竹中トリニータの困難な船旅。ようやく見えてきた「残留ライン」の先にある課題
トリニータ流離譚 第30回
片野坂知宏監督の下でJ3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第30回は、「いい守備からいい攻撃」を目指した片野坂前監督の後を受け継いだ竹中監督の困難な船旅、そしてようやく見えてきた「残留ライン」の先にある課題について考えてみたい。
現在、リーグ戦残り3試合にしてJ3降格圏との勝ち点差は『6』。なんとかギリギリ逃げ切れそうなところまでは勝ち点を積み上げてきた。直近のJ2第35節は12位・札幌、13位・甲府、14位・秋田、15位・大分、16位・藤枝、17位・熊本が揃って負け、逆に降格圏の山口が勝ち点3、富山と愛媛がそれぞれ勝ち点1ずつを積むという結果。3戦無敗で追い上げる山口がどこまで最後の意地を見せるか。熊本は6戦未勝利で藤枝は5戦未勝利と失速気味であることを考えると、大分としては第30節の山口戦、第34節の熊本戦という2つの直接対決で残留争いの激流に逆らうように勝ち点3を積めたことが大きかった。
ただ、得点力不足の課題はいまだに克服できていない。
最後に流れから得点したのは8月9日、第25節・富山戦のグレイソンの加入後初得点。その後10試合を戦ったうちの6試合が無得点で、4試合で挙げた各1得点はロングスロー、PK、CK、FKといずれもセットプレーによるものだ。セットプレーがそれだけ増えているのは攻撃機会が増えている証とも言えるのだが、やはり流れから得点できないことには強い物足りなさを感じる。
守備戦術への偏重がもたらした“窮屈さ”
ここまで乱気流に巻き込まれたかのように安定感を欠いた戦いを続けてきたチームが、指揮官交代という苦渋の決断にも踏み切りながら、ようやく今季の戦い方が定まった感を得たのはつい最近のことだ。
残り12試合というタイミングでチームの立て直しを任命された竹中穣監督は、ヘッドコーチとして過ごした片野坂知宏前監督時代からのベースを生かしながら、新たな刺激を加えて根本的な改革を目指した。その過程では初陣となった第27節・いわき戦の0-4、第30節の新体制初白星直後の第31節・愛媛戦の0-3という大敗2試合も経験したが、山口と熊本との重要な直接対決には1-0ながらきっちりと勝利し、それ以外では勝ち点1を積み上げながら、少しずつ戦い方のベースを整理。今季ずっと苦境に置かれていた中で最適解に近づいた感覚を掴めたのは、第32節の秋田戦だったか。特徴的なスタイルを標榜する秋田に対してだけでなく、第33節に、今季最も苦手としていたスタイルの仙台に対しても同様の戦い方を貫けたことが、その手ごたえの信頼性を高めた。

[5-4-1]のミドルブロックを構えたところから攻撃へと転じゴールへと迫る戦法。それは「いい守備からいい攻撃」というキーワードの下に前体制時から構築を目指しながら、なかなか形にならなかったものだ。
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Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg
