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イングランドサッカーの「異質」。ファギーが、シャビが激賞したポール・スコールズ

2020.06.17

この記事は『プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド』の提供でお届けします。

卓越したパススキルとゲームビジョンを駆使してアレックス・ファーガソン率いるマンチェスター・ユナイテッド黄金時代の担い手となったポール・スコールズ。ここでは、イングランドのサッカースタイルとその中心を担ったセントラルMFのロールモデルの系譜をたどるとともに、イングランドサッカー界において彼が「異質」であった理由、そのプレーの凄みに光を当てる。

BOX to BOX

 ワールドカップに初優勝した1966年のイングランドは[4-4-2]だった。中盤中央はボビー・チャールトンとノビー・スタイルズのマンチェスター・ユナイテッドのコンビである。

 チャールトンは豊富な運動量で広いスペースをカバーし、正確なパスで組み立て、強烈なミドルシュートでゴールを狙った。イングランドとユナイテッドのスーパースターで、この年のバロンドールも受賞している。Box to Box(ボックス・トゥ・ボックス)のモデルといっていい。

 スタイルズは4バックの前に待機するアンカーで、主に相手のセカンドトップをマークする仕事をこなしていた。相手選手を挑発し、ファウルも連発するなどダーティーなイメージのあるスタイルズだが、体格は華奢でフィジカル面に秀でているわけでもなく、むしろ頭脳派のMFだった。守備は確かに粗かったが、ボールを持った時は冷静なパスを散らしていた。

イングランド唯一のW杯優勝時のメンバーであるチャールトンとスタイルズ

 [4-4-2]はイングランドの代名詞になっていくのだが、それが確立されたのは1970年代後半からのリバプールの台頭あたりである。チャールトンとスタイルズのような攻守分業ではなく、中盤の4人がフラットな横並び。それぞれのMFが攻守を同等に請け負った。プレーメイカー、攻撃的MF、守備的MFというような選手の特徴がポジションになるのではなく、位置(ポジション)そのもの。右、左、中央右、中央左である。

 イングランドは炭鉱街出身の選手が多かった。リバプールのスタイルを築いたビル・シャンクリー監督もそうだった。バスタブに浸かると湯が真っ黒になってしまうので、「12歳まで浸かったことがなかった」と本人が回想しているように過酷な労働環境だった。シャンクリーは自身を「心情的な社会主義者」と言っていて、厳しい環境の下では仲間が助け合う平等な関係が必要だったのだろう。それが反映されているのか、シャンクリーはチームに特権階級を作っていない。守備をしなくていい選手はいなかった。エースのケビン・キーガンでもMFでプレーするときは攻守両面でやるべきことをやらなければならず、守備を軽減されることはない。平等なのだ。

 イングランド式[4-4-2]には、いわゆる「トップ下」が存在しない。他国でトップ下の背番号である10番をつけるのは、イングランドではだいたい2トップの1人だった。トップ下の役割を果たすのはケニー・ダルグリッシュ(スコットランド人だがリバプールでプレー)のようにトップから下がるFWか、ブライアン・ロブソンのようなBox to BoxのMFだった。後者はフランク・ランパード、スティーブン・ジェラードなど多くの名手を輩出している。チャールトンの後継者たちだ。

ランパードとジェラード(中央)。2000~2010年代、イングランドのBox to Boxプレーヤーの代表格として真っ先に名前の挙がる2人だ

最高の2タッチプレーヤー

 マンチェスター・ユナイテッドでボビー・チャールトンの後継者と言えば、ポール・スコールズが第一だろう。アレックス・ファーガソン監督の下、黄金時代を築いた重要な選手だった。

 スコールズはイングランドの中では明らかに異質だ。小柄で俊敏、抜群の技巧派で頭脳派、比較するならスペインのシャビとよく似ている。イングランドでこの手のタイプが皆無というわけではないが、決められたエリアの守備をまっとうするには体当たりも空中戦もスライディングタックルもしなければならない。大きくてパワフルな選手がどうしても優先になる。

 キーガンは小柄だったが鎧のような筋肉を纏っていた。スコールズは168cmと小柄なだけでなく体つきも何となくプニョプニョしている。太っているわけではないのだが筋肉質という感じでもない。それでネコのように柔らかく敏捷なのだ。ユナイテッドのコーチで、後にイングランド代表も率いたスティーブ・マクラーレンはスコールズを評して、

「最高の2タッチプレーヤー」

 と、絶妙の表現をしている。ヨハン・クライフによれば「1タッチでプレーできるのは素晴らしい選手、2タッチはまあまあ、3タッチはダメな選手」だそうで、2タッチでは「まあまあ」になってしまうのだが、マクラーレンがあえて「最高の」とつけているのはそれなりの理由がある。

