「これはゲームじゃない。リアルよりもリアル」元Jクラブ強化本部長・岡田明彦を驚かせたFM26の“リアルすぎる世界”
この記事は『FOOTBALL MANAGER26』の提供でお届けします。
リカルド・ロドリゲスやダニエル・ポヤトスといったスペイン人監督を抜擢し、Jリーグでいち早くプレーヤートレーディングの考え方を導入するなど、先進的なクラブ戦略を推し進めてきた元徳島ヴォルティス強化本部長・岡田明彦氏。現在はエージェント事務所SARCLE のフットボールダイレクターを務める彼に『FOOTBALL MANAGER26』をプレーしてもらい、実際のサッカーとの共通点を語ってもらった。
「実は、ゲームはほとんどやったことがないんです。ちゃんとプレーできるか不安です」
プレーを始める前、こう話していた岡田氏。ところが、である。実際にプレーした岡田氏の口を突いて出た言葉がこれだ。
「これはゲームじゃないです。リアルよりもリアルです」
リアルなサッカーの世界を可能な限り再現したサッカーマネジメントシミュレーションビデオゲーム『FOOTBALL MANAGER』。そのシリーズの最新作『FOOTBALL MANAGER26』(以下FM26)のリアルさは、徳島ヴォルティスで20年近く強化に携わってきた岡田氏をも唸らせるものだった。
岡田氏の目から見て、どういった部分がどれほど“リアル”だったのか――岡田氏の専門である「強化」に関連する部分を中心に読み解いていく。
クラブと監督による「5カ年計画」で思わず…
FM26はその名の通りプレーヤーが監督となるわけだが、チーム強化の領域も仕事内容に含まれており、実態はかつてのアレックス・ファーガソンやアルセーヌ・ベンゲルのようなイングランドの全権監督に近い。
今回、岡田氏には既存のクラブの中から監督として就任するクラブを選択するモードでプレーしてもらった。スペイン通の彼が選んだのは、少し前に現地に足を運んだというスペイン2部のバジャドリー。チュートリアルを受けながら進めていく中で、岡田氏から最初に「リアル」という言葉が飛び出したのが、就任したフロントとの間に作成する「5カ年計画」の部分だった。
ここでは1年ごとに、例えば「1部への昇格プレーオフ進出」「1部昇格」「1部残留」「1部で中位に」「1部の上位」といった目標の中からプレーヤーが目指したいものを選択して提出するのだが、プレーヤーが作成した目標がクラブの意向とかけ離れていた場合、再提出を求められる。こうした目標設定の刷り合わせは、実際にサッカークラブで行われているプロセスに近いものだという。
「実際フロントとの間でも、こうした目標の刷り合わせは行われていますし、非常に大事です。表向きには『優勝』を目標に掲げていたとしても、実際には予算規模を踏まえて現実的な目標設定を行っているクラブもあります。そして、それは今回と同じ監督とクラブの場合でも同様です。仮に就任オファーを出した監督から『昇格を目標にしたいので予算を増やしてほしい』と要望があったとしても、クラブとしては『規模的に、そこまでの予算は出せない』となって折り合わないことはあり得ます。クラブのビジョンと予算規模がある一方で、監督の野心もある。監督自身の年俸や契約期間といった条件とは別に、こうしたお互いの目標の刷り合わせもしっかりと行っていかないと、あとで齟齬が出てきてしまいます。
(5年目の目標に1部の中位定着を設定して、クラブから「非現実的」と否定されたことを受けて)僕はちょうどバジャドリーのクラブや街の規模を見て来たばかりなので、『確かにそうだよな』と納得してしまう部分もあって、どうしてもクラブの要望に沿える範囲でやろうと考えちゃうんですよね。逆に、監督によってはクラブにもっと野心を持って努力してくれと訴えるタイプもいるわけですが、こういうやり取りを見ていると自分のスタンスも再確認させられますね」
FM26のリアルさに驚きを隠せない岡田氏。だが、ゲームを進めていくうちにその驚きはますます大きくなっていく。

