
サウダージの国からボア・ノイチ 〜芸術フットボールと現実の狭間で〜 #17
創造性豊かで美しいブラジルのフットボールに魅せられ、サンパウロへ渡って30年余り。多くの試合を観戦し、選手、監督にインタビューしてきた沢田啓明が、「王国」の今を伝える。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第17回(通算195回)は、3月の悪夢からムード一変、待ち望んだ新監督の到来とともにW杯行きの切符をつかんだ、新生セレソン(ブラジル代表)の2試合をレポート。
「さすが、世界の名将だ。瞬く間に、ダメなセレソンをまったく別のチームへ作り変えてくれた」
これが、6月10日に2026年W杯南米予選第16節パラグアイ戦で1-0の勝利を収め、ブラジル代表を23大会連続のW杯出場に導いたイタリア人指揮官への地元メディアと国民の素直な感想だ。
「別のチーム」というのは、「3月25日、アルゼンチンに4-1で大敗したチームと比較して」という意味に他ならない。
この時は、宿敵に試合を完全にコントロールされた。常にボールを握られ、集中砲火を浴びた。攻守両面でまったくいいところがなく、多くの人が2014年W杯準決勝でドイツに1-7の歴史的大敗を喫した悪夢を思い出した。ドリバウ・ジュニオール監督(現コリンチャンス)が解任されたのは当然だった。
5月26日にカルロ・アンチェロッティが監督に就任した時点で、セレソンは南米予選で6勝3分5敗の4位(参加10カ国中)。得点20、失点16で、守備が完全に崩壊していた。
まず手をつけたボランチと最終ライン、さらに攻撃も2戦目で進化
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Profile
沢田 啓明
1986年ワールドカップ・メキシコ大会を現地でフル観戦し、人生観が変わる。ブラジルのフットボールに魅せられて1986年末にサンパウロへ渡り、以来、ブラジルと南米のフットボールを見続けている。著書に『マラカナンの悲劇』(新潮社)、『情熱のブラジルサッカー』(平凡社新書)など。