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「まったくクレイジーな話」?セリエAがミラン対コモをオーストラリア開催する是非

2025.10.17

CALCIOおもてうら#54

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。 

今回は、サンシーロが使用できなくなる2月のミランのホームゲーム、セリエA第24節ミラン対コモをオーストラリアのパースで開催されることが濃厚になった件について。イタリア国内でも激しい議論になっている国外開催の是非について考えてみたい。

 来年2月に計画されているセリエA公式戦(第24節ミラン対コモ)のオーストラリア開催を巡って、国内外で論議が沸き起こっている。

 レーガ・セリエAは、2月6日から22日まで開催されるミラノ・コルティナ冬季五輪の開会式と閉会式の会場となるスタディオ・サンシーロが、ほぼ1カ月にわたって使用不可能となるのを受けて、2月8日の第23節に組まれているミラン対コモを、オーストラリアのパースで開催する計画をかねてから進めてきていた。

 さる10月6日にUEFAが、セリエAが提出したこの開催案を承認したことで、計画は実現に向けて大きく進んだ。現時点ではまだFIFA、そしてオーストラリアサッカー連盟の承認が残っているが、双方ともに承認を拒否する可能性は低いと見られている。このハードルがクリアされれば、これまで何度も話題に上りながら実現に至らなかった「セリエAの国外開催」が、史上初めて実現することになる。

リーグ戦の公平性、選手の反対を押し切り強行

 ちなみにUEFAは同日、リーガ・エスパニョーラが提出したビジャレアル対バルセロナのマイアミ開催案(12月)についても同じように承認しており、「欧州プロサッカー国内リーグ戦の国外開催」に関しては、こちらがひと足早い「史上初」となる見通しだ。

 プロサッカー公式戦の国外開催自体は、これが初めてというわけではまったくない。レーガ・セリエAはすでに1990年代から、セリエAとコッパ・イタリアの勝者によるスーペルコッパ・イタリアーナをアメリカ、リビア、中国、カタール、サウジアラビアなど国外で開催してきている。しかし、ホーム&アウェーの通算成績で順位を争う国内リーグの試合を国外で行うとなると、少なからず話は違ってくる。

 国外の中立地での開催は、ホームチームのサポーターから観客として試合に参加する機会を奪うだけでなく、ホームアドバンテージを失わせ、コンペティションの公平性、整合性を損なう可能性がある。これが1つの前例として認められ、国外での試合開催がなし崩し的に拡大すれば、その可能性はさらに大きくなりかねない。そもそも、現状でも過密日程が大きな問題になっている中で、たった1試合のために片道20時間近いフライト2回という苛酷な移動(時差も8時間、しかも南半球は夏)を選手に強いるというのは、普通に考えても強引に過ぎるというものだろう。

 当事者の1人であるミランのアドリアン・ラビオが『ル・フィガロ』にこうコメントしたのも、当然といえば当然のように思われる。

 「オーストラリア開催? まったくクレイジーな話だよ。リーグの注目度を高めるための経済的な取り組みだから、我々にはどうしようもない。カレンダーや選手の健康についてさんざん議論しているのに、本当に馬鹿げてる。イタリアの2チームが試合をするためだけに、こんな長距離を移動するなんてあり得ない。こっちはそれに合わせるしかないけれど」

UEFAは「原則反対、ただし今回は例外的に止むを得ず承認」

 結果的にGOサインを出す立場になったUEFAにとっても、これは非常に苦々しい決断だった。それは、国外でのリーグ戦開催承認を伝えるニュースリリースに記されたアレクサンデル・チェフェリン会長のコメントにもはっきりと表れている。

 「リーグ戦は本来ホームスタジアムで行われるべきであり、それ以外の場所での開催は、スタジアムに足を運ぶロイヤリティの高いファンの権利を奪い、コンペティションにそれを歪める要素を持ち込む可能性がある。(中略)これら2試合の開催を認めなければならないのは遺憾だが、この決定はあくまで例外的なものであり、前例と理解されるべきではない。国内リーグの一体性を守り、サッカーがホームという場に根ざした活動であることを担保する、という我々の立場は明確だ」

 このコメントからも明らかなように、UEFAはリーグ戦の国外開催には反対という立場を明確に打ち出している。にもかかわらず、今回のミラン対コモ、ビジャレアル対バルセロナという2試合の国外開催を認めざるを得なかったのには理由がある。

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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