日本代表プレーヤーフォーカス#9
昨年新設されたトロフェ・コパ(U-21の年間最優秀選手賞)候補に名を連ね、次の移籍先として挙がるのは国内外のビッグクラブ。順調にステップを重ねてきた堂安律だったが、アジアカップでは「本当に自分の責任」と言い切るほどの悔しさを味わった。日本代表のリスタートを前に、20歳の大器がカタールの地で直面した課題を振り返る。
文 河治良幸
「本当に腹立たしい」カタール戦
「結果がすべてだと思っていますし、優勝するって大会前から言ってきたので。本当に自分の責任だと感じています」
優勝を逃したアジアカップのカタール戦後の取材で、堂安律は不甲斐ない気持ちをあらわにした。
A代表に選ばれた当初から、堂安は「サッカーに年齢は関係ない」と言い続けてきた。プレーに関して強気の部分はあるものの、結果には人一倍シビアな選手だ。
トルクメニスタン戦では「ファーストタッチがなかなか止まらなかった」とフィーリングに苦しみながらも、「受けた瞬間から打つと決めていた」と振り返る左足のシュートでアジアカップ最年少ゴールを決めた。
サウジアラビア戦では自陣守備からのカウンターという戦い方を強いられ、(守備の長さは)「想像以上でした」と振り返りながらも、「日本がこういう勝ち方もできるというのを示せたのは良かったと思う」と割り切る。
ベトナム戦ではPKを決め、2得点目を挙げた。準決勝のイラン戦では決め切れなかったものの3-0での勝利に貢献し「とりあえずチームが勝てて、ホッとしています」と語っていたのは、決勝でのゴールを見据えていたからだろう。

それだけに、カタール戦後の表情は厳しかった。
「本当に腹立たしいというか……自分に対して思い返せば感じていますし、それを発散できるのもピッチの上でしかないので。いくら今ここで『何かを変えたい』と言っても変わらないわけなので。トレーニングから、試合から、ピッチ上で変えていきたいと思います」
悔やまれる、1点返した後の時間帯
前半は5バックを敷きながら中央で組み立てるカタールに対し、日本の[4-4-2]のディフェンスがはまらない中で攻撃の距離感も遠くなった。右サイドの堂安は、相手のファウルを受けてFKをもらったシーンはあったものの、なかなか起点になれない時間が続いた。
最初の失点シーンではサイドチェンジを受けたアクラム・アフィフを右サイドの酒井宏樹と堂安のところで封じ切れず、最後はペナルティエリア内でボールを受けたアルモエズ・アリに会心のオーバーヘッドを決められた。さらに失点して0-2にされてから日本はようやく守備を修正し、全体を押し上げて高い位置から仕掛けるようになると、堂安もようやく持ち味を発揮した。
ボランチの塩谷司からボールを受けた堂安は、外から追い越す酒井に正確なパスを送り、深い位置からのクロスを演出した。後半になるとさらに攻撃に絡み、セカンドボールから酒井のパスを受け、ワイドに流れた大迫勇也のクロスを引き出すなど、受け手としても出し手としても中心的な役割を担った。
南野拓実の得点シーンでは、セカンドボールを塩谷が拾ったところでカタールのディフェンスの間に入り込んだ。仮に堂安にパスが出ていても決めた可能性のあるシチュエーションではあったが、ここまで無得点だった南野のターンからの抜け出し、フィニッシュは見事だった。
堂安にとって特に悔やまれるのはそこからの時間帯だろう。積極的に仕掛けて同点ゴールを狙った堂安だが、78分にはセカンドボールからシュートに持ち込んだがカタールのブロックに阻まれた。そして直後のカウンターからCKに逃れ、吉田麻也の不運なハンドによりPKで1-3と突き放された。

課題は、過程よりもフィニッシュ。
「1点決まれば劇的な(逆転)勝利で終われるんじゃないか、という望みは捨てていなかった。1点返したあとは、正直『行ける』と思ったので。判定を言い訳にするつもりはないですけど、3失点目で(自分たちの)心が折れてしまった印象です」
大会を通じてのパフォーマンスには、左利きの右サイドアタッカーゆえの課題も見られた。カウンター時、味方から縦パスを受ける時に必ず左足でボールを止めるため、スピードダウンしてしまうシーンが何度か見られた。
しかし、過程の部分より大きな課題となったのがフィニッシュだ。
チャンスにより鋭く切り込んで、シュートに持ち込む。飛び出しからボールを受けた時に、狙いを違わず決め切る。シンプルだが、サイドのストライカーに何より求められる能力を堂安は発揮できなかった。海外メディアでは「アジアカップで最も輝いた若手選手」の1人に選ばれ、評価はさらに高まったかもしれない。だが、誰より堂安自身が危機感を持っているだろう。
「自分のことを『一発を持っている』と思っていました。けれど、なかなか振り切れず、一発もなかなか出なかった大会だと思っています。(自分の特長を)いつ出すのか、どこで出すのか、どうやって出すのか、逆算してプレーしていきたい」
この敗戦が"良い経験だった"とは本人は口が裂けても言わないだろう。しかし、ここから堂安が結果を出し続けていくことが、何よりの証明になる。
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