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ピッチ内で復権の狼煙を上げるインテル。成長維持へ、ピッチ外の戦いが鍵に

2020.08.20

コロナ禍のクラブへの影響:インテル

セリエAで絶対王者ユベントスを勝ち点1差まで追い詰め、ELではUEFAカップ時代の1997-98以来となる決勝進出。新たに着任したアントニオ・コンテ監督の下、ピッチ内では上々の成績を残した。ただ、復権のためのピッチ外での舵取りは、コロナ禍によってより大きなダメージを受け得るものだった。ピッチ外での不安とそれを解消するために打った手立てをまとめておこう。

 2億7600万ユーロ(約331億円)の下落――スイスにある研究機関CIESフットボール・オブザーバトリーは3月末、インテリスタたちを不安に陥れるような数値をぶち上げた。コロナウイルスにより中断しているセリエAが再開することなくそのまま終わった場合、インテル所属選手の市場価値はこれだけ低下していたという。パーセンテージで言うと35.7%。これだけの減価率が生じるのはヨーロッパでもマルセイユ(同38%)に次いで2位、もちろんイタリアでは1位だ。巨額をはたいてロメル・ルカクやエリクセンを購入してきたインテルだが、ドイツの移籍情報サイト『Transfermarkt』は両者ともに1700万ユーロ(約20億円)ほどの価値が失われるとしていた。

 別会社の調査ではそこまで悲劇的な数値を出していないところもあったし、リーグが再開し無事終了したことで風向きは変わってきた。しかし、中国の家電小売大手である蘇寧グループの後ろ盾の下、緊縮財政からメガクラブへの返り咲きに舵を切っていたインテルにとって、 先行きに不安がないとは言いがたい状況だったのである。

評価は格下げ

 インテルは収入も大きいが、支出もまた大きいのが現状。グループ企業から資金提供、中国方面からのマーチャンダイジング収入、そしてCL復帰などによって大幅に収入を増やし、昨季の総収入は約3億7700万ユーロ(約452億円)に達した。しかしその分、近年はFFP対策のため抑え気味だった戦力レベルを一気に上げたため、支出も多くなった。一方で、今季の収入は昨季より減少すると見込まれている。3月31日までの9カ月決算では、アジア方面からのスポンサー収入が軒並み契約切れを迎えたことが影響し、昨季同時期と比べて1820万ユーロ(約22億円)の減収を想定。そして、当然そこにコロナの影響が加味される。

 クラブは5月28日の決算発表で「リーグ戦再開が決定していないから正確な損失の算出はできない」と、具体的な影響額の算出を避けた。だが、ある程度は推測可能だ。シーズン再開後のホームゲームは7試合、それがすべて無観客試合で終わったことで、得られるはずだった1750万ユーロ(約21億円)の入場料収入がなくなる。

 純資産に乏しく、資金調達に際し金融機関からの貸付金を受けているこのクラブの財政状況では、コロナ禍での減収は危機への呼び水となってしまう恐れがあった。インテルはトヒル前会長の時代に、アメリカの証券会社ゴールドマン・サックスを通して3億ユーロ(約360億円)の債券を発行し資金を調達していた。だが、この状況で返済には不利になったと判断されたのか、世界最大の格付け機関であるS&Pグローバル・レーティングはインテルの債券の評価をBB-からB+へと下げている。

収入確保への2つのオペレーション

 この状況でも、クラブとして収入を増やさなければならないインテルの動きで重要だったのが、以下の2つ。新しいスポンサーの確保に向けた取り組みと、イカルディの完全移籍だった。

 まず前者だが、長年クラブのメインスポンサーだったピレリ社に代わり(同社は今後も引き続きスポンサーに残る模様)、年間で少なくとも3000万ユーロ(約36億円)の収入を保証する企業の選択へと入っている。中国からeコマース大手のアリババ、または海運会社の長栄海運を中心としたエバーグリーン・グループなどの参入が噂されているが、アメリカ方面から募ることも検討されているという。中には長年のサプライヤーだったナイキ社との契約まで見直すという噂まで上がったほど。動向が注目される。

 そして後者については、リーグ1の中止で一足先にシーズンオフへと入ったパリSGと交渉をつけ、レンタルで放出したイカルディを推定5000万ユーロ(約60億円)+ボーナス800万ユーロという条件で売り抜けた。インテルは当初設定していた買い取り費用7000万ユーロ(約84億円)から下げたくなかった模様だが、かつて同クラブで監督を務めたレオナルドSDがうまく話をつけたこともあり妥結。選手の市場価値が下落する中、17%強の値引きは妥当な範囲に収まったと言える。いずれにしてもインテルは、移籍市場そのものの冷え込みが懸念される次期にビッグディールを成立させた。「これでインテルがラウタロをバルセロナに売却してしまえば、バランスシートを気にすることなく1億6000万ユーロ(約192億円)ほどの資金で補強を進めることができる」などと書き立てた地元メディアもあった。

 先を見通すのはまだ簡単ではない状況だが、幸いなのは蘇寧グループの経営が堅調であることだ。2019年の決算では12億ユーロ(約1440億円)ほどの黒字をグループとして計上しており、チャン・チントン会長は「コロナウイルスというストレステストに耐えることができた」と、少なくとも当面は経営面で揺るぎないことを表明している。とりあえず現在の経営の根幹をなす、中国企業グループとの関係は当面変わることはないようだが、最近1、2年の成長ペースに戻ることができるかは今後の努力次第だ。

昨年9月、CLスラビア・プラハ戦を並んで観戦するサネッティ副会長、スティーブ・チャン会長、チャン・チントン氏

Photos: Getty Images

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インテルビジネス

Profile

神尾 光臣

1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。

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