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ゲームモデルはビジネスに生かせる。サッカーから着想を得る次代の経営者

2020.05.14

2018年5月に創設されたフットボリスタのオンラインサロンフットボリスタ・ラボ」。国外のプロクラブで指導経験を持つコーチに部活動顧問といった指導者から、サッカーを生業にこそしていないものの人一倍の情熱を注いでいる社会人大学生、現役高校生まで、様々なバックグラウンドを持つメンバーたちが日々、サッカーについて学び合い交流を深めている。この連載では、そんなバラエティに富んだラボメンの素顔とラボ内での活動、“革命”の模様を紹介していく。

今回は、製造業企業で働く黒田泰孝さん。経営者の視点を持ちながら、好奇心の赴くままラボでも積極的に活動している彼に、サッカーの知見をどうビジネスに応用することができるのか聞いた。

インターネットでサッカーを深掘り


──まずは自己紹介からお願いします。

 「東京都出身で生まれも育ちもずっと赤羽です。サッカーは、味の素フィールド西が丘が近かったりもして、子どもの頃からずっと見てきていました。その後社会人になってインターネットでもサッカーの情報を集めるようになったんですけど、最初のきっかけは確か、らいかーるとさんとかの戦術ブログだったりとか、スケゴーさんが書いていた、やる夫で学ぶシリーズで」


──それはマニアックなところからいきましたね(笑)。ネットでサッカーにはまっていったんですか?

 「確か最初Twitterでスケゴーさんをフォローして、そこからたどっていって。あとは結城康平さんの記事とかも読んでいました。Jリーグでは浦和レッズを追っています。きっかけとしては、弟が帝京高校に通学していて、その当時帝京に田中達也選手がいたんですけど、体育祭の部活対抗リレーで野球部とかフィジカルエリートがそろっている部活をアンカーでぶち抜いて優勝したって話を聞いたんです。その田中達也が浦和レッズに入るということで、見るようになったという感じです」

同じく快足のエメルソンと前線でコンビを組み、浦和でブレイクを果たした田中達也


──当時はエメルソンと田中達也の2トップですね。

 「ありましたね(笑)。そのあたりから見始めました。ただそれまでも、サッカーに関わる大きなイベントは、テレビとかでは見ていて。小学生の頃は、Jリーグの開幕戦の抽選に当たって見に行ったり、ドーハの悲劇も親父と一緒にテレビに噛りついて見ていました」


──フットボリスタとの出会いはどういうタイミングだったんですか?

 「2017年くらいから読み始めて、でも密に読むようになったのはその翌年くらいからですかね。ラボに入る少し前くらいだと思います」


──フットボリスタ・ラボに入られたきっかけは何だったんですか?

 「募集を見て、なんか面白そうなことをやってるな、と思って。それまで見ていたサッカーメディアとは違う流れが起こり始めているぞ、みたいな感じで見てましたね。ちょうどその頃ロシアW杯とかもあって、サッカーをより深く見られるようになれたらという動機もありました」

ゲームモデルとビジネスの類似性


──黒田さんは会社の経営も学んでいますよね。

 「そうですね。父が経営している会社に入ってまして、将来的には僕も経営に関わっていく前提で仕事をしています。サッカーから学ぶことも多くて、戦術的ピリオダイゼーションとかがフットボリスタで取り上げられているのを見て、ビジネスにも取り入れられるんじゃないかと思ったりしていています」


──戦術的ピリオダイゼーションやゲームモデルの考え方とか、クラブのフロントも含めた総力戦もそうですが、近年の欧州サッカーのトレンドはビジネスにも結構近い部分がありますよね。

 「戦術的ピリオダイゼーションの話が出てきたくらいの時期、ちょうど僕も今後会社がちゃんと地盤を築きながら継続的に成長していくためにどう仕組みを作っていこうかと意識し出した頃でした。人材育成を基盤として大きな方針を作りながら、現状は曖昧な部分の解像度を上げていく必要があるんだろうなと漠然と思ってはいたんですが、そこでゲームモデルとか戦術的ピリオダイゼーションのことを知って、これは親和性があるんじゃないかと思いました」


──サッカー界のトレンドとご自身の会社で目指す変化に、重なるところがあったんですね。

 「それまで僕は、サッカークラブってなんだかんだでちゃんと運営されているものだと思っていたんですね。不可解な監督の交代とかがあっても、経営陣はちゃんと考えての上のことなのだろうなと。でも実は思ったほどちゃんとしているわけでもない、割と強いワンマンオーナーさんが剛腕を振るっているような状況も結構あるんだなと知って。そういう意味では、(新しい考え方が入ってきた)今はサッカークラブがある種企業として正常な形に近づいていってるのかなと思います」

ユルゲン・クロップの隣を歩くジョン・ヘンリーは、 2010年にリバプールを買収したフェンウェイ・スポーツグループを率いるアメリカ人投資家。メジャーリーグのボストン・レッドソックスで成果を挙げた経営術を持ち込んでいる


──ヨーロッパサッカー全体で見ても、ワンマンオーナーみたいな体制は限界を迎えてきていて、どんどんアメリカだったり他国からもきちんとビジネスができる人が入ってきています。

