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問題は才能ではなくシステムだ――アタランタ育成責任者が語るイタリア停滞の構造(前編)

2026.02.25

【特集】イタリア代表はなぜ、弱くなったのか?#4

W杯4度の優勝を誇るイタリアが、2大会連続で出場できず、北中米W杯予選でも再びプレーオフに回ることになった。だが、より深刻なのは結果そのものではない。バッジョ、トッティ、デル・ピエーロといった天才を輩出してきた「タレント大国」から、世界を驚かせる選手がほとんど生まれなくなっているという事実だ。少子化、外国人枠、若手の出場機会減――説明は出尽くした。しかし、どれも決定打にはなっていない。本特集では、成功している国ではなく、失敗している国の内側にこそ学ぶべきものがあるという視点から、イタリアサッカーが直面している問題点を検証する。

第4、5回は育成の最前線から構造を見つめる証言である。「問題は才能ではなくシステムだ」――そう断言するのは、インテルとアタランタで育成の最前線に立ち続けてきたロベルト・サマデンだ。イタリア育成の停滞は、なぜ10年間変わらないのか。内部に身を置いてきた当事者が語る、構造の病理。

10年前と同じ議論をしている

――前回話を聞かせていただいたのは、まだインテルにいらした2016年の末でしたから、もう10年近くが過ぎました。あの時にもイタリアサッカーの衰退、とりわけワールドクラスのタレントが輩出できなくなったというテーマで、様々な角度から問題を掘り下げましたが、その多くは10年を経た今もなお、大きく変わらないまま残っているという印象があります。この10年の間にイタリア代表は2回続けてW杯の出場権を逃し、バロンドール候補の30人にほんの1~2人しか送り込めない状況が続いています。その間もインテル、そしてアタランタという、育成に関してはイタリアでもトップクラスの成果を残しているクラブの現場を取り仕切ってきた当事者としての立場から、現状と展望についてあらためて話を聞かせていただければと思っています。

 「もし今もまだ、10年前と同じことについて話しているとしたら、イタリアサッカー、そしてその基盤であるユースサッカーの現状は、ポジティブであるとは言えない。それは明らかです。もちろん、それぞれの立場で大きな努力はなされてきた。例えばFIGCの中では、ミケーレ・ウーバ、デメトリオ・アルベルティーニといった、新しいプロジェクトを立ち上げ、新しいアイディアを前に進めようとしてきた人たちの名前を挙げることができます。しかし、システム全体のレベルでは、ほとんど何も変わっていないままです。若手の台頭はより難しくなっているし、そもそもそれ以前に若手の絶対数そのものが減少の一途をたどっている。それが現実です。システムの内部に身を置き、そこで仕事をしてきた私の立場から確信を持って言えるのは、変革に取り組んだ人々に対しては大きな敬意を払っていますが、実際になされてきたことは少なく、明らかに不十分だということです」

成果を出す他競技、変われないサッカー

――サッカー界に必要なのは、システムの変革なのでしょうか?

 「かつて同じような状況に陥っていた他のスポーツでは、具体的な成果がありました。イタリアテニス連盟(FITP)では、2010年にアンジェロ・ビナーギ会長の下で、指導者育成、学校教育へのテニス導入を含む普及活動などを計画して積極的に投資し、近年その成果がはっきりと出ています。男女とも世界一になったバレーボールでも同様です。しかしサッカー界では今なお、タレントは自然発生的に生まれるものだと考えており、もはや実態のないモデルにしがみついています。

 その間に他の国々では、サッカー連盟が積極的に介入して、新たな育成のモデルに投資し発展させることで、長期的な視点から若手の育て方そのものを変えようとしてきました。まず思い浮かぶのはドイツですが、ベルギーや他の多くの国々も同様です。彼らは10年、15年前に始めた取り組みの成果を今収穫しています。しかしここでは今も、これはこの国の一般的な特徴でもあるのですが、今日と明日に何が起こるかだけを心配している。私を含めて誰もがイタリアがW杯に出場することを望んでいますが、もし出場できたとしても、それがイタリアサッカーの未来を保証するわけではありません。育成年代のサッカーが良くなるわけでもない。私はむしろ、少しでも早く重要な介入を行わない限り、状況は良くなるのではなくむしろ悪化していく運命にあると確信しています。今、ヨーロッパの他の国々とユースサッカーのレベルを比較すれば、イタリアは大きく遅れていると言わざるを得ません。育成年代の代表は素晴らしい結果を残していますが、それはマウリツィオ・ビシディをはじめプロジェクトを前に進めてきた人々の仕事のおかげであって、選手の質のおかげではありません。

 子供のサッカー人口自体が年々少なくなっているだけでなく、質や才能の点でも見劣りする。わずかに存在するタレントの能力を十分に引き出して上げることすら、できていないかもしれません。私たちアタランタや他のいくつかのクラブがセカンドチームを通して試みているような取り組みがいくつかあるにしても、全体として見れば結果至上主義があまりにも蔓延しており、しかも上位のプロクラブでそれがさらに顕著になっているがゆえに、数少ない才能も伸ばすことができないまま失ってしまうことすらある。タレントの絶対数が少なくなってきている上に、彼らの一部を失っている、そしてこの状況はこのままだとさらに悪化して行く運命にある。これが、このシステムの内部で仕事をしてきた私の経験から来る実感であり、正しい分析だと信じています」

――育成の名門であるアタランタも状況は同じなのでしょうか?

 「もちろん、ここアタランタのように、先見的なオーナーが確信を持って投資を続け、成果を挙げている『幸福な島』は存在します。しかし、そうしたいくつかの先進的なクラブにしても、イタリアサッカー全体のシステムが生み出す中からタレントを汲み上げています。そのシステム全体が劣化を続けている以上、アタランタのように育成の可能性を信じて積極的に投資を続けているクラブでさえ、代表に送り込めるようなトップレベルのタレントを見出すことはますます難しくなっていくでしょう。悲観的かもしれませんが、これはサッカーを愛し、育成の現場を知り、現実を直視して分析する意思を持った人々の間では、かなり広く共有されている見方です。

 確かに、U-17とU-19代表が欧州選手権に勝ったことは事実です。それを根拠に、4~5年後にはA代表にヨーロッパ最高のタレントが揃うと言い張ることもできるかもしれませんが、それは違います。彼らが結果を出したのは戦略や戦術、監督の手腕のおかげであり、選手のクオリティによってではありません。そちらに目を向けると、例えばここロンバルディア州とほとんど面積が変わらず、人口ではむしろ少ないベルギーにも届かない。彼らは学校にスポーツを導入して底辺を広げ、プロクラブの育成部門への投資を促す仕組みを作ってきました。それが10年単位の時間を経て成果につながっている。イタリアはそこから大きく引き離されています」

――問題は10年前から明らかであり、それが認識されているにもかかわらず、必要な変化が起こっていないとしたら、その確実に必要とされている変化を妨げているものは何なのでしょう?

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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