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北川航也、ほろ苦いアジアカップを糧に。「プレーを言われる分には、仕方ない」

2019.02.23

日本代表プレーヤーフォーカス#8

北川航也(清水エスパルス)。2018年のJ1では13得点を挙げ、アジアカップ2019のメンバーにも選ばれた22歳。だが、アジアカップでは無得点に終わり、十分なパフォーマンスを見せたとは言いがたかった。この俊英の現在地と今後について、現地取材を重ねた河治良幸氏に総括してもらった。

個人として結果が欲しい。でも…

 昨年10月のシリーズに追加招集された北川は、引き続き11月の日本代表合宿にも呼ばれた。キルギス戦ではゴールこそなかったものの、存在感あるプレーで森保監督にアピールした。

 昨シーズンの清水エスパルスでは、FWドウグラスと北川の2トップが猛威を振るい、シーズン13得点を記録。初めてのA代表に選ばれた。動き出しの質もさることながら、22歳という若さで結果を出していることが大きな理由だろう。森保監督はアジアカップのメンバー発表でこう説明していた。

 「経験の浅い選手も多いが、『自分たちで新しい日本代表を築いていくんだ』という強い気持ちを持ち、タイトルに向かって戦っていってほしいという意味も含めてメンバーを選考した」

 北川より2歳若い堂安律は、ウルグアイ戦やベネズエラ戦に先発起用されている。北川のチームにおける現在地が「当確ライン」だったことを考えれば、この言葉に合致する選手の1人が北川であることは想像にかたくない。

 その北川に、いきなり大きなチャンスがめぐってくるとは筆者も予想できなかった。当初、FWの枠は大迫勇也、浅野拓磨、北川の3人だった。だが、浅野がケガでアジアカップを辞退し、武藤嘉紀が追加招集。しかしながら武藤は1月3日のマンチェスター・ユナイテッド戦を戦ってからの合流となったため、9日の初戦に合わせるのは難しくなった。さらに大迫は右臀部の打撲による別メニュー調整が続く。北川の注目度は、日増しに高まっていた。

 蓋を開けてみればトルクメニスタン戦は大迫が先発し、しかも2得点と活躍した。さらに堂安のゴールで3-1となった直後、北川は南野拓実に代わり投入された。しかし、投入されて6分後、失点に繋がるミスをしてしまう。味方からのスローインからターンしようとしたところを相手選手に奪われたことがきっかけで、相手にPKを献上してしまったのだ。1点差とされた日本はなんとか相手のパワープレーをしのいで勝利した。

 「前を向いて、行けるのか行けないのか判断すること(が必要だった)。あの失点によって、相手がまた盛り返してきた」と振り返った北川だが、そのミスについては「ネガティブになる必要はないと思います」と前を向いた。

 トルクメニスタン戦後、大迫が臀部の痛みを再発させて再び別メニューになると、オマーン戦で森保一監督は北川のスタメン起用に踏み切った。

 オランダ人のピム・ファーベーク監督が率いるオマーンは、4バックで高めの位置を取る。北川はその(ライン)間にポジションを取り、相手のラインと駆け引きを繰り返したが、味方からの多くのパスは縦の2トップを組む南野の方に出た。

 日本は南野が多くのチャンスを外してしまうも、原口元気がペナルティエリアで受けたファウルがPKと判定されるラッキーな形で先制ゴールを挙げた。これが唯一のゴールとなり、日本は1-0で辛勝した。

 「FWはボールが出てこないと仕事ができない。ボールが出てきてこその働きだと思うので、そこはコミュニケーションというかもっと話す必要がある」と反省しながらも、北川は次のように語った。

 「個人として結果が欲しい。でも、結果が欲しいがゆえにチームプレーをやめてしまったら先に続かない。自分としては、やっぱりそういったところも続きながら、欲しい時に必ずボールがくると思うので、それを信じてやり続けるだけ」

『いい動き』だけじゃ結果には残らない

 ともかくグループステージ突破を決めた、日本代表はウズベキスタン戦でガラリと先発メンバーを入れ替えた。だが、北川だけはオマーン戦に引き続きスタメンに名を連ねた。

 武藤と2トップを組んだ北川は、時に引く動きでボールを引き出し、チャンスの起点となった。早い時間に先制されたものの、日本は室屋成のクロスを武藤がヘディングで合わせて同点に追いつくと、塩谷司の目の覚めるミドルシュートで逆転する。

