糸口を見出していくという、シーズンを通して積み上げてきた自分たちのサッカーを貫いた。その結果が、最後の最後、後半アディショナルタイム6分の染野唯月のPKゲットを生んだのである。
 
 そして、そのPKを染野がしっかりと決め、16年ぶりの来季J1昇格が決まった。そのあまりの劇的な幕切れに、チーム全員が心を震わせ、涙を流した。また、そんな東京Vが繰り広げた大逆転のドラマを見つめた5万3千人超の観客も深く感動したのだった。まさしく、自分たちの力で、『自分たちが感激するシチュエーションを作った』のである。その意味でも、あの試合は2023ヴェルディの集大成だったと言えよう。

齋藤功佑が担った選手とスタッフのスムーズなパイプ役

 ただ、1年通して開幕から常にプレーオフ進出圏内の6位以上の順位での戦いを続けられたが、決して順風満帆なシーズンではなかった。谷口栄斗、梶川諒太、齋藤功佑、林尚輝など、主力選手に長期離脱者が相次ぎ、その穴を埋めるべく本職ではないポジションでの選手起用や、システム変更をして挑んだ試合もあった。

 さらに、夏の移籍市場ではレギュラー起用していた選手のライバルチームへの移籍、逆に、甲田英將、染野唯月、中原輝、長谷川竜也といった、J1クラスのポテンシャルを持つ選手たちの新加入により、レギュラー争いが激化。新メンバーの特長をいかに早急に活かし、結果に結びつけるかも、嬉しい問題ではあったが、ある意味では大きなチャレンジと言えた。

 その次々に訪れる一つひとつの困難に、逃げることなく中心選手として立ち向かったのが齋藤功佑だった。中学生のジュニアユース時代から横浜FCのアカデミーで育ち、2016年にトップ昇格。昨季までの7年間、横浜FC生え抜き有望株として期待されてきた中、三浦知良、中村俊輔、松井大輔といった世界クラスの選手をはじめ、多くの尊敬できる選手たちから学んできた経験を、“移籍”というあえて厳しい環境下で証明する道を選んだ。……

Profile

上岡 真里江

大阪生まれ。東京育ち。大東文化大学卒業。スポーツ紙データ収集、雑誌編集アシスタント経験後、横浜F・マリノス、ジュビロ磐田の公式ライターを経て、2007年より東京ヴェルディに密着。2011年からはプロ野球・西武ライオンズでも取材。『東京ヴェルディオフィシャルマッチデイプログラム』、『Lions magazine』(球団公式雑誌)、『週刊ベースボール』(ベースボール・マガジン社)などで執筆・連載中。