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Jリーグに伝えたい“ハイインテンシティ”とは何か?ロジャー・シュミット(Jリーググローバルフットボールアドバイザー)インタビュー前編

2026.01.30

世界から見たJリーグ#6

日本人選手の欧州移籍はすっかり日常となり、Jリーグ側もロンドンに拠点を置いたJ.LEAGUE Europeを設立するなど、Jリーグと欧州サッカーの距離は年々近くなっている。互いの理解が進む中で、世界→Jリーグはどう見えているのだろうか? 戦術、経営、データなど多様な側面から分析してもらおう。

第6&7回は昨年10月にJリーグのグローバルフットボールアドバイザーへ就任したロジャー・シュミット氏のロングインタビューを前後編に分けてお届け。前編では、監督業を中断した経緯から自身が標榜する“ハイインテンシティ”の定義に、日本人選手の欧州挑戦が増加している理由まで幅広く語ってもらった。

時代が変われど変わらぬ“ハイインテンシティ”の哲学

――まずは監督キャリアを中断してJリーグのグローバルフットボールアドバイザーに就任された経緯を教えてください。

 「20年間にわたって監督業を続けてきましたが、実はもともと私の頭の中に監督になる予定はなく、選手としてはドイツ3部止まりだったのでエンジニアとして働きながらアマチュアサッカーを楽しんでいました。そこで偶然か必然か、当時5部のデルブリュックで選手兼任監督を任されたところ、4部昇格へとチームを導くことができたため、仕事を辞めて監督業に専念することにしたんです。

 そこからトップレベルへと駆け上がって国内外問わず様々なクラブを率いることができ、CL、EL、ACLのような国際大会で計11年間指揮を執ってきましたが、とりわけ近年は日程の過密化が進み、中3日で試合をするのが当たり前のようになっていました。そうすればシーズン中は試合と回復を繰り返すことになるので、監督は慎重に選手のコンディションを管理しながらトレーニングを行わなければならない。さらにそこで修正している余裕はほぼないため、プレシーズンはフィジカル面、戦術面とあらゆる面で土台をつくり、シーズンを戦い抜けるチームを構築できるよう、より入念に準備をしなければならない期間となっています。だから監督業は年間通してとにかく気の抜けない仕事となっていて、もちろんそれだけ得られるものも多いのですが、失うものも多い。そんな責任のある立場に身を置いて60歳に近づいてきた今、より傍で家族を大切にしたいと思うようになり、当面はクラブチームの監督としては働かない決意を固めました。

 その後に来たのが(J.LEAGUE Europeの秋山)祐輔さんの連絡です。Jクラブの監督になるお誘いはお断りすることになってしまいましたが、日本サッカーとJリーグにはどんな考えがあるのか、何を発展させていかなければならないのか、私がどのように役立てるかなどの議論を進めていく中で、その熱意に動かされていきました。そうしてJリーグのプロジェクトに興味を持ち、自宅にノノさん(野々村芳和チェアマン)もお招きして話を続けていくうちに、私にとっても自分の積み重ねてきた知識や経験を日本のサッカー関係者と共有できる素晴らしい機会になると確信できたため、グローバルフットボールアドバイザーのオファーを引き受けさせていただいたという経緯です」

ロジャー・シュミットグローバルフットボールアドバイザー(Photo: Takahiro Fujii)

――その中でレッドブル・ザルツブルク、レバークーゼン、PSV、そしてベンフィカを指導されてきて、あなた自身のサッカー哲学に変化はあったのでしょうか?

 「私のサッカー哲学は“ハイインテンシティ”ですね。それこそが相手の出方や戦略にかかわらず、試合をコントロールする上で最良の手段だと考えているからです。相手にボールを保持する時間を与え、たくさん走らされることになってしまうようなサッカーは望んでいません。とにかくいち早く、より高い場所でボールを勝ち取りたい。そのためにはボールホルダーが前へ前へと相手に空間的・時間的なプレッシャーを与え続け、その1対1で抜かれたとしてすぐさま次の味方が追撃できるよう、獣の群れのごとくチームで動き続けなければなりません。そのハイプレスで敵陣からボールを狩れればすぐさま攻撃に転じられるので、守備陣形を整えている余裕がない相手から得点を奪いやすい。そうやって私の率いてきたチームでは数多くのゴールを生み出してきました。そこでシュートまでたどり着けなかったとしても、ポゼッションへ移って次の機会をうかがえばいいだけです。

 だから基本的にはインテンシティが高く、攻守の切り替えが激しいサッカーを目指しますが、もちろん時代とともに戦術は変わります。私自身も成長や経験を重ねていく中で何が効果的で、何が効果的でないかを理解して常に調整や改善に努め、同時に様々な状況に適応できる柔軟性も磨いてきたのも事実です。特に最近は5バックが浸透していて、ベンフィカ監督時代の対戦相手に顕著でした。敵陣ゴール前は常に数的不利で、相手はペナルティエリア周辺のスペースを埋めながら虎視眈々とカウンターを狙ってくる。そうなれば忍耐強さと創造性をもって、適切なタイミングで加速することで一回一回の攻撃の質を上げていくのはもちろん、その試行回数そのものを増やしながら相手に反撃のチャンスを与えない予防策も重要になってきます。必然的にどれだけボールを即時奪回して再攻撃に移れるかが正念場になってきますが、そうしたゲーゲンプレッシングを仕込むのも私にとってはお手のものなので、根本的なアイディアは変わっていません」

2022-23シーズンから2024-25シーズン序盤までの約2年にわたってベンフィカを指揮したロジャー・シュミットグローバルフットボールアドバイザー。初年度にはポルトガルリーグとポルトガルスーパー杯の2冠をもたらしていた

「フィジカルデータの数値が10~20%増えたからといって…」

――お話を聞いていて思い出したのは、バイエルンとの親善試合です。2014年に当時ペップ・グアルディオラが率いていたドイツの名門を3-0で破っていましたが、そのザルツブルク監督時代は今振り返ってみていかがですか?

……

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Profile

足立 真俊

岐阜県出身。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集の経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。X:@fantaglandista

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