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ブレーメンの菅原由勢がこだわる“勝負の細部”。再び日の丸を背負うために

2025.10.11

遣欧のフライベリューフリッヒ#18

「欧州へ行ってきます」。Jリーグの番記者としてキャリアをスタートさせ、日本代表を追いかけて世界を転戦してきた林遼平記者(※林陵平さんとは別人)はカタールW杯を経て一念発起。「百聞は一見にしかず」とドイツへの移住を志した。この連載ではそんな林記者の現地からの情報満載でお届けする。

今回は新シーズン突入後にドイツの名門ブレーメンへと移籍した菅原由勢にフォーカス。日本代表復帰、来年のW杯を目指す男がこだわる勝負の精神とは何か。若手を激励し、主力を𠮟咤する姿に、林記者はある種の特別な覚悟を見出したと言う。

チームメイトへの激励、そして怒号

 「勝負の神は細部に宿る」

 試合の勝敗は戦術やフォーメーションだけで決まるものではない。選手の意識、心構え、準備、そして日々の小さな積み重ね——。そうしたものによって左右される。元日本代表監督の岡田武史氏が用いたこの言葉は、そんな“細部の力”を説いている。

 最近、そんな言葉がパッと脳裏に浮かんだ試合があった。10月4日に開催された、ブンデスリーガ第6節ブレーメン対ザンクトパウリの一戦だ。

 ブレーメンの菅原由勢とザンクトパウリの藤田譲瑠チマによる日本人対決が実現した試合は、立ち上がり2分に素早い攻撃からサミュエル・ムバングラがゴールを沈め、ホームチームが先制点を手にする形でスタートした。

 しかしながら、勢いに乗ったブレーメンがなかなか追加点を奪えずにいると、後半は完全にザンクトパウリペースに。ブレーメンは自陣でブロックを敷き、体を張ってなんとか逃げ切ろうとしていた。

 迎えた84分、ブレーメンに大チャンスが訪れる。自陣で奪ったところからロングボール一本でカウンターに。最後は途中出場の18歳パトリス・チョビッチがGKとの1対1を迎える。だが、この決定機をチョビッチが決められない——。

 プレーが切れると、会場のざわめきも一瞬止み、チョビッチは天を仰いで立ち尽くした。その肩に、真っ先に手を置いたのが菅原だった。どことなく呆然としているチョビッチに対して肩を組みに行った菅原は、2つ、3つ言葉をかわし、最後は背中をポンと叩きながら自分のポジションに戻っていった。

 結果論なのかもしれない。それでも、この声かけは間違いなくファインプレーだったという奇妙な確信がある。チャンスを逸して呆然としていたチョビッチはもう一度メンタルを整え、最後までハードワークを続けた。後半アディショナルタイムには難しい場面で2度跳ね返してピンチを回避するなど、そのプレーがチームをより引き締めることとなる。

 菅原はその場面について「彼は18歳の育成出身の選手ですけど、まずこういう舞台にあの若さで出ていること自体に自信を持っていいと思うんです」と若手をフォローしながら、意図を説明した。

 「もちろん、ああいうチャンスを決め切れないと難しいゲームになってしまうというのは、今回のことで彼自身も学ぶだろうなと思います。でも、あれを外したからと言って試合がそのまま終わるわけではないし、続くわけです。どうにかチャンスを逃した時、気にし過ぎないようにと思って、声をかけてあげた方がいいかなと思いました。僕も同じサイドだったし、なんだろう、後ろに俺がいるぞ、というのも感じてほしかった。彼もそこから素晴らしい守備を見せてくれたし、ものすごいハードワークをしてくれてよかったです」

 菅原の“試合を動かしたプレー”は、これだけでは終わらなかった。

……

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Profile

林 遼平

1987年生まれ、埼玉県出身。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることに。帰国後、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして『Number Web』や『GOAL』などに寄稿している。

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