 クライフが1タッチを称賛するのは、ファーストタッチで正確にパスする技術があり、それがタイミングよく使われた場合である。パスのためにコントロールが必要なら大したことはなく、3回は論外という意味だ。マクラーレンがスコールズを「最高の2タッチプレーヤー」と言っているのは、1タッチでプレーできるが2タッチでも良いプレーができるということだ。1タッチのパスは、いわば決め打ちである。ボールに触る前にパスを決めている。一方、2タッチはプレーの変更ができる余地を残す。スコールズは良い位置に味方がいれば1タッチでさばく技術と判断力があるが、もう1タッチ追加した方が良いならそうするという意味だろう。1タッチがボールを弾くだけなのに対して、2タッチはファーストタッチで完全にコントロールしなければならない。敵から奪われず、次のタッチでパスを出せる場所にボールを置かなければならず、こちらの方が技術、判断の両面でより高度といえる。2タッチしないとプレーできないのと、2タッチでもプレーできるのとでは大違いなのだ。

真の適性はインサイドMF

 ファーガソンはさまざまなベストイレブンを選出しているが、スコールズを外したことがない。ユナイテッドの「教え子ベストイレブン」にはデイビッド・ベッカムやロビン・ファン・ペルシー、ルート・ファン・ニステルローイは入っていないが、スコールズは当然のごとく入っている。ファーガソンにとってスコールズは1、2を争う存在であり、シャビやイニエスタ、グアルディオラなどもスコールズを激賞している。

ファーガソンとスコールズ。写真の1999年に達成したトレブルをはじめ、名将の下で25のタイトルを掲げた

 ベッカムやライアン・ギグスも素晴らしい選手だが、スコールズは別格と言っていい。キックやドリブルが凄いというのではなく、総合的に生粋のフットボーラーとしての資質が高いのだ。

 ただ、その才能からするとユナイテッド、イングランド代表で、もっと活躍していても良かったのではないかという気もする。

 ユナイテッドではテクニックとゴールセンスからFWでプレーし、やがてロイ・キーンに代わってセントラルMFとしてプレーした。イングランド代表ではランパードとジェラードがいたので、左のサイドMFが定位置だった。しかし、どれもスコールズの本領を発揮させるには向いていない。万能選手なので、どのポジションをやっても十分なプレーは見せている。しかし、スコールズの能力を最大限に引き出すポジションはそこではない。

 ところが、イングランドのシステムにはそのポジションがないのだ。インサイドMFである。

 例えば、バルセロナの[4-3-3]のインサイドMFとしてプレーしていたら、スコールズはさらに輝きを増したのではないか。その技術、ビジョン、運動量、敏捷性、得点力をフルに発揮できていたはずだ。シャビと並ぶサッカー史上屈指のMFとして名を残していただろう。スコールズはキャリアを通して120枚ものイエローカードをもらい、10回退場になっている。負けん気の強さゆえだが、守備面でフィジカル的に無理なところをファウルでカバーしていたところもあった。「ボビー・チャールトン」なのに、「ノビー・スタイルズ」にならざるを得なかった。インサイドMFというポジションがイングランドにあれば、ファウルの数もまた違っていたのではないかと思われる。

2010-11のCL決勝でシャビとマッチアップしたスコールズ。シャビは後年、スペイン代表引退に際し「唯一の後悔はスコールズとプレーできなかったこと」と語るほど彼の才能を評価していた。ファンにとっても一度でいいから共演を見てみたい2人だった

◯ ◯ ◯

サッカー草創期からのキック&ラッシュスタイルを伝統とし、激しいコンタクトプレーが特徴のイングランドにおいて、俊敏な身のこなしと抜群のパススキルによるゲームメイクで異彩を放った司令塔ポール・スコールズが、大人気スポーツ育成シミュレーションゲーム「プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド」(サカつくRTW)に登場!

また、豊富な運動量でサイドのアップダウンを繰り返し攻守に貢献、イングランド代表通算107試合出場を誇る歴戦のSBアシュリー・コールも登場する。

「サカつく」未経験の方もこの機会にぜひ、ゲームにトライしてみてほしい。

<商品情報>

商品名 :プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド
ジャンル:スポーツ育成シミュレーションゲーム
配信機種:iOS / Android
価 格 :基本無料(一部アイテム課金あり)
メーカー:セガゲームス

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http://sakatsuku-rtw.sega.com/

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Photos: Getty Images

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イングランド代表サカつくRTWポール・スコールズ

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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