JリーグはPK戦で何を試しているのか?エンタメとW杯対策の交差点(前編)
【特集】“もう一つのサッカー”PK戦の深層#1
90分で決着がつかなくても、試合は終わらない――2026年の百年構想リーグでJリーグは、リーグ戦としては異例のPK戦導入に踏み切った。W杯過去2大会で日本のベスト8を阻んだ壁。それがPK戦だった。Jリーグの日常に新たな景色が加わったこのタイミングで、“もう一つのサッカー”とも言えるPK戦の深層を多角的に考える。
第1&2回は、Jリーグフットボール本部フットボール企画部長の吉川光敏氏に、JリーグはなぜPK戦を導入したのか、その理由を聞いた。前編では競技性、マーケティング、クラブ経営という3つの観点から検討された大会設計の中で、日本代表のW杯敗退、育成年代の経験値、勝ち点制度の再設計といったテーマが交差したPK戦導入の舞台裏に迫る。
百年構想リーグを設計した「3つの観点」
――早速ですが、現在行われている百年構想リーグで、なぜPK戦を導入したのか。その理由についてお話いただけますか?
「まず、この2026年はシーズン移行という大きな変革を迎える非常に重要な年です。それにあたって、このハーフシーズンをどういった大会にするのか。『特別なシーズンだからこそできる、特別な大会にしよう』ということで、Jリーグ内部だけでなく、クラブや各種ステークホルダーとも『3つの観点』で議論を進めてきました。
1つ目がフットボールの観点です。このハーフシーズンを特別な大会にしたいとはいえ、通常のリーグ戦と同じ強度を保って試合が行われるよう、どう設計するのか。
2つ目はファン・サポーターにどう楽しんでもらえるのか、というマーケティング的な観点です。試合の強度を保ちながらも、通常のシーズンとは違った楽しみ方をどのようにしてもらえるのか、というところです。
3つ目は、クラブ経営の観点です。通常のシーズンと同じような経営基盤で、このハーフシーズンを終えられるのか。こうした観点に基づいて、議論しました」
――一緒に議論をした「各種ステークホルダー」というのは、具体的にどのような方々ですか?
「放映権者、パートナー企業、クラブや選手も含めてですね。クラブは社長の皆様から強化、マーケティング他各担当者が集まり、分科会というものを開いて、それぞれの担当者とディスカッションを進めてきました。そうした中で今回はPK戦という案が出て、それについて深く掘り下げた結果、この百年構想リーグで行うことを決定した、という流れです」

特別大会としてのレギュレーションとW杯対策
――それはなぜでしょう?
「なぜPK戦になったのかですが、前提として、このような特別な大会のフォーマットは目新しいものではなく、1993年にJリーグが開幕する前年、1992年に開催されたヤマザキナビスコカップも、通常のリーグ戦とは異なるレギュレーションで行われていました。それは2得点を挙げるごとに、勝敗にかかわらず勝ち点1が追加される、という特別なルールも含まれます。そういった過去の特別な大会の在り方も念頭に置きながら、議論し、今回は2つの視点でPK戦を導入するに至りました。
1つは先ほどの通り、特別な大会ならではのレギュレーションを考えようという視点です。PK戦はサッカーの一部なのか、という議論はあるものの、お客さんにとっては通常のリーグ戦にはない楽しみ方ができるのではないか、という考えです。
もう1つの視点は、このハーフシーズンはW杯の直前に行われるということです。過去2大会(2010年南アフリカ、2022年カタール)で、日本代表はPK戦でW杯を敗退するという悔しい思いをしております。統計的に見ると、W杯の決勝ラウンドでは3試合に1回くらいPK戦が行われており、さらに今大会はベスト32からノックアウトステージに入ります。今まではグループステージを突破した後、1回勝てばベスト8へ行けましたが、今回からは2回勝たなければベスト8へたどり着けない。
そうした中で、Jリーグとして何か貢献できることはないかと。PK戦をリーグ戦に取り入れることで、『しっかりPK戦でも勝っていこう』という空気感を日本全体に作っていく。もちろん、Jリーグから日本代表選手が選ばれてW杯でPK戦の場に立った時、そこで結果を出すこともそうですが、公式戦で訓練できる場を設けることで、Jリーグとして意識作りを含めて1%でも貢献していこう、という視点で考えてきました」

「W杯で勝つために1%でも」PK戦という発想
――なるほど。日本代表は欧州組が多いから、Jリーグから選ばれてPK戦の場に立つ選手がいるかどうかはわかりません。もしかすると、ゼロ人かもしれません。ただ、それはPK戦に対する人々の空気作りを含めて、1%でも、という考え方だったんですね。
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Profile
清水 英斗
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』『日本サッカーを強くする観戦力 決定力は誤解されている』『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。
