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CL16強にみるキックオフ戦術の進化。“ドカンと蹴る”14チームの典型と奇策、ラグビー式がサッカーを変える?

2026.03.28

サッカーを笑え #63

セットプレーの重要性が叫ばれる中、昨季のCLやクラブW杯でパリ・サンジェルマンが披露したことでも話題となった、“繋ぐ”ではなく“蹴る”キックオフ。その目的は? 手法は? 効果は? 欧州最高峰の舞台では何が行われているのか、調査してみた。

 トレンドにはリバイバルというものがある。昔の流行が一回りして最新の流行になる。戦術も同じだ。原始的だと思われていたものが最新トレンドになったりする。

 その最たるものがキックオフ時のドカンと蹴るである。小学生を指導していた時にうちの戦術がこれだった。左右対称に並べず一方のサイドに選手を集めておいて、セントラルMFかGKに大きく蹴らせる。まるでラグビーのようだったが、ややこしいことを言っても頭に入らない小学生たちにはこのキック&ゴーのシンプルさが都合が良かった。同じことをバルセロナ監督時代のシャビ・エルナンデスがやっているのを見た時には驚いた。ポゼッションを維持するために後ろから繋ぐがスペインでは常識で、ドカンと蹴るのはポゼッション放棄に等しかったから。「大急ぎで蹴ったボールは大急ぎで返って来る」(ファンマ・リージョ)。ましてやバルセロナなのだ。

 とはいえ、あの驚きは今はない。もう、みんな蹴っている。

 小学生世代とは対照的なゴージャスでテクニカルでタクティカルなCLの舞台で、どのくらい蹴っているか? 先日の決勝トーナメント1回戦(ラウンド16)16試合をサンプルに調査してみることにした。

キックオフの基礎知識

 最初に、キックオフについて初歩的な質問です。

 キックオフ直前、右側にGKを除く10人が芝目4つ分に広がったチームがあり、左側に2つ分に広がったチームがあります。どっちが攻撃側でしょうか?

 正解は……、そう左側だ。敵陣に攻め込む方がコンパクトで、攻撃を受け止める守備側の方が懐深く待っている。欧州最高峰の標準は、攻撃側芝目2つ分、守備側同3、4つ分だった。

 次に、敵陣に入るのにロングキックを使うチームとショートパスで繋いでくるチームの配置上の最大の違いは何でしょうか?

 左右対称か否か、だ。一般に、繋いでくるチームは(ほぼ)左右対称に選手を配置し、蹴ってくるチームはどちらか片側に選手を集める。こんな感じに。

■ボデ・グリムト対スポルティング
 スポルティング後半キックオフ:自陣ショートパス

 このスポルティングの配置が自陣で繋いでくるチームの典型。左右に同数が並んでいる。もう一つの特徴はセンターラインにバックパスを受ける選手(④)がいる。ロングキックの場合、キッカーはGKなので、センターレーンは空けてある。

 このショートパスのバリエーションにこんなのもあった。

■レアル・マドリー対マンチェスター・シティ
 マンチェスター・シティ「1-0」後:ドリブル持ち上がり

 これはマンチェスター・シティのキックオフ。左右対称の並びでセンターラインにロドリ(⑦)がいる。バックパスを受けたロドリが自分で持ち上がって敵陣に入り、左右に展開というパターン。シティのキックオフは第1レグ、第2レグを通じてこれ一本鎗で、グアルディオラのチームとしては戦術的な乏しさを感じさせた。もっとも、レアル・マドリーは特に対策してこず、ロドリは高い確率で敵陣に持ち込めていたので、他のオプションは必要なかったのかもしれない。

 ここで、本稿全体についてお断りを。

 得点後のキックオフはテレビ中継ではちゃんと映さないので、未確認もかなりあった。得点シーンのスロー再生中に審判がキックオフの笛を吹いてしまうとか。視聴者にとってはキックオフよりもゴールの方が大事なのでしょうがない。よって、本稿の「一本鎗」などの定数的な表現にはすべて「確認できた範囲では」というただし書きが入る。また、未確認があるせいで「〇%がロングキックだった」という定数的な比較もできなかった。

 話を戻す。

 次に、こちらは蹴ってくるチームの典型的な並び。

■ニューカッスル対バルセロナ
 バルセロナ前半キックオフ:ロングキック

……

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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