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ロンドンのパブで“力士との遭遇”。対照的にすっかり見なくなった今時のプレミア選手たち

2025.11.01

Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #22

プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。

footballista誌から続くWEB月刊連載の第22回(通算256回)は、まさか近所にスモウ・レスラー!? ロンドン公演中のスタジアム訪問も話題となった関取衆との遭遇と、“ダービッツ以来”街なかで姿を見かけなくなったプレミアリーガーのプライベートについて。

「どうしてここに?」と玉鷲関、「日本人?びっくりしたぁ」と豊昇龍関

 西ロンドンのケンジントン&チェルシー区で体験した“力士との遭遇”。いきなり肩透かしのようで恐縮だが、去る10月14日の出来事だった。場所は、ハイ・ストリート・ケンジントン駅付近のパブ。筆者は、翌週のマンチェスター・ユナイテッド対ブライトン絡みの打ち合わせを兼ね、時折イングランド代表戦の中継画面に目をやりながら、コーディネーターの友人とビールを飲んでいた。

 すると、着物姿の関取衆が次々に入ってくるではないか。考えてみれば、あり得ないことではなかった。翌日からは、大相撲のロンドン公演というタイミング。会場となるロイヤル・アルバート・ホールは、歩いて10分ほどの距離。42名と報じられていた力士たちは、近くの高級ホテルに滞在していたに違いない。

 最終的には、モンゴル出身の力士6名が、ちょうど向かい側の壁際に並ぶテーブルへ。足元が草履のフットワークは、巨体に似合わず軽やかだ。夜8時頃で混み合っていた店内を、同国系の側近者と思しき数名が抑えていた席へと素早く足を進めていった。こうした光景が意外にも違和感なく思えたあたりは、多国籍で人々の服装も季節にかかわらずまちまちな、ロンドンらしさかもしれない。

 とはいえ、体重は優に100kgを超え、頭には丁髷を結った純和風なアスリートたちが、人目を引かないはずはない。我われの手前に位置するテーブルにいた6人組などは、気になって仕方がない様子。そのうちの1人が「あなたたち、日本のシークレットサービスでしょ?」と声をかけてきた。

 「まさか。日本人ですけど、たまたま居合わせただけです」と答えると、「そりゃ、正体は明かせないわよね」との反応。訊けばフランス人弁護士だという女性とは、「わかっているのよ」「単なる、にわか相撲ファンです」といったやり取りが続いた。

 そこで筆者は、2杯目を買いに席を立った際、やはりカウンターで飲み物を注文していたお付きの1人に「玉鷲関と一緒に写真を撮らせてもらえたりしますか?」と尋ねてみた。すると、「もちろん」と言って、両手にドリンクを持ちながらテーブルへと案内してくれた。

……

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Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。

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