鬼のシャビ・アロンソの失敗と仏のアルベロアの成功──「レアル・マドリー監督」とは何か
サッカーを笑え #60
1月12日の監督交代から2週間。新体制の初陣こそ落としたものの、その後は10得点1失点で公式戦3連勝とレアル・マドリーが復調を遂げている。シャビ・アロンソとアルベロアの考え方の違い、“鬼の戦術家”から解放された選手たちの変化に見る、このクラブで成功する監督像とは?
「選手の特徴に逆らうわけにはいかない」
監督アルバロ・アルベロアが評価を上げている。
初采配で2部で残留争いをするアルバセーテに敗れて(3-2)コパ・デルレイに敗退した時はどうなることかと思ったが、サンティアゴ・ベルナベウでの大ブーイングに耐えてレバンテに勝利(2-0)、CLでモナコ相手にゴールショーを見せ(6-1)、強敵ビジャレアルを敵地で退けた(0-2)。
大きな変化は選手たちが走っていることだ。『エル・パイス』紙の報道(1月21日付)によると、モナコ戦でのプレス回数は258で、これはジダン第二次政権下の2019年CLパリ・サンジェルマン戦の297以来の高い水準だった。シャビ・アロンソ時代の最高は昨年最後のセビージャ戦の216で、最悪はその2週間前のホームで大ブーイングが起きたセルタ戦の96。“笛吹けど踊らず”という状態に前監督の限界を感じた者も少なくなかった。
なぜアルベロアの笛では踊れて、シャビ・アロンソの笛では踊れなかったのか?
監督キャリアの差ではないことは明らかだ。レバークーゼン時代に3冠を獲得している後者に対して、前者はプロチーム(1部、2部)を指導した経験がなく、今季3部リーグのBチーム(レアル・マドリー・カスティージャ)を任されたが、目標の昇格には届きそうもない凡庸な成績を残しただけ。なのに、アルベロアの言うことは聞け、シャビ・アロンソの言うことは聞けなかった。
謎を解くカギは、新監督の「選手の特徴に逆らうわけにはいかない」という言葉にありそうだ。ここで言う「特徴」とは「カウンター特性」のこと。「我われにはスペースを支配しフィニッシュも正確な選手がいる。我われが違いを作れるのはそこだ」(アルベロア)。前にスペースがある時に力を発揮できる選手とは、スピードがあってドリブル突破が得意なビニシウスとムバッペのことであることは疑いがない。戦術的にはカウンター、より正確に言えばロングカウンターに舵を切ったということだろう。となると、シャビ・アロンソが防ごうとしたラインが下がる、というネガティブな状況が、新監督にとってはポジティブとは言えないまでも、前にスペースがあるカウンターのしやすいネガティブなだけではない状況に変わる。
この新旧監督の考え方の差がビニシウスの扱いに集約されている。
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。
