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華々しい話題の陰で…スペイン女子1部ストライキ決定の背景

2019.10.29

2019年10月28日、スペイン女子1部リーグで先週決定した無期限ストライキについて、11月16、17日から実行されることが発表となった。

2019女子W杯ではベスト16入り、プロリーグでは観客動員記録を更新し、今季からレアル・マドリーの参戦も決定 景気の良いニュースが続いていたスペイン女子サッカー界だったが、華々しい話題の裏には酷い実態があった。

その背景事情について、今シーズン開幕前に指摘していた月刊フットボリスタ第72号掲載コラムを再編集し転載。ストライキに至る原因となった、過酷な労働環境について知ってほしい。
※記事内の情報は断りのない限り2019年7月末時点のもの

 昨季は女子サッカーがブームに沸いた。リーグ優勝を懸けた今年3月のアトレティコ・マドリー対バルセロナは6万人超でワンダ・メトロポリターノが埋まり、史上最多動員を記録。スペインサッカー連盟(RFEF)は「世界記録!」と大いに喧伝した。

 だが、リーグ優勝を果たしたアトレティコの選手たちのボーナスが1人当たり54ユーロ(約6500円)という、お年玉なら昨今の小学生でも怒りそうな額であったことは知られていない。例えば、レアル・マドリーの男子チームのリーグ優勝ボーナスは1人当たり30万ユーロ(約3600万円)だったのだ。また、当日のチケット代は一般で5ユーロ(約600円)、年会員は無料だった。男子でこの顔合わせであれば年会員でも30ユーロ(約3600円)程度は追加料金を払わされ、一般なら80ユーロ(約1万400円)は下らないところだ。

 この金額の差は当然、彼女たちの報酬に反映される。例えば、レアル・マドリーが1部昇格ライセンスを買収したCDタコンは、所属選手何人かに給料未払いで訴えられたのだが、その額はなんと月給300ユーロ(約3万6000円)だった。しかも、社会保険完備の約束ながら実際は加入しておらず、とまるでブラックバイト並み。選手の中には家賃が払えずアパートを追い出された者もいたという。

 こんな酷い待遇で、それすらも支払ってもらえなくて1部昇格を果たした彼女たちのプロ意識には、感服するしかない。スペインの最低賃金は月給900ユーロ(約10万8000円)なのだが、それを下回っているのは時給換算だから。ちなみに男子選手の場合は1部リーグで最低15万5000ユーロ(約1860万円)、2部で7万7500ユーロ(約930万円)が保証されている。

月給4万円弱、治療費自腹、妊娠したら解雇…

 こんなデタラメが横行しているのも、女子サッカー界には「労働協約」がないからだ。

 労働協約とは、労働者の権利を守るために労働組合と使用者の間で結ばれた取り決め。先の男子選手の最低賃金はこの労働協約によって定められており、それ以下の賃金契約は「協約違反」で無効だ。が、女子に限ってはプロであっても協約がないため、給料の時給換算とか、長期負傷の治療費は自腹とか、夏休みは無給とか、妊娠したら即解雇とかの不当な扱いを受けることもあった。もちろん、アスレティック・ビルバオやバルセロナ、レバンテ、アトレティコなど女子サッカーに熱心なクラブでは常識的な労働契約が結ばれてきたわけだが、CDタコンのような悲惨なケースが、レアル・マドリーが買収したれっきとしたプロ(2部)クラブで行われていたのもまた事実なのだ。

 こんな中、労働協約を結ぼう、という動きは当然ある。RFEF、スペインサッカー選手会(AFE)、女子サッカークラブ連盟(ACFE)が集まって、今季の開幕に間に合わせようと1年ほど前から協議を続けているが、まだ合意に達していない。

 ACFEというのは女子プロクラブの業界団体で、男子で言えばプロリーグ協会(LFP)に相当しLFPの資金援助も受けている。LFPのハビエル・テバス会長とRFEFのルイス・ルビアレス会長の敵対関係は、月曜開催問題スペインスーパーカップの開催問題等で何度も紹介してきたが、女子の労働協約の締結が難航しているのも2人の「権力争いのせい」と断言していい。

 というのも、2人は女子リーグの開催権をめぐって争ってもいるからだ。

連盟の新リーグ構想。開幕日以外すべて未定

 今年3月、RFEFのルビアレス会長が2019-20シーズンからの新リーグのスタートを発表した。

 これは簡単に言えば、これまでACFEが主催していた女子プロリーグを、男子のリーガエスパニョーラ同様RFEF主催にするというもの。RFEF主催となれば、ACFEはクラブの業界団体として共催者の立場となり、主役の座を退くことになる。

 当然ACFEは反発。両者の主導権争いの結論はまだ出ていないが、RFEF側はACFEにはないUEFAとの協調関係がある。「リーグの上位チームに欧州カップ出場権を与える」という名目でどうやら強引に押し切ることになりそうだ。

 問題は、その新リーグ開幕が9月7日に迫っていること。あと1カ月ちょっとの間に、RFEFとACFEの合意、新リーグのネーミングと命名権を含むスポンサー探し、カレンダーの作成、放映権料とリーグブランドが生み出す利益の配分決定に加えて、問題の労働協約を締結しないといけない。労働組合であるAFEは労働協約が結ばれない場合はストに入ることを宣言済み、新リーグ開幕が延期される恐れも出てきた。

 遅れても最後はウルトラCで辻褄を合せるのがスペインの得意技だが今回はどうか? いずれにせよ、女子選手には不安な日々が続くことは間違いない。


(※編注)本稿掲載後、リーグ戦自体は予定通り9月開幕にこぎつけた。しかしながら、労働協約の締結には至らず。10月23日、16クラブ188選手による投票の結果、93%の支持を受けストライキ実施が決定された。


Photo: Getty Images

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木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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