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川森敬史会長と振り返るアビスパ10年史(後編):コロナ禍と奇跡のJ1昇格、長谷部茂利監督の5年間

2025.09.19

今年7月、2015年からアビスパ福岡のかじ取りを担ってきた川森敬史氏が代表取締役会長を辞任し、取締役会長 兼 非常勤取締役となったことが発表された。「5年周期のスパイラル」と評された昇降格の繰り返し、コロナ禍、そして初タイトルのルヴァン優勝とJ1定着……激動の2015-2025を率いた経営トップと一緒に、アビスパ10年史を振り返る。

後編は、2020年からの5年間。コロナ禍を経て、長谷部監督とともに初タイトルとなるルヴァン・カップを獲得し、J1定着を果たした先にある未来について――。

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奇跡の12連勝と、長谷部監督のマネジメント能力

――2019年のどん底と、翌2020年にはコロナ禍が訪れました。あの時期は、経営者としてどんな手応えや危機感をお持ちでしたか。

 「2019年のホーム最終戦のセレモニーで『大改革をします!』と宣言した翌年の2020年は本当に大変でした。日本全体、いや世界中がそうでしたが、試合そのものができない。スポンサーを増やすのもかなり難しい。正直『いろいろな指標が落ちていく一方だろう』と思いました。ところがスポンサー皆さんへクラブスタッフのきめ細かい対応もあり、スポンサーは大きく減らなかった。これは本当にありがたいことでした。

 アビスパ・グローバル・アソシエイツ(AGA)理事の皆さんをはじめ、福岡の経済界やホームタウン、フレンドリータウンの各自治体、地域の方々が『アビスパを支えよう』と思ってくださった証拠だと思います。とても心強かったです。

 年間シートの販売時期の前倒しやチケット価格の改定など、どうしてもご理解いただかねばならないことが多かったのですが、その都度『なぜ必要か』を説明し続けた。2019年の“どん底”に続く、2020年の“コロナの壁”。2つの壁に対して、僕らができたのは『事実と考えを誤魔化さずに伝える』ことだけでした」

――その厳しい状況で、2020年に長谷部監督が就任します。

 「就任初年度、アウェイ開幕戦は快勝していいスタートを切れましたが、コロナ禍で公式戦が中断、再開した時には戦績が振るわず、昇格のハードルがかなり高くなり少し弱気になっている自分がいました。けれど、そこから怒涛の12連勝。あれは本当に神がかっていましたね。主力に加え若い選手もうまく組み合わせて、全員が出番を待てるようにマネジメントしていました。

 彼の強みの1つは『言語化する力』です。チームの狙い、個人に求める役割、良かった点と改善点、その全部を感情を込めて言葉にして伝えられる。だから試合に出ていない選手も含めて、みんなが納得して戦えるんです。ルヴァンカップやリーグの過密日程でも『自分の番』を待てる。あれは監督としてのマネジメントの妙でした。

 経営者の私にとっても学びが大きかったです。社員やスポンサーさんに話す時も『思いを言葉にして伝える』ことの重要性をあらためて感じました。チーム強化部長の柳田伸明さんや当時経営顧問(現副社長)の立石敬之さんとの組み合わせも良く、強化と現場と経営が一本の筋でつながった。結局クラブは『人』の配置次第で大きく変わると実感しました。クラブもチームも大改革のスタートでした」

――2020年の昇格は、最後までドラマのようでしたね。

……

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Profile

森田 みき

福岡県出身。サッカーの仕事に魅力され、1998年にマネージメント会社社員からフリーアナウンサーに転身。Jリーグ公式映像中継リポーターとして「DAZN」「スカパー!」などで九州各チームを担当。多くの昇格降格という節目の中継に関わる。現在は大学非常勤講師・企業スピーチ研修、Jリーグチームの選手スピーチ研修などを担当。

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