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トッテナムは、なぜ補強なしでも強さを維持できるのか?

2019.03.05

 セオリーとしての戦術がある。一方で、人と人の間にも戦術がある。誰にでも適応するものと、特定の間柄だけで効果を発揮するものがある。どちらがより強力かといえば、後者だ。トッテナムにはマウリシオ・ポチェッティーノ監督が植え付けたチームとしてのセオリーの他に、選手間のコンビネーションがある。それが、補強がないのに強い理由だろう。

 例えば、バルセロナには確固としたチームのスタイルがある一方で、大黒柱メッシとの関係を他の選手がそれぞれに構築することが重要課題になっている。スパーズにはメッシに匹敵する絶対的な存在はいないが、ハリー・ケイン、デレ・アリ、クリスティアン・エリクセンが攻撃の核になる選手たちだ。まず、この3人の間のコンビネーションが良い。そして3人にどう絡むか、他の選手たちがそれぞれの関係を作ろうとしている。

 誰にでも適応できるセオリーというのは、ある意味それなりの効果しか持たない。個と個の組み合わせにある特定の戦術、あるいは呼吸というものは、相手の予測を上回る破壊力を持ち得る。しかし、特定のコンビ、トリオに限定されているので、人が替わってしまえば効力を持たないという弱点がある。ただ、スパーズの場合は核になる選手が3人いて、彼らに絡んでいく選手たちとの関係に年季が入っている。例えば、ムサ・シソコが調子を上げて中盤のポジションをつかむと、シソコ個人のプラスだけでなく、シソコとアリ、シソコとエリクセンの関係が機能する。エリック・ラメラが入っても同じ。ソン・フンミンがルーカス・モウラになっても周囲との関係不全が起こらない。

 [4-3-1-2]の「1」をエリクセンとアリが交互に務めるような、変則的で練度を要求される戦術もさらりとやれてしまう。補強で新しい選手を入れると、新しい関係を構築しなければならない。それはプラスも期待できる半面、時間もかかる。それよりも関係性の強さ、軸が3人いるゆえの関係性の複雑さを大事にして、チームとしてうまく機能させているのが現在のスパーズだ。

Photo: Getty Images

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。