ゴール期待値の常識を覆す「上振れ」の正体。なぜアストンビラはミドルシュートの得点が多いのか?
プレミアリーグ第11節から第18節にかけて破竹の8連勝を飾り、第14節以降は3位を堅持しているアストンビラ。第21節時点で2位マンチェスター・シティと並ぶ勝ち点43を稼ぎ出した理由の1つである、ゴール期待値の常識を覆す「上振れ」の正体を、Xで「AVFC Japan」として日本のサポーター向けに同クラブの情報を発信している安洋一郎氏と探ってみよう。
データ化が進むサッカー界において、チャンスの質を表す1つの指標である「ゴール期待値(xG)」という言葉は完全に一般化したと言えるだろう。試合中継やSNSでも頻繫に取り上げられる機会が増え、2016年にfootballistaが紹介した当時との比較では明らかに認知度が広まっている。
ゴール期待値の詳細を知らない方に向けて説明すると、この指標はあるシュートが得点に結びつく確率を「0~1」の尺度で測定したものである。開発したデータ会社『Opta』によると、ゴールまでの「距離」や「角度」「相手GKのポジション」「相手DFのプレッシャーの度合い」「シュートを放った部位(利き足かどうかや頭)」「プレーパターン」などを、過去の膨大な統計に基づいて算出している。
この目安が誕生したことで、今までは「シュート本数」や「決定率」などと違って可視化することが困難だった「チャンスの質」を数値化することが可能となった。各リーグで上位争いをするようなチームは、軒並み多くのチャンスを作っていることからゴール期待値が高い。データサイト『FotMob』が掲載するxGを基にした第21節終了時点でのプレミアリーグの順位表を確認すると、首位アーセナルと2位マンチェスター・シティは実際のテーブルと同じ順位だった。
しかし、3位のアストンビラは実際の順位で2位マンチェスター・シティと同じ勝ち点「43」を稼ぎながらも、xGを基にしたテーブルでは勝ち点「25」の15位と「現実」と「統計」の間に大きな隔たりがある。なぜ、ウナイ・エメリ監督のチームはゴール期待値が全盛の時代で、データに反した好成績を収めることができているのだろうか。
ゴール期待値は不完全だが…異常値は「上振れ」ではなく必然
アストンビラの話を進める前に、筆者のゴール期待値に対する考えを明記しておきたい。
データ分析をする上で重要なのが、特定の事象を「掘り下げること」である。例えば、ゴール期待値に基づく順位表を見た上で、実際の得点数や失点数が期待値から上回っている、もしくは下回っていることから得られる情報は、活用する側の裁量によって大きく変わってくる。
前提として、ゴール期待値は「チャンスの質」を完璧に数値化したものではないということを念頭に置く必要があるだろう。そもそもシュートに結びつかなければ加算されることはなく、実際の映像を見て、該当のシーンを把握してこそ初めて理解することができると考える。
例えば、プレミアリーグ第20節マンチェスター・シティ対チェルシー(1-1)において、90+3分にエンソ・フェルナンデスが自ら放ったシュートのこぼれ球を押し込む形で同点ゴールを決めた。この2本のシュートのゴール期待値の合算は「1.16」であり、試合を通したxG(1.85)の6割以上が1つの攻撃(起点)から生まれていることになる。
もう1つ例を挙げると、プレミアリーグ第18節チェルシー対アストンビラ(1-2)では、前半にホームチームがアウェイチームを圧倒。前半終了時点でのゴール期待値は「1.97」にも及んでいた。この「1.97」のうち、およそ半分の「0.93」が37分に生まれたジョアン・ペドロの得点である。
上記の2つの例だけでもゴール期待値に対する印象は変わるだろう。試合や映像で確認することなく、数値だけで考察や議論をすることは不可能に近いのだ。
前置きが長くなったが、アストンビラの実際の得点数がゴール期待値を「7.30」も上回っていることには理由がある。その要因の1つが、ボックス外から放たれたミドルシュートからの得点が多いことにある。
本稿執筆(1月11日)時点でアストンビラは、欧州5大リーグでは最多となる13得点をエリア外から記録している。プレミアリーグという極端にスペースが少ない環境において、このスタッツを叩き出しているのは異常値とも言えるかもしれない。ゴール期待値はシュートを放った「位置」や「角度」など、ゴールまでの距離が大きく影響されるスタッツであり、得点が決まる可能性の低さから長・中距離砲のxGは必然的に低くなる傾向にあるからだ。
データだけで見ると、いわゆる「上振れ」のように思われるかもしれないが、彼らの“遠距離攻撃”には再現性がある。複合的な理由が重なっていることで成立しているのだ。
キックを感覚から数値化へ。ミドルシュートの質が向上した秘密
今シーズンのアストンビラの特徴の1つが、2列目にモーガン・ロジャーズやジョン・マッギン、エミリアーノ・ブエンディア、ユーリ・ティーレマンスら10番タイプの選手を同時に並べることである。これは昨年12月に執筆した記事『プレミア開幕5戦未勝利→11戦10勝を支える「疑似カウンター+中央攻略」への原点回帰。3位アストンビラに学ぶ首位アーセナル攻略法』でも触れた通りで、中央に多くの人数を掛けることでプレス回避を助けている。
……
Profile
安 洋一郎
1998年生まれ、東京都出身。高校2年生の頃から『MILKサッカーアカデミー』の佐藤祐一が運営する『株式会社Lifepicture』で、サッカーのデータ分析や記事制作に従事。大学卒業と同時に独立してフリーランスのライターとして活動する。中学生の頃よりアストン・ヴィラを応援しており、クラブ公式サポーターズクラブ『AVFC Japan』を複数名で運営。プレミアリーグからEFLまでイングランドのフットボールを幅広く追っている。