“ロッカールームの感情”の再現に感心
続いて、チームの基本戦術などを決めていった岡田氏から思わず「凄いですね、これ。ゲームじゃないですよ」と声が漏れたのが、選手とチームに設定されたステータスの部分だ。
FM26に登場する選手には、それぞれ能力以外にも「状態」「試合勘」「士気」「出場時間への満足度」「調子」などといったコンディションに関するステータスや、「(チームに対する)満足度」といったモチベーションに関するステータスが設定されている。また、総体としてのチームにも同様に「監督への支持」「チームの結束」「チームの雰囲気」といった“ロッカールームの感情”を再現したパラメータがある。チームにより良いパフォーマンスを発揮させるには、こうしたコンディションやモチベーションのマネジメントが求められる。
こうした要素は、選手の編成を担ってきた岡田氏にとって、特にリアリティを感じる部分だという。
「よく僕ら現場の人間は『ゲームじゃないんだから』みたいな表現をしますが、普通のゲームの場合は基本的に選手の実力、サッカーで言えばプレータイムやゴール、アシスト、xGのようなスタッツに表れる能力や、アスリート能力などのパラメータが優れた選手を集めればそれだけ強いチームが作れるのではないかと思います。
ですが、実際のサッカーの現場ではスタッツや能力的に秀でているか否かだけで獲得する選手を選ぶことはありません。チームでやる競技ですので、FM26でパラメータ化されているような集団としての雰囲気、戦える集団になっているのかというメンタル面やコンディション面がパフォーマンスを大きく左右するからです。
さらに言うと、チームが成功するような雰囲気というのはクラブの規模や文化によっても変わってきます。例えば、ビッグクラブの場合ならある程度は個性がぶつかり合うような集団でもいいのですが、より規模の小さなクラブになってくると、チームとしてまとまれるかどうかのウェイトが増してきます。
それから、欧州だと難しいと思うのですが、日本だと“我慢できる選手”、言い換えると“与えられた状況で力を発揮できる選手”の存在が、チーム編成において重要なことが多いです。チームの全員が試合に出られるわけではない中で、メンバーから漏れてしまったとしてもしっかりと頑張れる選手は誰なのか。こういう選手がいると若手の手本にもなって監督としては非常に助かるので、編成する側としても意識します。そういう選手の存在も含めて、強いチームというのは全員が同じ方向を向けているもので、そうした観点が反映されているというのはこの『FM26』の面白さだと思いますし、リアルだなと感じます」
このあたりから、新たな要素に触れるたびに「凄い」「リアルですね」と声が出る岡田氏。その気になれば練習メニューの作成やメディカル対応など、監督だけでなくコーチングスタッフやSDなどあらゆる役職の仕事を自分でこなせるほどディテールまで丹念に作り込まれたFM26の世界に「ある意味、リアルよりもリアルですよね。実際のサッカーの現場で、1人がこれだけの仕事をこなすことはないですから」と感嘆した様子だった。
その後、セットプレーのセッティングや監督会見、試合の指揮といったコーチングスタッフの仕事をひと通りプレーしたところで、最後に岡田氏の本分である強化の仕事、選手獲得にトライしてもらうことに。

「語学勉強の費用負担」の付帯条件に苦笑い
選手獲得をする前に、まずは自チームの把握からということであらためてチームの戦力を確認する岡田氏。その目に留まったのが、下部組織についての説明文だった。
「『将来トップチームの戦力となるような、あるいはクラブに収益をもたらしてくれるような選手がいないか、ユースチームには常に目を光らせておく価値がある』。これもリアルですよね。これは強化部だけでなく監督だとしても同じで、もちろん勝たないといけませんが、こういう視点を持っておくことは非常に大事なことです。トータルで考えるというのはリアルですし、深いなと思います」
また1つリアルなサッカーとの共通点を見つけたところで、いよいよ選手獲得へ。獲得する選手に関して、クラブからは「育成要員として20歳以下の選手を獲得する」という目標が提示されていたが、岡田氏が候補に挙げたのは、27~30歳前後の選手たちだった。その意図を聞くと、こう説明してくれた。
「クラブの方針はありますが、まず考えるのはそのシーズンを戦う上で必要な選手です。財務状況や戦力状況などを総合的に踏まえた上で、自分たちがやりたいサッカーの肝になる選手であれば獲りに行きたいですよね。特にセンターラインの選手は核となるので、必要であれば獲りに行くべきだと思います」
スカウトが選出したリストに目を通し、能力値などプロフィールも見て選手を選ぶ岡田氏。FM26ではスタッツの他に能力値がパラメータ化されているが、実際のスカウト資料はどうなっているのか。
「基本はスタッツなどをまとめたものになりますが、アルゴリズムを用いて選手の能力を可視化した資料を提供しているサービスもあります。実際に契約しているクラブもあると思います」
資料を吟味し、最終的に選んだのは27歳のメルギム・ベリシャ。さっそくオファーを提示すると、選手の希望年俸とこちらの上限額に大きな開きが。チームの中心選手の3倍以上を要求され、条件交渉に入る。多少の譲歩があったものの、折り合わず断念することとなった。なお、今回は年俸の面で折り合わなかったが、選手の要求には「語学勉強の費用負担」など、様々な付帯条件もある。こうした要求も「特に外国籍選手の場合は実際にもありますが、それにしても細かいですね(苦笑)」とのこと。他にもスカウティング網の設定なども含め、リアルな選手獲得の流れが再現されているとのことだった。

「もはやリアルすぎて、仕事と同じ感覚」
最後に、ひと通りプレーを終えた岡田氏に感想を伺った。
「僕からすると遊びじゃないです。もはやリアルすぎて、仕事をしているのと同じような感覚になりました。フロントとの目標設定のところではあらためて考えてみて、自分は身の丈に合った目標に向けて仕事をするのが性に合っているなという気づきもありました。ここまでだとは正直なところ思っていませんでした。もの凄いクオリティだと思います。
しかも、僕は今回、強化部に関わる部分を中心にプレーさせてもらいましたが、実際にはクラブのあらゆる仕事に携わることができるわけですよね。リアルなサッカーの現場の仕事のトレーニングになるんじゃないかなと。そう思えるくらいリアルで凄いです」
岡田氏も太鼓判を押すFM26。その“リアルすぎる世界”を、ぜひ一度体験してみてほしい。
Profile
久保 佑一郎
1986年生まれ。愛媛県出身。友人の勧めで手に取った週刊footballistaに魅せられ、2010年南アフリカW杯後にアルバイトとして編集部の門を叩く。エディタースクールやライター歴はなく、footballistaで一から編集のイロハを学んだ。現在はweb副編集長を担当。
