REGULAR

注目度は父以上!36歳“もう一人のアンチェロッティ”がリオで上々の監督デビュー

2025.08.10

サウダージの国からボア・ノイチ 〜芸術フットボールと現実の狭間で〜 #19

創造性豊かで美しいブラジルのフットボールに魅せられ、サンパウロへ渡って30年余り。多くの試合を観戦し、選手、監督にインタビューしてきた沢田啓明が、「王国」の今を伝える。

footballista誌から続くWEB月刊連載の第19回(通算197回)は、偉大な父親を長年コーチとしてサポートし、その新天地ブラジルに同行して約1カ月後、ついに独り立ちした“アンチェロッティJr.”について。

「僕はカルロのイエスマンじゃない」

 今、ブラジルで最も注目されている監督と言っていいだろう。ある意味では、セレソンを率いて来年のW杯に挑む父親以上に――。

 ダビデ・アンチェロッティ、36歳。選手時代はMFで、父親が栄光を極めた(注:選手として2度、監督としても2度、欧州の頂点に立った)ACミランのアカデミーに在籍した。しかし、「選手としての才能に限界を感じて」(本人)2009年、20歳にして現役を引退。大学でスポーツ科学を学び、指導者を目指した。

 2012年、父親がパリ・サンジェルマン(フランス)の監督に就任すると、フィジカルコーチを務めた。2013年、父親がレアル・マドリー(スペイン)へ招へいされると、やはりフィジカルコーチに。

 2016年に父親がバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)の監督に就任すると、今度はアシスタントコーチとなった。2018年からはナポリ(イタリア)で、2019年末からはエバートン(イングランド)で、そして2021年からは再びレアル・マドリーで、同じく父親を補佐。2023年7月には、優秀な成績でUEFAプロライセンスを取得している。戦術を練り、セットプレーを担当するなど重要な役割を担って、「カルロの秘密兵器」とも言われた。

 偉大な父親に引き立ててもらったことで、当然ながら「親の七光り」と揶揄(やゆ)する声が出た。本人は「カルロの息子であることを、心から誇りに思う。ただし、アンチェロッティという苗字を持つことは大きなプレッシャーでもある」と打ち明ける。

 その一方で「僕はカルロのイエスマンじゃないし、またそうであってはコーチである意味がない」と明言。「自分の意見やアイディアを、臆することなくカルロに伝える。もちろん、最終的な決断を下すのは監督だけどね」と語る。

……

残り:1,946文字/全文:2,932文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

沢田 啓明

1986年ワールドカップ・メキシコ大会を現地でフル観戦し、人生観が変わる。ブラジルのフットボールに魅せられて1986年末にサンパウロへ渡り、以来、ブラジルと南米のフットボールを見続けている。著書に『マラカナンの悲劇』(新潮社)、『情熱のブラジルサッカー』(平凡社新書)など。

RANKING