 「僕の会社は中小企業なんですけど、やっぱり周りを見てもワンマンオーナー型がほとんどで。でも、周りの僕より全然若い社長さんから聞いた話だと、コンサルさんから会社の方針、サッカーでいうゲームモデルですね、それをまずきっちり定めましょうという話をされているそうなんですね。松下幸之助さんとかの名前がよくビジネス書とかで出てきますけど、そういう1人のマンパワーでどうにかするのではなく、組織体として改善していこうという認識が周りでも広まっているなと感じます」


──戦術的ピリオダイゼーションは組織の意思決定にフォーカスしている考え方じゃないですか。ゲームモデル、プレー原則を決めることで、意思決定の根本となる共通の判断基準が生まれる。一方で、企業ブランディングも、その企業が何を目指しているのか、どういうコンセプトがあるのかをはっきり内にも外にも見せることで価値を創造していくもので、近いものがあるなと。

 「そうですね。意思決定の話もそうですし、わっきーさんの本(『プレー経験ゼロでもできる実践的ゲームモデルの作り方』)の中でも語られてたと思うんですけど、ゲームモデルを定めることで評価基準ができるというのも、ビジネスに応用できる部分だと思いました。僕の会社も、会社として目指すところに納得してもらいながら、評価基準を明確にしていかないといけないという課題があるので。あとはいろんな法規制もだいぶ強まってきてると思うので、働き方改革もそうですし、ハラスメント対策とかも、闇雲にやるんじゃなくて、背景を踏まえた上でやることがこれから先は求められていくと思っています」


──今話していたような戦術的ピリオダイゼーションはポルトガル発祥の考え方ですが、いわゆる欧米的なアプローチと日本的なアプローチって相容れないところとかもあるかと想像するんですが、どうでしょう?

 「個人的には、評価軸が欧米的だから日本にそぐわないということはあまりないと思うんですよね。そうした考え方は、あくまで今まで曖昧だったものを可視化するだけのものであって。それに対してどう意思決定するかは自由なので。ただ、それをどう受け入れられやすい形にできるかっていうのは工夫しないといけないところだと思います」


──文化や状況に合うように伝わる説明ができれば、というところですよね。

 「そうですね。例えば戦術的ピリオダイゼーションとかもそうですけど、提示する側が考えたことをそのまま共有しても、全員に直感的に理解してもらえるわけではないので」


──黒田さんがフットボリスタ・ラボのいろんなイベントに参加しているのはビジネスへのヒントを探る意味合いもあるんですね。

 「いろんな人の話を聞くことで意外な気づきがあります。例えば代理人の柳田佑介さんの移籍ビジネスを解説してもらうイベントに参加して、クラブ経営の中での選手の立ち位置って、僕は従業員的な立ち位置だと思っていたんですけど、クラブと選手の契約はあくまで対等なものなんだなと。むしろ今のサッカークラブの会計的には、違約金という形で選手登録の権利を無形固定資産として計上して、それが定額法で償却されていくという仕組みもあって、より選手が自身の価値を示しやすい環境なんだと知ることができました」


──要は人件費より設備投資に近いということでしょうか?

 「はい。でもそういう会計上の扱いをされていると理解をしている選手は少ないと思いますし、どの会社もそうですけど、労使間で見えてる景色というか情報に格差があるんじゃないかと感じて。ちゃんとアドバイスをしている代理人の方もいらっしゃるとは思いますけど、そこの情報不足を解消していけば、不幸な移籍が減っていくのかなと。総じてこれからはお金に対するリテラシーを選手自身がもっと持っていかないといけないんだろうと思います」


──逆にビジネスパーソンがサッカーから学べることについてはどう思いますか?

 「サッカー選手が持っている、組織内での規律、それぞれの関係性があってこその組織だというマインドはビジネスでも大事だと思います。あとはサッカー選手の好きなものに打ち込むモチベーションの高さみたいなものは、仕事でもそういうものを一つ何かに対して持つことは大事だと思うので、学ぶべきだと思いますね」


──最後に、ラボで今後やってみたいことをお願いします。

 「今もいろんなところに顔を出してますけど、浅く広くじゃなくて、もっと深く広くできるように、積極的に活動に関わっていきたいなと思ってますし、これからラボに入って来る人たちとも一緒にいろいろやれることをすごく楽しみにしています」


──いつも盛り上げていただいて本当に感謝しています。今後ともよろしくお願いします。今日はありがとうございました!

フットボリスタ・ラボとは?

フットボリスタ主催のコミュニティ。目的は2つ。1つは編集部、プロの書き手、読者が垣根なく議論できる「サロン空間を作ること」、もう1つはそこで生まれた知見で「新しい発想のコンテンツを作ること」。日常的な意見交換はもちろん、ゲストを招いてのラボメン限定リアルイベント開催などを通して海外と日本、ネット空間と現場、サッカー村と他分野の専門家――断絶している2つを繋ぐ架け橋を目指しています。

フットボリスタ・ラボ19期生 募集決定!

フットボリスタ・ラボ19期生の募集が決定しました。

募集開始日時: 5月11日(月)12:00 ~(定員到達次第、受付終了)

募集人数:若干名

その他、入会手続きやサービス内容など詳細はこちらをご覧ください。皆様のご応募を心よりお待ち致しております。


Edition: Mirano Yokobori (footballista Lab), Baku Horimoto (footballista Lab)
Photos: Getty Images

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Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。