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乱打戦が目立つも「強いチームは失点しない」。長谷部フロンターレは堅守を取り戻せるのか

2025.09.30

フロンターレ最前線#20

「どんな形でもタイトルを獲ることで、その時の空気感を選手に味わってほしい。次の世代にも伝えていってほしいと思っています」――過渡期を迎えながらも鬼木達前監督の下で粘り強く戦い、そのバトンを長谷部茂利監督に引き継いで再び優勝争いの常連を目指す川崎フロンターレ。その“最前線”に立つ青と黒の戦士たちの物語を、2009年から取材する番記者のいしかわごう氏が紡いでいく。

第20回では、直近8試合で21得点と攻撃力が爆発している裏で15失点を喫している守備の課題について。目標のJ1「37失点以内」を早くも超えてしまった長谷部監督、DFラインの厳しい台所事情でCBを任されている本職SBの佐々木旭、今夏の加入から日本とチームに適応し始めている元クロアチア代表DFのフィリップ・ウレモヴィッチらは改善に向けて取り組んでいる。

 8月ラストマッチとなったJ1リーグ第28節のFC町田ゼルビア戦。

 川崎フロンターレは、公式戦13試合負けなしだった相手を5-3という撃ち合いの末に下している。前節の名古屋グランパス戦も4-3で勝利しており、伊藤達哉やエリソンを軸とした攻撃陣が爆発の兆しを見せていた。彼らの好調は9月も続き、特に伊藤は公式戦6試合連続得点を記録するなど、一躍注目を集めるほどの存在感を放っている。

 同時に、目を向けるべき課題も顕在化していた。

 言うまでもなく、失点数である。大量得点で連勝しているとはいえ、2戦連続3失点という事実は、やはり目を背けるべきではない。今季からチームを率いている長谷部茂利監督にとっても許容できるものではなかったようで、明確に指摘をしている。

 「今シーズンの最初に失点を減らしていくことが上位進出に直結すると伝えているので、ぶれることなくやっていきたいです。現状は38失点してしまいましたが、ここからはもう1失点もできない思いで戦います。失点を減らさないといけないと話していますし、その意識は継続していきたい」

長谷部監督(Photo: Takahiro Fujii)

「強いチームは失点をしない」という長谷部監督の哲学

 実は指揮官が「38」という数字を口にしたことには理由がある。

 長谷部フロンターレは、昨シーズンからリーグ戦の失点数を「20」減らすことを掲げてスタートしているからである。去年の川崎Fが許した得点は「57」。つまり今季は「37失点以内」を目標に取り組んできたというわけだ。

 実際にシーズン開幕当初は、手堅い守備を披露していた。J1第9節の町田戦までは複数失点がなく、それまでのリーグ戦8試合のうち4試合を完封していたほど。しかしACLEで準優勝し、5月以降の試合から少しずつ守備組織に綻びが出始める。修正を施していく中、夏にその要であった日本代表CBの高井幸大がプレミアリーグのトッテナムに移籍。さらに軸となるベテラン勢のケガも重なり、DFラインを固定できずにいると、J1第20節の横浜FC戦(1-0)を最後にクリーンシートがなくなっていた。

 そしてJ1第28節の町田戦を終えて失点は「38」に達した。つまり、この時点で年間目標であった「37失点以内」を超えてしまったのである。長谷部監督の「もう1失点もできない思いで戦う」という言葉には、そういう意味合いが込められていた。

Photo: Takahiro Fujii

 もっとも、守備に多少の難はあっても、第32節時点でJ1最多の59得点を挙げている攻撃で競り勝てている試合もあることを思えば、全体として決して悪い状態というわけではない。しかし、それでも指揮官は完封にこだわる。なぜなのか。

 その答えは明確だ。強いチームというのは失点しないからである。

 それが優勝争いの条件なのだという確固たる哲学が、そこにはあった。そもそもアビスパ福岡監督時代の2020シーズンには、首位・徳島ヴォルティスの33を下回る29というJ2最少失点で2枠に限られたJ1昇格を勝ち獲った経験の持ち主である。2023シーズンのルヴァンカップでもプライムステージでは5試合2失点の堅守を築き上げ、福岡にクラブ史上初のメジャータイトルをもたらした実績が記憶に新しい。組織で守り、無失点へのこだわりを徹底すること。そこに栄冠への近道があるというわけだ。譲れないその信念を、あらためて強く語っている。

 「サッカーは得点を多く取ったほうが勝つ、勝ち点3を取れる競技です。そこに重きを置くのは間違っていないですが、強いチームは失点をしないんです。あるいは最少失点で複数得点を取る。つまり2-1以上のゲームスコアで勝ちを重ねるんです。それはどこのリーグも見ても同じで、上位のチーム、優勝しているチームです。失点は時々取られるけど、1点にとどめる。そこを目指していきたいです」

 4-3で勝つ、5-3で勝つというのは見ている分には楽しいものだ。しかし、毎回のように目指すべきスコアではない。少なくとも、長谷部監督にとっては。そう考えると、大味な乱打戦を制した後だけに、町田戦は守備組織のネジを締め直すべきタイミングでもあると捉えているようだった。

 もちろん、攻撃面を軽視しているというわけではない。守備も攻撃も100%の力でやる。そのスタンスも再度強調していた。

……

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Profile

いしかわごう

北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago

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