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良くも悪くも「変わらない」のは実験ゆえ?G大阪の2025シーズン前半戦を振り返る

2025.07.29

天皇杯では準優勝、J1では4位と復活を印象づけた昨季とは対照的に、第24節時点で10位に甘んじているガンバ大阪。良くも悪くも「変わらない」サッカーを展開している2025シーズン前半戦を、東大ア式蹴球部でテクニカルスタッフ、強化、コーチを務めた高橋俊哉氏が振り返る。

 2024シーズンはJ1で4位、天皇杯は準優勝と復権の狼煙を上げたガンバ大阪だったが、今季は24節時点で10位と波に乗り切れていない。開幕戦の大阪ダービーでショッキングな大敗(2-5)を喫すると10勝10敗で辛うじて勝ち負けが並び、得失点差はマイナス。実は3連敗以上はなく、むしろ3連勝はあるのだが、ファン・サポーターからすればそんな“データ”よりも悪い“印象”を受けているのではないだろうか。それはやはり、開幕節や12節のFC東京戦(3-0)、22節の京都サンガF.C.戦(3-1)など、為す術なく大量失点を喫したゲームの衝撃が大きいのだろう。

 昨季と比べればかなりネガティブな様子のG大阪。しかし筆者が見るに、その本質は大きく変わっていない。過去記事『なぜJクラブの戦術サイクルは続かない?G大阪が「普遍性」と「目的意識」の両輪で進む流行の先』で触れたように、「普遍性」や「目的意識」といった戦術的な本質、あるいは原則は今季も共通したコンセプトとして見られるし、その結果としてコントロールして進められている試合も少なくない。

 過言を恐れずに言えば、G大阪は2024シーズンから変わっていない。それは、良くも悪くも、である。変わらないことで良い点もあれば、変わらないことで悪くなった点もある。そしてG大阪が変わることを望まずとも、取り巻く環境は変わっていき、G大阪もまた変化を強いられていく。その前半戦を、自ら変化を起こせず、変化に耐えきれなかった、と表現した上で、その考察について以下に記すこととする。

ネタ・ラヴィ+鈴木に変化が表れるも「ハイプレス」はどこへ?

 まず、「変われなかった」点について。開幕前のG大阪は、昨季からの戦略的ベースの上で戦術的なマイナーチェンジを起こそうとしていたはずだ。それを表したのが、プレシーズンからメディアを通じて聞こえてきた「ハイプレス」という言葉だった。結論から言えば、この「ハイプレス」が何を意図していたのかはわからなかった。確かに前から守備に行く意識は見られたものの、たったそれだけのことが革新的なキーワードになるのだろうか?

 筆者の予想では、これは自らセットするハイプレス、そしてその状態を作り出すボール保持の構造、その両者を指していたのだと考えている。つまり、ボール保持で相手陣形を動かし、奪われても有利な盤面でそのままカウンタープレスに行くこと。セットした状態でも守備の圧力を増し、相手陣内での時間を増やすこと。要は、(守備時だけでも)ペップ・グアルディオラのようなサッカーを目指したのだろう。開幕戦のボランチが、守備強度に特長のある美藤倫ではなくネタ・ラヴィ+鈴木徳真というコンビだったことからも、ハイプレスの準備としてのボール保持も重視していたことが察せられる。

 しかし、その変化は完遂できなかった。多くのG大阪サポーターが忘れているように「ハイプレス」というワードはすっかりと消えてしまい、2024シーズンから続くセット守備で一定の結果を残している。これはまさに、戦術的ベースがある程度維持されているという点で「変わらない」良い点でもあるが、「変われなかった」悪い点でもある。

 そしてこれは、もう1つの「変われなかった」点とも関連性を持つ。それはスカッド面だ。昨季の絶対的な主力だったダワン、坂本一彩(そして山田康太)が相次いで退団。また、戦術的な要の1人だったウェルトンは離脱期間が長くトップフォームにはまだ至っていない。中谷進之介、鈴木、宇佐美貴史も好調時には程遠くコンディションを落としており、純粋なスカッドの厚みで言えばマイナス方向だった。

ダワン+坂本の抜けた穴を埋める選択肢は補強と戦術だが…

 やや本題からは外れるものの、このスカッドの問題点について、もう少し詳しく考えていく。もはや言うまでもないが、2024シーズンのダワンと坂本はチームにおける戦術的なキーマンであった。特にダワンは、時に個人戦術を備えたビルドアップの補助役として、時にクロスやロングボールのターゲットとして、時に広範囲をカバーする守備者として、攻守各局面での大きな役割を有していた。

……

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J1Jリーグガンバ大阪戦術移籍

Profile

高橋 俊哉

1999年生まれ。武蔵高校から東京大学に入学し、文学部社会学専修を経て工学系研究科都市工学専攻に進学。研究内容はスポーツクラブとまちづくりについて。またア式蹴球部ではテクニカルや強化、コーチとして活動。好きなチームはガンバ大阪で、好きな選手はオジェソクと岩下敬輔。高校時代は気持ちで闘うタイプの選手でした。note: https://note.com/techtaka X: @techtaka

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