くすぶることなく燃え続ける「新潟魂」。アルビレックス新潟・早川史哉が15番を背負ってひたむきに戦うことの価値
大白鳥のロンド 第28回
苦しい残留争いに喘ぐアルビレックス新潟の中で、この男の存在感が高まっている。クラブにとって特別な「背番号15」を今季から背負い、センターバックの位置で奮闘している早川史哉だ。アカデミー時代からアルビレックスで育ち、大学を経由して、再び戻ってきた新潟の地で、誰よりも試合に出ることの価値を実感してきた男は、何があっても、絶対にこのチームを諦めない。
終盤戦に差し掛かって掴んだスタメンの座
J1第31節・名古屋グランパス戦(H/△0−0)で、アルビレックス新潟は12試合ぶりにクリーンシートで試合を終えた。8試合ぶりにスタメン入りした早川史哉は、舞行龍ジェームズとCBのコンビを組み、無失点という結果で起用に応えた。
「自分にとって、それはすごく大きかった」(早川)
そこから指揮官の信頼を勝ち取り、3試合連続でスタメンとしてプレーしている。
J1残留に向け、最下位からの浮上を図る新潟にとって、勝点1では足りないという現実もある。しかし、連動した「規律ある守備」(早川)ができたうえでの無失点は、今季50失点以上を重ねてきたチームにとって、1つの手応えとなった。今夏、選手7人が入れ替わった中で、試行錯誤の末に、ようやく得た成功体験だった。
「前線の選手が、相手の2つあるうちの1つの選択肢を消してくれていたので、自分はその逆を選択すればよかった。前線の選手からそういう守備を徹底してくれると、自分のよさも生きる」
170cmとCBとしては小柄だが、戦況を見る力に秀でている。広い視野を活かして予測し、先回りして的確なポジショニングを取れるのが、早川の強み。まるでボールが早川に吸い込まれていくように見えるのは、そのためだ。予測があるから、自分より高さのある相手より先に飛んで、競り勝つこともできる。
もちろん、後ろでボールを待ち構えているだけではない。「1列前のボランチの選手とは、常にコミュニケーションをとっています。試合中、相手から危ないところまでボールを運ばれたときは、『サイドハーフに、ちょっと中に絞るように統率してほしい』とリクエストしたり。CBからは声が届かない選手に伝えてもらっています」と、リスクを減らすために細かく声をかけ続けている。
ぶれずに、やるべきことを積み重ねてきた
ボランチの1人、白井永地は「フミくんは、よく話してくれるので助かっています。何か特別なことをするタイプではないですけど、ボールを持つ前の予測が、かなり速い。ポジショニングがいいので、リスク管理もいいですし、配球のテンポもいい。流れを常に読み続けている選手だと思います」と、プレーへの安心感を語る。
隣でプレーすることも多い左サイドバックの橋本健人も「史哉くんは、いい意味で新潟に長くいるので、パスのリズムが新潟。あまりロングレンジのパスは出さないです。でも、相手に取られるようなところには出さないですし、ミスもないので、よどみなくプレーできるんです。パスも、俺に合わせてくれていると感じますし、シンプルにすごい」と、チームプレーのしやすさを語る。
10月17日時点で、早川は今季のリーグ戦8試合に出場。メンバー外になることもあった。それでも、約3カ月ぶりの試合でよどみなくプレーし、ピッチ内を整理してくれていた。
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Profile
野本 桂子
新潟生まれ新潟育ち。新潟の魅力を発信する仕事を志し、広告代理店の企画営業、地元情報誌の編集長などを経て、2011年からフリーランス編集者・ライターに。同年からアルビレックス新潟の取材を開始。16年から「エル・ゴラッソ」新潟担当記者を務める。新潟を舞台にしたサッカー小説『サムシングオレンジ』(藤田雅史著/新潟日報社刊/サッカー本大賞2022読者賞受賞)編集担当。現在はアルビレックス新潟のオフィシャルライターとして、クラブ公式有料サイト「モバイルアルビレックスZ」にて、週イチコラム「アイノモト」連載中。
