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EL4強入りのボデ・グリムト、ノルウェー2部から急成長した成り上がり戦略

2025.04.27

TACTICAL FRONTIER~進化型サッカー評論~#15

『ポジショナルプレーのすべて』の著者で、SNSでの独自ネットワークや英語文献を読み解くスキルでアカデミック化した欧州フットボールの進化を伝えてきた結城康平氏の雑誌連載が、WEBの月刊連載としてリニューアル。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つ“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代フットボールの新しい楽しみ方を提案する。

第15回は、EL準々決勝でPK戦の末にラツィオを下し、ノルウェー勢初となる4強入りの快挙を達成したFKボデ・グリムト。ノルウェー2部の小クラブが、いかにして国内リーグの絶対王者となり、UEFAコンペティションでも快進撃を見せるまでの存在となったのか――5大リーグ以外のクラブが成り上がるクラブ戦略、その1つの成功例を解説する。

 アーリング・ホーランドやマルティン・ウーデゴールを輩出したノルウェーは、優秀な選手を育成する土壌を築きつつあるが、この国を注目すべき理由はそれだけではない。

 ヨーロッパで結果を積み重ねてきたFKボデ・グリムトがノルウェー勢として初めてヨーロッパリーグ(EL)ベスト4に進出したのだ。イタリアの古豪ラツィオとのゲームを制した彼らは、準決勝で国内リーグでの不調を払拭することを狙うトッテナムと激突する。ノルウェーサッカーは「選手輸出国」としての価値だけでなくクラブレベルでも存在感を高めており、限られた資金力で欧州の強豪と渡り合うボデ・グリムトの快進撃には、ヨーロッパ中から大きな関心が集まっている。ちなみに、名古屋グランパスのキャスパー・ユンカーや浦和レッズのマリウス・ホイブラーテンも、このクラブの出身者だ。

プレーヤートレーディングからUEFAコンペティション重視へ

 2017年に総予算が420万ユーロに過ぎなかったボデ・グリムトは、そこから10年も経たないうちに6000万ユーロの予算を持つクラブへと急成長を遂げた。当然ながら支払わなければならない費用も増えているが、当時ノルウェー2部に所属していた小さなクラブが「ノルウェーで最も経済的に安定したクラブ」に変貌したのだ。2023年に450万ユーロだった利益は、2024年には580万ユーロまで増加。スカンジナビア半島勢でも上位のUEFAランキングを維持するクラブとなった彼らは、ノルウェー国内リーグでも過去5シーズンで4回の優勝という成果を成し遂げている。

 2019年からクラブは、選手の売却で利益を出すことを1つの戦略としてきた。多くの中堅クラブが同様のアプローチで成長してきたように、彼らも育成に注力することでノルウェーの若手を成長させ、欧州トップリーグに売却。イェンス・ペッター・ハウゲを2020年にミランへ売却したのを皮切りに、エリック・ボッタイムは2022年にロシアリーグのクラスノダールへ移籍させた。

 その他にも移籍市場での成功例は数多くある。

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Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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