偉大なゲームの条件とは?パリSG対バイエルン、9ゴールが示した“個が支配する時代”
新・戦術リストランテ VOL.116
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第116回は、パリSG対バイエルン。この試合は“偉大なゲーム”の条件を満たしていた。ハイプレス全盛の時代において、それを無効化する「個」の優位性が露になった一戦。なぜ9ゴールは必然だったのか――戦術の次なるフェーズを示した90分を読み解く。
偉大なゲームはなぜ生まれるのか
史上最も偉大だった試合について、かつて英国『ワールドサッカー』誌の主筆だったエリック・バッティさんは「ハンガリー対ウルグアイ」と生前に話していました。1954年W杯の準決勝です。2-2で延長、ハンガリーが4-2で勝っています。
なぜこの試合なのかというと「どちらのチームも偉大だったから」でした。
一方のチームがとてつもなく素晴らしい偉大なゲームはけっこうあります。
CLの前身であるUEFAチャンピオンズカップでは1959-60シーズンのレアル・マドリー対フランクフルト(7-3)が白眉とされています。スコットランドのハムデンパークで行われた決勝ですね。ディ・ステファノ3得点、プスカシュ4得点の伝説的試合です。
1970年W杯のブラジル4-1イタリアもそうですね。ペレ、トスタン、ジャイルジーニョ、リベリーノのアタックラインがカテナッチョを粉砕した一戦でした。
08-09、そして10-11シーズンのバルセロナ対マンチェスター・ユナイテッドも印象的でした。黄金時代のバルセロナを象徴する2試合。ユナイテッドのファーガソン監督は「彼らは一晩中でもパスを回し続けるだろう」と脱帽していました。
これらの偉大なゲームはいずれも決勝戦です。舞台装置は重要。それからすると、パリSG対バイエルンは準決勝で、しかも第1レグに過ぎません。ただ、クオリティと時代性からすると偉大な試合でした。スイスW杯の準決勝のように、どちらのチームも素晴らしかったゲームです。
スコアは5-4。合わせて9ゴールの稀な展開ですが、決して大味な試合ではありません。どちらも強烈なマンマークによるプレッシングを実行していて、守備が緩かったわけではない。それを上回る個を両チームとも有していたのが、この一戦のポイントです。
9ゴールの内訳はPKが2点(ケイン、デンベレ)、セットプレーからのヘディングが2点(ジョアン・ネベス、ウパメカノ)、カウンターからのカットインシュート2点(クバラツヘリア、デンベレ)、個人技による中央から2点(オリーセ、ルイス・ディアス)、そしてクロスボールから1点(クバラツヘリア)。
9点なので様々な形のゴールがありますが、現代サッカーで重要な得点パターンの詰め合わせになっています。
マンマーク時代のパラドックス
マンマークによるハイプレスは現代サッカーの正義です。相手のビルドアップを阻止するだけでなく、守備をもって攻撃する効果はほぼすべての指導者を魅了し、多くのチームがこれをいかに行うかに全力を傾けているのが現状かと思います。
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。
