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バルセロナに勝利で払った代償――嘘と消耗と

2020.04.04

ウォッチング・グアルディオラ特別公開 #2

戦術、指導、分析、会話、移籍、参謀、料理……ペップ・グアルディオラのAll or Nothingな仕事術を密着取材で明かす『ペップ・シティ スーパーチームの設計図』が3月31日に発売となった。その刊行を記念して、共著者ル・マルティンが雑誌『footballista』で連載中の『ウォッチング・グアルディオラ』から、選りすぐりのエピソードを特別公開。

#2は2016年11月1日、シティ指揮官として古巣バルセロナを下した夜に起こった“事件”と、強豪の中の強豪相手の勝利がチームに与えた影響を明かす。

 エティハド・スタジアム(UEFAが「シティ・オブ・マンチェスター」と呼ぶのは欺瞞である)の階段ではメッシが「何馬鹿みたいに祝っているんだ」と憤っていた。マンチェスター・シティの選手たちはCLの舞台での“初めての勝利 ” を祝っていた。3-1。“Brexit”への拒否者が最も多かったマンチェスターで、シティファンが最もヨーロッパ大陸へ近づいた瞬間ではなかったか。負けることが大嫌いなメッシは相手選手、クラブ職員と誰彼問わず目の前にいた者に不満をぶつけていた。

 ロッカールームでドメネク・トレント助監督と前半バルセロナに押し込まれた20分間を振り返っていたグアルディオラは、この揉め事について何も知らなかった。話の最中にアシスタントコーチが飛び込んで来て「レオが揉めていて大変だ」と言った。グアルディオラは無理もない、と思った。バルセロナ側からすればこれほど痛い敗戦はないことを知っていたからだ。

 「我われは一定のやり方で勝つことを教えられた。だが目的は勝利だ。どんな方法でも良いわけではないが、勝つためにプレーする」と選手時代にグアルディオラは言っていたし、Bチームを率いた時にもトップチームを率いた時にも、バルセロナの会見場で同じフレーズを耳にしたことがある。

メッシと小競り合いをしたのは誰?

 だがそれでも、バルセロナの方から自分のアシスタントに対して失礼なニュースが届くとは思っていなかった。その夜スペインのテレビ局『ラ・セスタ』はフェルナンジーニョとメッシが小競り合いをしたと報道。翌日、別のスペインメディアはテクニカルスタッフのミケル・アルテタとぶつかったとしたが、これらはいずれも嘘だ。3日後の『ムンド・デポルティーボ』紙のトップ記事ではトレントが挑発したという話になっていた。だがトレントはその場にすらいなかったのだから、これもまた嘘である。元バルセロナ監督のカルレス・レシャックが嘆いたことがある。「一流の監督の仕事の70%はグラウンド上で起こることと無関係なメディア対応である」と。

 「バルセロナと対戦するのはこれだから消耗するんだ」と、グアルディオラは練習場の控室で吐き捨てるように言った。偉大な勝利の反動はスペインメディアとの長年のツケ、多くの嘘となってやってきた。唯一の真実は、バルセロナからの特派員2人が試合後のミックスゾーンで恥ずかしいつかみ合いを演じた、ということだ。

 バルセロナへの歴史的な勝利はグアルディオラを消耗させた。翌日のグアルディオラは選手よりも疲れているように見えた。メッシを倒すということはそれほど大変なのだ。

 快勝劇はチームにも“二日酔い”を残した。3日後、ミドルズブラは90分の同点ゴールでシティのホームスタジアムから勝ち点を奪って行った。前半に信じられないセーブを見せた相手GKビクトル・バルデスは、グアルディオラとともにCLを2度、リーガを4度勝ち獲った元バルセロナの選手。グアルディオラは「バルセロナでは彼が我われを決勝に連れて行ってくれた。チームのレベルを一段上げる選手だ」と試合前日に褒めていた。試合後ミドルズブラのファンは「バルデスの方がお前らより獲ったタイトルは多いぞ!」と上機嫌で歌っていた。

シティで常勝を義務付けられること

 その歌詞はシティの現実を表している。

 「誰も簡単だと言ってはいない。難しいことはここに来た初日からわかっていた」

 苦しんだ末にトゥーレ・ヤヤの2ゴールで勝利したクリスタルパレス戦をグアルディオラはこう振り返った。シティにはリーダーとゴールゲッターがいない。アグエロを除けばシルバくらい。キャプテンはともにケガがちなコンパニとサバレタである。しかし、グアルディオラは言い訳はしない。どんな状況でも勝利を義務付けられていることはメッシを擁するチームを率いていた頃からわかっていたが、今はそれをメッシ抜きでやらなくてはいけないのだ。

 第13節バーンリー戦(1-2)も苦しみながらの勝利だった。勝ちさえすれば良いわけではないが、勝たなくてはいけない試合だった。目標は達成した。12月に入る前に“シティ・オブ・マンチェスター”でのセルティック戦を残し、エティハドにチェルシーを迎える前にCL決勝ラウンド進出を決めた。呼び名は違えど同じスタジアムで同じ唯一の目標――勝利――を目指す。長年のシティファンからすれば良い試合をすれば満足ということかもしれないが、グアルディオラが自らに課し周りから期待される目標は違う。勝ち続けることが義務でありバルセロナに快勝したものの、ミドルズブラと引き分け、クリスタルパレスとバーンリーには辛勝だったように、全勝街道なんて走れないのが現実だ。

 選手としてのグアルディオラはタイトル争いをするチームだけでプレーしたわけではない。セリアAのブレシア時代はロベルト・バッジョとキャプテンの座を分け合い、影響を受けたカルレット・マッツォーネ監督の下、ルカ・トーニら若いタレントがいたチームで1部残留を目指した。そうして残留を達成したグアルディオラは幸せだった。今も同じような状況だ。タイトル争いの常連ではないシティで常勝を義務付けられ、日々消耗し苦悩する。挑戦の先は長い。

「ネイマールとメッシに電話した事実はない」「メッシはバルセロナに残る」「ピケが会長に立候補したら彼に投票する」……。バルセロナとの“因縁”はいつまでもつきまとう

Photos: Getty Images

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ジョセップ・グアルディオラマンチェスター・シティ

Profile

ル マルティン

高名なスペイン人記者。1980年代からラ・リーガと母国代表をテーマに執筆活動に勤しむ。2001年出版の『La Meva Gent, El Meu Futbol(私の人、私のサッカー)』は、ペップ・グアルディオラ自身との共著。マンチェスターとバルセロナを行き来しながら、シティのグアルディオラ体制を追う。2016年から『footballista』で「ウォッチング・グアルディオラ」を連載中。