ゼルビア・チャレンジング・ストーリー 第30回
町田の名を全国へ、そして世界へ轟かせんとビジョンを掲げ邁進するFC町田ゼルビア。10年以上にわたりクラブを追い続け波瀾万丈の道のりを見届けてきた郡司聡が、その挑戦の記録を紡ぐ。
第30回では、クラブの歴史が変わった天皇杯優勝の裏側にフォーカス。“96世代のビッグ2”中山雄太と相馬勇紀が背負った「使命感」、タイトル獲得により報われた薄氷の道のりの内情に焦点を当てる。
天皇杯初制覇を告げるホイッスルが鳴り響くと、選手交代でベンチに下がっていた相馬勇紀は、一目散に国立のピッチを駆け抜けて行った。その先の終着点は中山雄太。シーズン開幕前、誕生日がわずか9日違いの中山と先頭に立ってチームを引っ張ることを公言していた背番号7は、1秒でも早く優勝の喜びを共有したかったという。
「雄太とはずっとタイトルを獲ろうと細かい話もしてきました。だからこそ雄太のところへ真っ先に行ったんです」と相馬。「このエンブレムに星をつける」と明言し、町田に加入してから約1年半。開幕前の目標を有言実行で形にした相馬は、カップリフトの瞬間を「もう最高の気分です」と振り返った。
決勝の舞台で果たした大仕事
準決勝ではFC東京を延長戦の末、2-0で撃破し、王手をかけたヴィッセル神戸との決勝。“96世代のビッグ2”はそれぞれがチームを優勝に導く大仕事を果たしていた。
「僕は本番に強いタイプ」と豪語していた中山は開始6分に1アシストをマーク。前寛之とのダブルボランチを組んだ中山は相手の間隙を縫うドリブルで左サイドを切り裂くと、中山がゴール前に上げたクロスを藤尾翔太が頭で決めた。「決勝は開始15分に絶対にスコアが動く」という黒田剛監督の経験則によって導き出されたミッションを中山は忠実に遂行。電光石火の先制点は神戸の武藤嘉紀が「最初の失点が一番の敗因」と言って肩を落とすほど、相手にダメージを与えるゴールとなった。アシストの場面を中山はこう振り返る。
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Profile
郡司 聡
編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、エルゴラッソ編集部を経てフリーに。定点観測チームである浦和レッズとFC町田ゼルビアを中心に取材し、『エルゴラッソ』や『サッカーダイジェスト』などに寄稿。町田を中心としたWebマガジン『ゼルビアTimes』の編集長も務める。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド)。マイフェイバリットチームは1995年から96年途中までのベンゲル・グランパス。
