【バルディ分析】未完成の“レッドブル化”(後編):ガウル広島、守備を崩す「分断」と“−1プレス”の誤算
レナート・バルディのJクラブ徹底解析#16
サンフレッチェ広島(後編)
『モダンサッカーの教科書』シリーズの共著者としてfootballistaの読者にはおなじみのレナート・バルディ。ボローニャ、ミランなどセリエAクラブとイタリア代表のアナリスト兼コーチを歴任し、FIGC(イタリアサッカー連盟)ではアナリスト講座の講師を任されている。現在はクラブ・イタリアのマッチアナリストを務める「分析のプロ」の目で、Jリーグ注目クラブの戦術フレームワークを徹底的に解析してもらおう。
第15&16回は、38歳のドイツ人監督バルトシュ・ガウル率いるサンフレッチェ広島を取り上げる。新体制で導入された“レッドブル化”は、Jリーグという文脈の中でどのように機能しているのか。前編では攻撃とビルドアップを分析したが、後編では守備局面に焦点を当て、その“誤作動”の構造を解き明かす(本文中の数字は4月3日の取材時点)。
機能しないプレッシング、“−1”設計の限界
――ボール非保持局面に移りましょう。ネガティブトランジションに関しては、前編で見た通り、いったんポゼッションを確立した後はしばしば即時奪回に成功している一方で、後方からダイレクトに入れたロングフィードのセカンドボールを回収できなかった時にカウンターを喫する頻度が高いという問題点もありました。相手のビルドアップに対するプレッシングはどうでしょう。
「ゴールキックに対しても、オープンプレーのビルドアップに対しても、マンツーマンで強く出て行くのかと思っていましたが、少し違いました。前線は相手より1人少ない数的不利でのプレッシャー、その1人が当初は中盤で数的優位を作って中央のパスコースを遮断するために使われ、トリガーがあれば前に飛び出して同数でハイプレスを仕掛けて行くという形でした。
ただ、そこで何が起きたかというと、3+2で組み立てる神戸に対して、広島は実質3+1でプレスに行っていました。数的不利なので必ず誰かがフリーになり、そこから中央にパスを通される結果になることが多かった。本来ならば、ビルドアップを外に誘導し、そこで数を合わせて強くプレッシャーをかけボールを奪いたいのでしょうが、そういう狙った形は作れず、むしろ中央からプレッシャーラインを越えられていました。
アグレッシブに前に出て高い位置でボールを奪いたいチームではあるので、ミドルブロックを作って受動的に振る舞うわけではなく、前に向かってプレッシャーをかけて行くことに変わりはありません。ただそれを徹底してマンツーマンハイプレスに出るわけではなく、結果的にはプレスを外されて前進を許している。広島のプレッシングには何かが欠けているように見えました。特に効果的とは言えなかったのは確かです」
――神戸の3バックに対して同数でハイプレス、というわけではなかった。
「CFの木下がビルドアップの方向を限定し、2シャドーは2ボランチへのパスコースを遮断して、そこからボールサイドの選手が前に出て行くという仕組みに見えました。ただ、その流れの中で2ボランチのどちらかがフリーで受けて前を向くので、そこで広島は後退を強いられてしまう。前3人のスライドや飛び出しがうまく行かないので、時には中央のCBを見失ったり、とりわけ左シャドーの中村は、ボールが逆サイドに動く時にうまくパスコースをカバーできていませんでした。
同数ではなく-1でプレスする時には、ボールをうまくサイドに追い込めないと中央で苦しむことになります。カバーすべきスペースが多過ぎるからです。これが選択だったのか、あるいは単に機能しなかったのかはわかりませんが、このプレッシングは非効率に見えました。原則として同数を受け入れて守るチームなので、プレッシングでももっとダイレクトにマンツーマンで行くことを期待していました」
――中盤で数的優位を作っているのはボランチの川辺ですよね。2ライン間で中央のスペースを見る役割でしょうか。
「はい。本来なら、そこから前に飛び出すかどうかを判断して動く役割だと思います。しかし陣形が間延びして距離感が保たれていなかったり、とりわけ外にボールを誘導できなかったために、川辺は常にどっちつかずの場所で浮いていることになり、数を合わせに行こうにもスペースが大き過ぎて時間が足りず、結局は最終ラインと一緒に後退するしかなくなっていました」
――配置的には[5-1-3-1]みたいな形になっている?
「左右のWBはもう少し高い位置にいることもありますが、やはりプレッシャーをかけ切れずに後退することが少なくありませんでした。前の4人、つまり1トップ2シャドー(または2トップ+トップ下)と松本がボールをうまくサイドに誘導できた時には、そこで強く前に出てボールを奪うことができる。そういう場面もありました。
前線は数的不利でプレッシャーをかけ、中盤で数的優位を作ること自体は、面白いアイディアだと思います。状況に応じて前に出ることもできるし、セカンドボールに対して後ろをカバーすることもできる。ただそれは、ボールをサイドに誘導できることが条件です。CBから中央のボランチに通させず、SBかWBに開かせなければならない。それができなければ、ビルドアップに優れた相手に対して、1人少ないプレッシングでそれを抑えるのは難しい」
非効率なハイプレス。「設計」と「実装」のズレが生む空洞
――戦術が間違っているわけではなく、その実装がまだ不完全だということですね。
……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
