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どうなんだ、今季のチェルシー?「世界王者」の一貫した“不安定感”と10代タレントが放つ光

2025.08.26

Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #20

プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。

footballista誌から続くWEB月刊連載の第20回(通算254回)は、クラブワールドカップ優勝の余韻も冷めやらぬまま、準備期間2週間足らずで新シーズン開幕を迎えたチェルシーの現状と展望。

トップ4維持による復活への下積みが妥当、か?

 プレミアリーグの新シーズンが始まった。毎年、イングランド庶民が心待ちにする8月の開幕時期。続く9カ月間も浴び続けたい、太陽の光。綺麗な天然芝と、刈られたばかりの緑の香り。そして、夜8時を過ぎても明るい屋外で味わう、ビールの旨さ。開幕節が気温30度近い夏日に恵まれた今年は、人々のサッカー談義も“開幕ダッシュ”に成功したと思われる。

 そこで、ファンならずとも今季の出来が気になるチームの1つとして、「クラブワールドカップ(CWC)王者」こと、チェルシーがいる。他チームのファンが口にした場合には、茶化し以外の何物でもない肩書きだ。アーセナルファンの友人などは、「真ん中の変な金色ワッペン以外は、まあまあのデザインだな」と、今季のホーム用ユニフォーム評。チェルシーの面々が身にまとう青いシャツの襟元には、現役王者の証であるCWCのエンブレムがある。

 タイトルとしての重みはさておき、決勝でCL王者パリ・サンジェルマン(PSG)を倒してのCWC優勝が、昨季プレミア最年少チームに大きな自信を与えたとの認識はされているようだ。アーセナルの他、やはり西ロンドンの近所にもいるリバプールやマンチェスター・シティをサポートする隣人たちからも、「どうなんだ、今季のチェルシー?」と訊かれる。

 訊かれる側も、ファンの1人として、4年ぶりにチェルシー展望を語れる状態ではある。オーナー交代後、一気に2021年CL優勝チームの解体が進んだ過去3年間は、チーム像すら見えず、展開を読むことも、希望を抱くこともままならない開幕時期だった。

 その点、今季は3年ぶりのトップ4復帰を経ての開幕。とはいえ、「リーグ優勝戦線にも復帰!」とまで威勢の良い予想はできない。国内メディアの下馬評でも、チェルシー4位が圧倒的。スタッツ専門のオプタ社が誇るスーパーコンピュータも、マイクロソフトのAIチャットも4位を予想。かくいう筆者の“青系知能”も、「トップ4維持による復活への下積みが妥当」と、こうしてキーボードを叩かせる。

今季の新加入組、左からU-21ポルトガル代表MFダリオ・エスーゴ(←スポルティング/20歳)、ブラジル代表FWジョアン・ペドロ(←ブライトン/23歳)、U-21イングランド代表FWリアム・デラップ(←イプスウィッチ/22歳)、U-21イングランド代表FWジェイミー・ギッテンス(←ドルトムント/21歳)、オランダ代表DFヨレル・ハト(←アヤックス/19歳)、ブラジル代表FWエステバン(←パルメイラス/18歳)

DFが11人いても、監督が信頼できるCBがいない

 8月17日、ホームでのスコアレスドロー発進もショックではなかった。旧知のカメラマンから、「残念なニュースが」と言われたのは当日の夕方。コーディネートの仕事でクルー・アレクサンドラ(4部)のモーンフレーク・スタジアムにいた筆者は、ピッチサイドで文字通り芝の匂いを嗅ぎながら、撮影に何か不具合でもあったのかとドキッとした。だが聞けば、「クリスタルパレスに勝てませんでしたよ」との知らせ。そちらは覚悟の上だったので、(不謹慎にも)ホッとする自分がいた。

 前月のCWC決勝戦をテレビで観戦しながら、「このPSGほどゴール前でスペースを与えてくれるチームはプレミアにはいない」と思っていたが、現在のパレスはそんなやり難い相手チームの典型だ。後日、録画映像で確認してみれば、6年前から存在していたことすら知らなかった、FK時の攻撃側による反則行為に関するルールに救われた敗戦回避でもあった。決定機を作らせてもらえなかったチェルシーの90分間は、右SBのマロ・ギュストが89分に放った、無謀で的外れのロングシュートが象徴するかのようだった。

……

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Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。

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