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現代サッカーを体現するメキシコと正面衝突。スコアレスドローの裏で日本が繰り広げた立ち位置の駆け引きとは?

2025.09.09

9月シリーズでは北中米W杯の開催地アメリカで本番を見据え、ホスト2カ国と親善試合を戦っていく日本代表。初戦のメキシコ戦は痛み分けに終わったが、スコアレスドローの裏で繰り広げられた立ち位置の駆け引きとは?『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』の著者、らいかーると氏と読み取ってみよう。

 ついに開幕まで1年を切った北中米W杯。森保一監督に率いられた日本代表は、カタールW杯での3バック変更に勝負を懸けるサプライズから時をおき、北中米W杯アジア最終予選では[3-2-5]の本格導入に踏み切っている。当初は懐疑的な目も向けられたアタッカーのウイングバック起用も功を奏し、見事に史上最速でW杯出場を決定させた次の課題として、同じ[3-2-5]をベースとしたサッカーで本大会でも駆け抜けることができるかどうかの実証実験が始まろうとしている。

 前回大会の紆余曲折を思い出してみよう。カタールW杯アジア最終予選では開幕3戦2敗と躓いたものの、田中碧、守田英正のインサイドハーフ登用をきっかけにスタートした[4-3-3]で6連勝を収め、突破に成功した。確かな自信を得たシステムで本大会に向けて準備を進めていく日本。しかし、対戦相手による研究や代替選手の少なさから[4-2-3-1]に回帰していった足跡は、紛れもない事実として残っている。

 よって北中米W杯までの注目点は、4年前と同じストーリーになるのか、それとも異なるストーリーになるのか。9月シリーズのメキシコ、アメリカをはじめとする国々との勝負を繰り返す中で、その結末を見守っていきたい。

日本のハイプレス、アルバレスの負傷にも動じなかったメキシコ

 キックオフの恒例になっているロングボールからメキシコ戦を始める日本。空中戦の的こと町田浩樹がいなくても、左サイドへの執着は変わらない。ちなみにこの日のターゲットは、CF上田綺世と左CB瀬古歩夢であった。

 試合序盤を振り返ると、最初のニュースは日本のプレッシングに変化が見られたこと。上田は[4-1-2-3]のアンカーを担うエドソン・アルバレスのマークを行い、2シャドーの久保建英と南野拓実が2トップのように両CBへ繰り返しプレッシャーを与えていた。トップ下+2トップの配置に変更して、ハイプレスを実行するイメージだ。

 背中でアルバレスを消しながら、時にはGKルイス・マラゴンまで迫っていく上田。2CB+アンカーが完全に捕まっているメキシコは、右インサイドハーフのオルベリン・ピネダをサポートに来させるが、左ボランチの鎌田大地がついてくる。おそらく日本は人を基準とするプレッシングを準備してきたのだろう。

 次に左インサイドハーフのマルセル・ルイスを下ろしてみるメキシコだが、今度は右ボランチの遠藤航の監視に遭い、SBを使おうとすれば相手のウイングバックが長い距離を走って詰めてくる。その味方の位置に応じて、プレッシングの方向性や優先順位を変化させる南野たちの姿から、日本の用意周到ぶりがよく伝わってきた。

 つまり、メキシコのビルドアップに日本はほぼマンマークで対抗している。カタールW杯のドイツ戦やスペイン戦で披露した奇襲を再現するかのような作戦だ。それを日常に溶け込ませる中で、どのような展開となるか。

 攻守を裏返してみると、メキシコはプレッシングも[4-1-2-3]で相手の配置に自然と噛み合う形となっている。ただし、日本ほどの積極性は見られない。その開始地点こそ高いものの、ハイペース、ハイテンポになるような振る舞いは行わない雰囲気だった。一方で日本は上田のキープ力を使いながら、ボールを前進させることに成功。ボール保持、非保持ともに上々の立ち上がりを見せる。

 時間の経過とともに、相手のハイプレスに対してマラゴンからのロングボールを増やしていくメキシコ。しかし、ブンデスリーガとプレミアリーグを戦ってきた鎌田と遠藤の予測力は高く、空中戦やセカンドボールの整備も抜かりない日本だった。

 13分が経過すると、メキシコはSBの片方を残す3バックでビルドアップにチャレンジしていく。本来は両CBの間に降りたいアルバレスだが上田の監視を受けているため、移動でチームに優位性をもたらすことは困難な状況にある。そして、困った時は地上戦でも空中戦でも頼りになるCFラウール・ヒメネスの出番を増やしながら、相手のプレッシングに向き合っていった。

……

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メキシコ代表戦術日本代表

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』 (小学館)。

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