このクラブで戦い続ける覚悟。アルビレックス新潟・長谷川元希が「正味こっからでしょ新潟」と信じる意味
大白鳥のロンド 第25回
24節が終了したJ1での立ち位置は最下位。アルビレックス新潟が置かれている状況は、決して楽観視できるようなものではない。だが、チームトップのゴール数と、チームトップの出場時間を誇るこの男は、ビッグスワンのサポーターとともに、この苦境のシーズンを最後まで戦い続ける覚悟を決めた。長谷川元希は、諦めない。オレンジのユニフォームに袖を通す限り、最後まで、絶対に諦めない。
覚悟の残留。自分を必要としてくれるチームで戦う
アルビレックス新潟で、戦い続ける。そう決めてから、迎えた最初の試合が、7月20日のJ1第24節・サンフレッチェ広島戦だった。ピッチでのウォーミングアップ中、サポーターから名前がコールされ、自身の応援歌が始まると、長谷川元希はボールを蹴る足を止めて、ゴール裏を埋め尽くすサポーターを見つめた。「長谷川元希 オレオレオレオー」の歌声にのって届く、期待や感謝や愛情を体全部で受け止めると、頭上で拍手し、深く頭を下げた。
この夏、新潟から5人の選手が他クラブへ移籍した。6月に小見洋太が柏レイソルへ完全移籍すると、7月に稲村隼翔がセルティックFC(スコットランド)、宮本英治がファジアーノ岡山、太田修介が湘南ベルマーレへ、それぞれ完全移籍。さらに秋山裕紀が、SVダルムシュタット98(ドイツ)へと期限付き移籍で旅立った。
同じJ1でより上位のクラブや海外へ引き抜かれていくことは、新潟の選手が評価されている証でもある。しかし5月以降、降格圏に沈んだままのチームから次々と戦力が抜けていくことは、新潟サポーターを不安に陥れ、SNSは荒れた。
4人目の太田が移籍する9日のタイミングで、クラブは番記者を集めて会見を行った。対応したのは、栗原康祐常務取締役と寺川能人強化本部長。既存選手の奮起を促しつつ、選手の獲得には動いていること。補強に必要な強化費を制限しないこと。今、頑張っている選手とスタッフの環境についてもサポートすること。質疑応答を通して、現状が説明された。
新潟加入2年目の今季、開幕から唯一全試合に出場し、6得点1アシストと結果を出していた長谷川にも、今夏、他クラブからのオファーが届いていたという。だが、最終的には、新潟に残ることを決断した。これについては、リーグ中断期間の14日に、クラブ広報が公式有料サイト「モバアルZ」で発信した記事で、メディアもサポーターも知ることとなった。リーグ再開戦となる広島戦前日の19日の会見で、長谷川は「新潟の内部の人も、外部の人も含めて、自分を必要としてくれると思ったので、最後はそこで決めました」と、残留決断の理由を語った。
新潟で、戦い続ける。その決断は、J1残留というミッションとセットだ。「『内容はいいから、次(頑張ろう)』と言って、公式戦で5連敗している。正直、『次』っていえる内容でもないと思う。本当にどれだけ勝ちたいか。そこしかない。僕はとにかく、それをみんなに伝えて、示す」。覚悟を決めた真っ直ぐな目で、必勝を誓った。
アルビ加入2年目に取り組んだ肉体改造の成果
今季、長谷川元希はJ1第24節終了時点で、24試合に出場し、6得点1アシスト。ヴァンフォーレ甲府から新潟へ加入した昨季は、33試合出場に出場し、1得点1アシスト。比較すると、より数字で結果が出ている。
2024シーズンのホーム開幕戦となったJ1第3節・名古屋グランパス戦(◯1-0)で移籍後初ゴール。これが決勝点となり、幸先よくスタートを切ったように見えた。
ただ、その後が続かなかった。ボールを持てば、ドリブルやパスでアイディアを見せるファンタジスタ。昨季のチャンスクリエイト数は、チーム最多の58。だが、結果がついてこなかった。
スタメンに定着できず。本職のトップ下と左サイドハーフでの起用が半々。サイドでは苦手な守備で消耗し、攻撃のチャンスで持ち味を出しきれないこともあった。SNSのコメントやメッセージ機能を通じて届く批判に耐えきれず、小野裕二の前で涙したこともある。加入時「自分に求められているのは数字。それが(23年の)新潟に足りなかった部分だと知って、加入した。やれる自身はある」と意気込んでいただけに、消化不良に終わったシーズンだった。
新潟で2年目を迎えるにあたり、シーズンオフに取り組み始めたのは肉体改造だ。「甲府では、何もしていなくても、うまくいってしまった」と、ルーキーイヤーから7点、8点、7点と、3年連続でコンスタントに得点を積み重ねてきた。しかし、いざJ2からJ1に舞台を移すと、対人強度の不足を体感し、「マジで嫌いだった」という筋トレに取り組み始めた。
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Profile
野本 桂子
新潟生まれ新潟育ち。新潟の魅力を発信する仕事を志し、広告代理店の企画営業、地元情報誌の編集長などを経て、2011年からフリーランス編集者・ライターに。同年からアルビレックス新潟の取材を開始。16年から「エル・ゴラッソ」新潟担当記者を務める。新潟を舞台にしたサッカー小説『サムシングオレンジ』(藤田雅史著/新潟日報社刊/サッカー本大賞2022読者賞受賞)編集担当。現在はアルビレックス新潟のオフィシャルライターとして、クラブ公式有料サイト「モバイルアルビレックスZ」にて、週イチコラム「アイノモト」連載中。
