Jクラブ若手起用のヒントは千葉の姫野誠にある。ロジャー・シュミット(Jリーググローバルフットボールアドバイザー)インタビュー後編
世界から見たJリーグ#7
日本人選手の欧州移籍はすっかり日常となり、Jリーグ側もロンドンに拠点を置いたJ.LEAGUE Europeを設立するなど、Jリーグと欧州サッカーの距離は年々近くなっている。互いの理解が進む中で、世界→Jリーグはどう見えているのだろうか? 戦術、経営、データなど多様な側面から分析してもらおう。
第6&7回は昨年10月にJリーグのグローバルフットボールアドバイザーへ就任したロジャー・シュミット氏のロングインタビューを前後編に分けてお届け。後編では、Jリーグの長所と短所から、ガンバ大阪の新監督に就任した元右腕のイェンス・ヴィッシング氏への期待に、ベンフィカの育成哲学から得た学びまで幅広く語ってもらった。
Jリーグは「チームとしての意図や構造が見えてこない時がある」
――あなたの目にはJリーグにどんな長所と短所があるように映りましたか?
「まず長所として挙げられるのは、Jリーグを観ていていつも感じているデュエルやプレッシャーといった試合の強度ですね。特にスタジアムへ足を運ぶと、実力が拮抗しているのもあってか、選手たちは常に勝利を目指して最後まで全力を尽くしている様子がよくわかります。先日のJ1昇格プレーオフが好例でしょう。RB大宮を相手に(ジェフユナイテッド)千葉が0-3から大逆転を収めたあの展開が1つの象徴で、千葉のサポーターも応援を絶やすことなくクラブ一丸となって勝利をつかみとっていました。そして徳島(ヴォルティス)との決勝でも、千葉は引き分けでも突破できましたが、それでも試合を支配しようとしていた。そうした受け身に回らないサッカーにも好感を持てましたね。両試合ともにクオリティは高く、欧州の2部リーグではなかなか見られないレベルでした。レギュラーシーズンでも1部から3部まで、最終節で優勝が決まるほど競争性が高いリーグは世界を見渡してもなかなかないはずです。
短所に目を移すと、時にどのようなサッカーを実現したいのかというスタイルがやや伝わってこないことでしょうか。特に厳しい展開や時間帯になると、ロングボールを多用しすぎてセカンドボールの応酬になってしまいがちな印象です。もちろん私もあえて敵陣に蹴り込んで陣地を回復しながら、ボールを持たせた相手にハイプレスをかけることはありましたが、そういうチームとしての意図や構造が見えてこない時があります。特にプレッシャーを受けた状況でのプレーに、意欲や勇気が足りていないチームが見受けられましたね」
――そこを極めたのが柏レイソルで、2024シーズンはJ1で残留争いに巻き込まれていましたが、2025シーズンはリカルド・ロドリゲス新監督の下でビルドアップやポゼッションを強化して、最終節まで優勝争いを演じました。
「欧州だと例えばブンデスリーガではバイエルン、リーガではバルセロナ、レアル・マドリー、アトレティコ・マドリー、リーグ1ではパリ・サンジェルマン、ポルトガルリーグではポルト、スポルティング、ベンフィカと、資金力や戦力が抜きん出ているチームの1~3強体制となっていますよね。ところが、J1は全体的に拮抗している。より僅かな差の中で争っているからこそ、いっそうチームカラーがモノを言いやすいと考えています。個人の力では限界がありますが、基準となるスタイルを打ち出して組織としての力を上積みしていけば、違いを生み出し続けられますからね。そのためには、あらゆる局面において、どんなサッカーがしたいのかを追求しなければならない。日本ではハイプレスの質問ばかり受けますが、私がチームに求めているのはそれだけではありません。ポゼッションにも明確なアイディアがあるんです。どれだけボールを奪えても、すぐにまたそれを失ってしまっては意味がない。どちらも表裏一体で試合を支配するには両立が不可欠だからです。あとはそれをいかにアドバイス、トレーニング、ビデオ、ミーティングで選手一人ひとりに落とし込んでいけるかどうか。そこでは単純さを重視しなければいけないのが難しいところではあります。物事を複雑にしすぎると選手が足並みをそろえにくくなってしまったり、創造性や個性を出しにくくなってしまったりするからですね」
――そこをJリーグとして改善していくために、どのようなアドバイスをしているのでしょう?
「そのために私たちはノウハウを共有しています。U-16 Jリーグ選抜を指導したのもその目的で、私が欧州クラブで1週間を通じてどのような練習のメニューや内容を組み立てていたのかを記録して、若手指導者たちがいつでも振り返れるようにする資料を作っていく狙いでした。私自身も指導者キャリアを歩み始めた当初はロールモデルがおらず、他の同業者がどのようにチームを指導・管理しているのか、あまりよく知らなかったんです。全部をゼロから始めなければいけなかったので、とにかく情報を集めては実践して失敗して……と苦労しました。そういう試行錯誤も財産になりますが、先人の知恵は蓄積されて未来のサッカーに生かされていくべきなので、よろこんで若手指導者に私の方法論を還元しています。彼らはまだトップチームの監督ではなく育成現場を受け持っているような立場ですが、そこでも自分たちのスタイルを貫くことは大切になってくると考えていますから、なおさらです。私の経験上、都度やり方を変えてしまうと選手たちは混乱してのびのびとプレーできなくなってしまう。そのうち何が良くて何が悪かったのか、何が長所で何が短所なのかがわからなくなってしまうんです。それはアマチュアからプロまで、どの指導でも変わりませんでした。特にJクラブユースの選手はややプレースタイルが似通っている印象を受けましたが、その多様性を育むには指導者の多様性が不可欠なので、それを高めていく上でも役に立てばうれしいですね」
――時を同じくしてあなたの元アシスタントコーチであるイェンス・ヴィッシング氏がガンバ大阪の監督に就任されましたが、今も連絡を取り合ったりしているんですか?
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Profile
足立 真俊
岐阜県出身。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集の経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。X:@fantaglandista
