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川崎や横浜FMを想起させる連係の秘訣は“選手の胸が合い続けていること”。新アルビスタイル徹底解剖

2022.12.28

特集:新アルビスタイルの真髄に迫る#4

シーズン中盤以降は首位の座を譲ることなく戴冠を遂げた2022シーズンのアルビレックス新潟。その原動力となったのがアルベル監督が礎を築き、松橋力蔵監督によって継承された攻撃的スタイルにあったことに異論を挟む人はいないだろう。そんな“新アルビスタイル”の戦術的特徴、アルベル監督時代から松橋監督に代わり生じた変化とそれに伴うメリットとデメリット、そして来たるJ1での戦いに向けた展望について、山口遼氏が分析する。

 アルベル元監督の就任から、それまでの守備的なクラブイメージを覆すような攻撃的なサッカーへと変貌したアルビレックス新潟が、後任の松橋力蔵監督に率いられ、ついに悲願のJ1昇格を成し遂げた。終わってみれば最多得点、最少失点でリーグ戦を駆け抜け、ボールポゼッションも平均60%を超えるなど、スタイルを堂々と誇示しての優勝になった。本稿では、アルビレックス新潟を戦術的な見地から分析し、さらにJ1での戦いに臨む来シーズンを簡単に展望してみよう。

共通するクラブカルチャー:小柄なドリブラーだらけの前線による、テクニカルなフットボール

 現在のアルビレックス新潟を語る上でまず欠かせないのが、前監督のアルベルだろう。もともと守備的なカルチャーを持っていた新潟に、ポジショナルプレーやそれに付随する攻撃的なフットボールを浸透させた。後任の松橋力蔵現監督も基本的にはその攻撃的なカラーを受け継いでいる。

 スカッドを見渡して特徴的なのが、前線の選手が「小柄なドリブラー/テクニシャン」タイプで占められている点だろう。ともに[4-2-3-1]を基調とする布陣の中で、1トップには鈴木孝司のような比較的身長の高いタイプを起用することもある一方で、2列目やボランチには本間至恩(現クルブ・ブルッヘ)、三戸舜介、伊藤涼太郎、小見洋太、高木善朗、高宇洋などといった、決して大柄とは言えないテクニシャンタイプがずらりと並ぶ。1トップにしても、チーム内得点王の谷口海斗は身長こそ177cmと低いわけではないが、こちらも裏に抜けることを得意としており、やはり前向きの状況を作ってこそ活きるタイプと言えるだろう。

終盤は十字靭帯の損傷により離脱を余儀なくされたものの、チームの攻撃をけん引した高木のプレー集動画

 これらスピードとテクニックに優れた攻撃陣によって繰り出される新潟の崩しは、ショートパスとドリブルを織り交ぜた非常にテクニカルなものだ。日本のチームの中では、川崎フロンターレや横浜F・マリノスと並んで最もショートパスのコンビネーションのレベルが高いチームと言っていいだろう。それを生み出しているのは“選手の胸が合い続けていること”が大きく寄与しているように見える。

 選手たちがスペースに走り込むのに合わせて“スペースに”パスを出すのではなく、“スペースで胸を合わせている選手”を目的地にすることで、コンビネーションが連続しやすいだけでなく、目的地の齟齬(そご)がないためにミスも起きにくい。ただテクニカルな選手を並べて好きにやらせるという“放任主義”ではなく、整理された配置の中でボールに寄り過ぎずに的確にパスラインを引くことができている点に、新潟がアルベル→松橋力蔵と引き継いできた戦術的な積み上げが感じられる。

攻撃面の変化:「ラインを越える」ことを意識したバーティカルな攻撃の増加とその影響

 とはいえ、すべてがアルベル元監督から松橋力蔵現監督へそのまま受け継がれたわけではない。攻撃面に関して、アルベル元監督率いる2021年シーズンは低い位置にブロックを敷いて守る“新潟対策”に苦しみ、後半戦は得点数も増えず昇格を逃す結果になった。

 そのような反省もあってか、松橋現監督は縦へのダイナミズムをチームに新たなカラーとして加えた。これによって、チームは明らかにショートカウンターからの得点が増加。これは、ボールを奪った際には相手の守備陣形が整う前に危険なスペースを狙うという意識がパスの出し手/受け手の両方に共有されたためだ。

 同様のことは、自分たちがボールを保持するビルドアップ時にも言える。ビルドアップの際、やや浅い位置からでも早めにビルドアップから崩しへと移行し、相手の守備ブロックの背後にまだスペースがある状態でブロックの中や奥へと人と一気にボールが入っていくので、ショートパスコンビネーションによる中央突破が飛躍的に増加。チームとして、相手の守備ラインに対して1つ奥、2つ奥を狙うような意識は浸透していて、先述した「選手同士で胸が合っている」ことで密度の濃いコンビネーションが生まれていた。

 また、もう1つ変化したのがチーム全体のポジショニングだ。アルベル時代には、いかにもポジショナルプレーというべきピッチ全体に散開するような、バランスの良い立ち位置を取っていた。崩しに参加する人数は4、5枚にコントロールされていることが多く、守備に切り替わった際のリスクに対するマネジメントを意識しているように見えた。

 それが松橋監督になって以降は、状況にもよるが攻撃に関わる人数が飛躍的に増えた。ショートカウンターの場面が増えたこともあるだろうが、1回の崩しに6、7人が関わることも珍しくなく、攻撃の複雑性は明らかに増した。守備のリスクがやや増えたのは事実だが、相手からすれば新潟の攻撃の脅威自体が高まったと言えるだろう。

 このような変化もあってか、チームとしては得点数が昨シーズンの67得点から74得点へとわずかだが増加し、J2における最多得点チームとなった。

 とはいえ、このような変化はメリットばかりではなかったようにも見える。

 相手の守備ブロックの背後や、ラインを越えるための「縦の意識」が共有されたことで、自分たちの陣形も整わないうちに背後へボールを送るようなプレーが増えた印象がある。一方でアルベル元監督時代から、“現在の”アルビレックス新潟の武器はテクニカルな選手による「ボールを保持してのゲームコントロール」であると認識している。得点の少なさや攻撃時の閉塞感などを踏まえて、縦への推進力をチームに植え付け昇格を果たした松橋監督の手腕は当然素晴らしいのだが、本来相反する部分もあるこれら2つの意識のバランスを取るのは簡単なことではない。来季以降、縦へのプレー意識がさらに強まってゲームコントロールへの意識が薄まるようなことがあれば(それだけで弱くなるというわけではないが)、これまでの新潟とは異なる強み、弱みが顕在化する可能性はあるだろう。……

新アルビスタイルの真髄に迫る

Profile

山口 遼

1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd