2025年、失われたマドリディスモ。シャビ・アロンソの権威喪失、会長の陰謀論、ビニシウスの被害者意識とともに
サッカーを笑え #58
「紳士たれ」はもはや過去の遺物なのか? 公式戦25試合を18勝3分4敗で終えた2025-26シーズン前半戦。そのシャビ・アロンソ体制半年ではっきり見えたレアル・マドリーの変化について。
エンブレムのために汗を惜しまない、はずだった
2025年が終わろうとしている今(本稿執筆現在)、暗い気持ちをぬぐうことができない。レアル・マドリーは変わってしまった。もう、かつての姿はない。
年内の最終試合セビージャ戦では、サンティアゴ・ベルナベウの観客からとうとうブーイングが起きた。試合開始から押し込まれピンチの連続。ベリンガムのヘディングシュートで先制後、相手に退場者が出て10人になったのにシュートを撃たれ続けた。ムバッペとビニシウスがボールを追わず下がらない→以降の数的不利で後退するしかない、といういつもの流れだった。
シャビ・アロンソの権威喪失がはっきり見えた。
ベンチで両手を狭めて“コンパクトに”と、お決まりのジェスチャーをしていたが、もう選手の一部は彼の指示に従っていない。クラシコでの交代に下品な言葉で異を唱えたビニシウスに、監督もクラブも罰を与えなかったツケが回って来ているのだった。
クラブの価値、「マドリディスモ」も失われた。
エンブレムのために汗を惜しまない、というのはファンとの最後の約束のはずだった。常勝を義務付けられたクラブであるが、ゲームなんだから敗れることもある。サンティアゴ・ベルナベウの賢明なファンは敗戦を許すことを知っている。だが、努力を惜しむことは決して許さない、と伝説のゴールゲッター、エミリオ・ブトラゲーニョ(現組織統括ディレクター)は言っていた。あのブーイングは、ピンチを招いているにもかかわらず軽いジョギングで帰陣するムバッペとビニシウスの姿が、勝利のために全力を尽くしているようにとても見えなかったゆえのものだった。クリスマス・年末休暇が待っていてエネルギーを出し惜しみする理由はなかった。なのに、走ろうとしなかった。
シャビ・アロンソは1点のリードを守るためにたまらずビニシウスを下げた。ファンはさらなるブーイングで応えた。ビニシウスはうんうんとうなずきながら大人しく下がったが、試合が終わるとさっそくInstagramのプロフィール写真をレアル・マドリーのシャツ姿からブラジル代表のそれに変えた。
「忠誠心」という言葉にはすでにネガティブなイメージが付いているが、死語となるのも遠い未来ではないだろう。好待遇を求めて選手はシャツの色を変え、補強の名目で下部組織出身者がためらいなく放出される時代となって久しい。社会と同じである。今の会社員の忠誠心はかつての会社員のそれとは比べものにならない。
レアル・マドリーは文句を言わない、はずだった
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。
