ビジャレアル対バルセロナのマイアミ開催はなぜ中止されたのか?だが、実現はすぐそこに
サッカーを笑え #54
去る10月22日、アメリカ・マイアミで開催される予定だったビジャレアル対バルセロナの中止が発表された。8日の開催発表からわずか2週間の命だった。実現していれば史上初の欧州プロリーグ戦の国外開催だったが、これで史上初の冠は来年2月オーストラリア開催予定のミラン対コモに持っていかれることになる(ミラン対コモについては片野道郎さんが詳報している。合わせて読んでもらうと理解が深まります)。
嫌がっていたのはスペインの一部だった
中止を決定したのはアメリカのプロモーター、レレベント・スポーツで、理由は明らかにされていないが、スペインで開催反対のストが行われたことを嫌ったものとされる。ストはリーガ第9節(10月17日~20日)の開始後15秒間プレーしないという形で抗議の意を表したもので、ビジャレアルとバルセロナ絡みの試合を含む全試合で実施された。ラ・リーガはスト中の映像をカットする検閲で対抗したが、もちろんそれで拡散を防げるわけがない。プロモーターにすれば、開催費用を全額負担するのに“嫌がるスペインから試合を強奪した”というネガティブなイメージ付きでは割に合わない、ということだろう。
もっとも、嫌がっていたのはスペインの一部だった。ラ・リーガは賛成、ビジャレアルとバルセロナも賛成、スペイン連盟も賛成、UEFAも(嫌々ながら)賛成、FIFAと北中米カリブ海サッカー連盟とアメリカ連盟は賛成濃厚という状況で、スペインの選手会だけが反対だった。
選手会の反対理由を読むと、別にプロジェクト自体に反対しているわけではなく、“選手への説明不足で不信感を抱いた”としているので、ラ・リーガの根回し不足を指摘せざるを得ない。ラ・リーガのハビエル・テバス会長は強引なブルドーザー的手腕でマネージメントを行うことで有名だから、選手の声を軽視したことは理解できる。彼の理屈によれば、クラブは自分たちの傘下にあり、そのクラブに雇用される立場の選手は業務命令に従うだけで拒否権はない、ということだろう。同じ理屈で、ラ・リーガは過去にも例えば過密カレンダー問題などで選手会とことごとく対立してきた。
根回しの国から来た者からすると、“もうちょっとうまくやれないものか”とあきれるが、それはちょっとうまくさえやれば実現する、という意味でもある。片野さんもおっしゃっているが、グローバル化にローカルは決して抗えない。市場拡大が至上命令であればリーガは海外へ出て行くしかない。
で、それによってリーガは儲かってうれしい→クラブは儲かってうれしい→選手は年俸が上がってうれしい→ファンは贔屓(ひいき)クラブが強くなってうれしい、という喜びの連鎖反応が起きる。会員が儲かることに選手会が反対するわけがない。今回は、外堀は埋まっていたものの肝心の内堀が埋まっておらず中止になったが、内堀は簡単に埋まるのである。
“なんで俺たちの国の試合を海外に持っていかなきゃいけないんだ”という愛国的不満は常に起きるだろうし、ホームチームのファンは1試合損をしたように感じるだろう。しかし、結局は札束で頬を引っぱたく形で決着する。今、世の中すべてのことがそうであるように。そして、スペイン・スーパーカップがサウジアラビア開催されることが日常化したように、ラ・リーガの海外開催も日常化する。そんな未来がもうそこに見える。
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。