 北川はその際、ペナルティエリアにタイミング良く入って塩谷のシュートコースを作り出していた。そのことについて聞くと、北川はこう答えた。

 「あの瞬間は、塩くんがシュートを打つことが想定できて。キーパーが弾くことを考えて、それしか考えてなかったんですけど。入ったので、良かったです。

 自分の動きで味方がゴールを取れるように、と思ってるし、自分としても得点に貪欲にならないといけないと思っています。『いい動きをしていた』だけじゃ結果には残らないので。危機感を持ってやっていく必要がある」

 ゴールという結果が出ない中でも、徐々にチームの中で周りからのパスを引き出せている手ごたえはあったようだ。

 「シュートまで行けている部分はあるし、そこには自信を持って。点が決まるか決まらないかは、運もあると思います。ラッキーでもゴールが入れば1点なので、継続させること、いかにゴール前に入っていけるか、になってくると思います」

 「結果が欲しいのはもちろん。ですけど、まずチームの一員として相手にプレスもかけ続けるし、クロスに対して入り続けるし、シュートも打ち続ける。やることをしっかりやることによって結果が付いてくると思っているので。

 これまで自分がプロになってやってきたこと。清水で学んだことでもある。結果が欲しいがゆえにプレーしなくなったら、転がってくるものも転がってこなくなってしまう」

 ラウンド16のサウジアラビア戦は、引き続き大迫の回復が間に合わない中で、武藤が先発。北川は終了間際の出場だったが、原口とともに4試合連続の出場となった。そしてベトナム戦、再び先発のチャンスが回ってくる。

 5バックのベトナムに対して、1トップの北川は巧みなポジショニングでパスを引き出すが、本来は2トップや下がり目のポジションからチャンスやフィニッシュに絡むタイプ。大迫のように、前線に張って攻撃にタメや深みを作り出すタイプではない。

 前半の終わりには、高い位置でインターセプトした柴崎岳からの縦パスを受け、タイミングよく走り込んだ。だが、堂安からの絶好のクロスを打とうとしたところで、南野が手前に飛び込んできてしまった。

 「ペナルティエリアに入って行く人数が多ければ多いほどいいと思っているので、あの場面は自分が早めに”スルー”って声かけてれば通っていたかもしれない」

試合に出ている以上、それは関係ない。

 南野とはハーフタイムにあらためて話し合い、後半は2人が縦の関係を何度か入れ替えることで攻撃を活性化した。原口を起点にした仕掛けから、堂安のVARによるPKを獲得して先制に成功する。

 ところが北川に代わって入った大迫が流石の存在感を示すと、相対的に北川に対する厳しい評価の声がSNSなどにも目立つようになった。また、日頃からJリーグを観ているファンや清水エスパルスのサポーターからは、北川が代表でうまく使われていないこと、相手を背負う役割では能力を発揮できないことなどを指摘する声も上がった。

 しかし、北川にそのことをたずねるとこう語った。

「でも、試合に出ている以上それは関係ない。ポジションはあってないようなものだと思うし、この世界で自分がもっと上に行くためだったり、この代表で結果を残すためにはそういうこと(違う役割でプレーする)も必要だと思っている。

 自分の幅を広げる意味でも必要なので、このポジションで試合に出ている以上はそんな言い訳はできない。自分のためにもならない。プレーのところで言われる分には仕方がない。そういう世界でやってるので。だから、結果しかない」

 準決勝、決勝と出番はなく、結局北川のアジアカップは5試合無得点という結果に終わった。

 日本代表は、シビアに結果が求められる世界だ。北川がアジアカップで得た経験は大きなものであるはず。FWにはケガなどの理由で招集できなかった選手もおり、トップ下のポジションには南野の他にも新天地で評価を高める香川真司、アジアカップでは招集が見送られたものの構想に入っていると見られる鎌田大地など、タイプは異なるがポジションの重なる候補もひしめく。

 北川がここから代表に定着して行くには、目に見える結果に加え、確かな成長を認めさせる「前線での存在感」が求められるだろう。再び、清水で勝負のシーズンが始まる。

Photos: Getty Images, Takahiro Fujii
Edition: Daisuke Sawayama

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北川航也日本代表清水エスパルス

Profile

河治 良幸

『エル・ゴラッソ』創刊に携わり日本代表を担当。Jリーグから欧州に代表戦まで、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。セガ『WCCF』選手カードを手がけ、後継の『FOOTISTA』ではJリーグ選手を担当。『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(小社刊)など著書多数。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才能”」に監修として参加。タグマにてサッカー専用サイト【KAWAJIうぉっち】を運営中。

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