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エバートン視点で読む名古屋グランパスとの戦略的提携(後編)。専門家集団“フットボールリーダーシップ”がもたらす相乗効果とは?

2025.09.01

【特集】Jクラブの新たなる海外戦略#3

J1の主力はもちろん、J2から即海外というルートも目立つようになった昨今の移籍市場。環境の変化に適応するように、Jクラブの海外戦略にも新しい動きが出てきている。激変の時代に求められるのは、明確なビジョンと実行力。その成否はこれからかもしれないが、各クラブの興味深いチャレンジを掘り下げてみたい。

第2&3回では、8月21日に発表された名古屋グランパスとエバートンFCの戦略的パートナーシップに注目。基盤となるThe Friedkin Group(TFG)の国際戦略から生まれていく相乗効果を、エバートンFC公認サポーターズクラブ「エバートンジャパン」で代表を務めるBF氏が、前後編に分けて考察する。

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エバートンの組織改革が名古屋にもたらすもの

 新時代を突き進む上で、組織として足場を固める土台作りは重要だ。前提として特筆すべきは、エバートンの組織編成が刷新されたことにある。クラブは「クラス最高」のチーム構築を目指す方針を掲げ、フットボールディレクターの役割を廃止し、責任やタスクを分散するより広くフラットな構造を採用した。その名も“フットボールリーダーシップ・チーム”。専門分野に特化したスペシャリストたちを抜擢した流れだ。

 空席(暫定)だったCEOの座にアンガス・キニアーを招へい。アーセナルやウェストハムで幹部を務めた経歴を持ち、2度のスタジアム移転を経験。前任では今季プレミアリーグに昇格したリーズで要職を担った。新スタジアムでの開幕を迎え発展を目指すエバートンにとっても強力なバックアップとなるだろう。

キニアーCEO

 ここから本題となるキニアーが舵を取った組織改革と、公式リリースで紹介されている名古屋とともに掲げた3つの戦略的パートナーシップ概要「①国際経験の向上・人材交流と知見の共有」「②地域社会との協働による社会貢献」「③日本含めたアジア・欧州市場における事業展開」を照らし合わせて考察したい。

①国際経験の向上・人材交流と知見の共有

 まず、我われサッカーファンが最も想像しやすいのはパートナーシップを結んだクラブと親善試合を開催すること。理想はジャパンツアーだ。近年はプレミアリーグのクラブが日本を遠征先に選ぶケースも増えており、昨季はニューカッスルやブライトン、トッテナムといったクラブが来日。今夏にはリバプールが日産スタジアムを訪れ、観客席を赤く染めたことも話題となった。2022年にはエバートンと同じ戦略的パートナーシップを締結したローマが豊田スタジアムを訪問し、名古屋と対戦していることも見逃せない。エバートンは今夏と昨夏、2年連続でローマとプレシーズンマッチを組んだ経緯もある。3チームでの合同開催というサプライズもあり得るかもしれない。

 また、「日本から世界へ」のパターンも忘れてはならない。2025年3月には名古屋グランパスU-16の選手たちがイタリア・ローマ近郊で海外遠征を実施。8月中旬からは同U-18の千賀翔大郎、オディケチソン太地がローマユースで武者修行しているように、親善試合や現地クラブとの交流、異国文化での体験を通して、世界との違いを肌で感じる機会を創出している。来季、名古屋のユースチームがマージーサイドに訪れる可能性も大いにあるだろう。

 新体制のエバートンは、世界的にも評価の高いマンチェスター・ユナイテッドのアカデミーチーフであるニック・コックスをテクニカルディレクターとして引き抜いた。アカデミー、ユース年代の管理から、クラブのトレーニング施設、メディカルなどを管轄する。10年近く過ごしたマンチェスター・ユナイテッドでは現所属のMFコビー・メイヌーを始めとしたトップで通用する優秀な若手選手を輩出している。アカデミーに特化した採用活動を積極的に実施する中、ユース出身選手がトップチームの出場時間の25%を占めるようになり、これは2019年から2024年までの指標において、バイエルンに次いで欧州5大リーグで2番目に高い数字となる。

 名古屋は、研修を通じたコーチ同士の情報交換やトレーニング・メソッドの共有、ジュニア世代の短期スクール開設などすでにローマと連携した動きが多々見られており、エバートンとのシナジーにおいても、優秀な人材の発掘や技術の向上、互いのレベルアップを推し進める相乗効果が期待される。

 ここで大きなバックアップとしてポイントに挙げられるのが、エバートンの戦略部門に着任したクリス・ハワースの存在だ。

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Profile

BF

1990年生まれ。愛知県在住。高校時代、ミケル・アルテタのプレーに心を奪われたことがきっかけでエバートンのファンに。WEBメディア『ディアハト』の編集部に所属し、魅力を発信するためnoteやSNSを中心に活動中。3代目エバートンジャパン代表として観戦会なども企画・運営する。

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