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ティボー・クルトワ、難攻不落の要塞。その攻略法とは?

2019.03.02

ロシアW杯とザ・ベスト・FIFAフットボールアウォーズ2018でともに最優秀GK賞を受賞し、チャンピオンズリーグ(以下、CL)3連覇中のレアル・マドリードに移籍しプレーするティボー・クルトワは、今、世界で最も注目を集めるGKの1人だ。クルトワはいったい、何が優れているのか? また、敵目線から見た、クルトワの「攻略法」とは?

難攻不落の「ゾーン1、2、4」

 ドイツにはペナルティエリアを3つのゾーンで分けて考えるGK理論がある(ペナルティエリア外も含めれば4つのゾーン)。

 ゾーン1は、ゴールの中心からゴールエリアの角方向を結んだ線と、ゴールラインとの間の範囲。角度が限定されているため、ダイビングせずにスタンディングで守れるゾーンとされる。

 それより内側がゾーン2。シュートコースはゾーン1よりも広がるが、ローリングダウンやワンステップからのセービングでシュートに届くゾーンとされる。

 ゾーン3は、さらに内側の中央部で、上下左右に幅広いシュートコースがあるため、守るにはダイビングが必要なゾーンとされる。

 ペナルティエリア外からのシュートなどは、ゾーン4だ。

 ちなみにこのゾーン理論は、ボールの速度、強度、コースや、相手と味方の状況などを抜きにし、あまりに単純化し過ぎている感が否めないため、もし仮に、これが絶対的な正解として広まってしまうと、GKがいわれのない理不尽な批判を浴びることにも繋がりかねない。みなさんもあらかじめ、これはあくまでも目安や参考の1つであり、絶対的な正解ではない……ということには留意してほしい。

 その上でゾーン別に分析すると、クルトワの「凄さ」が驚愕の数字とともに浮かび上がってくる。

瞬時に的確な選択をできる「判断力」

 クルトワの武器の1つが、シュートブロック。ただ、シュートブロックと一言で言っても、その方法はたくさんある。

 両足を地面に着けた基本姿勢を保ち、シュートを打たれてからボールを見て反応して手足を動かして止める方法。

 シュートを打たれる瞬間に、両手両足を大きく広げて面をつくって止める方法。

 両手を下げ、片膝を着いた状態で面をつくって止める方法。

 ボールに対してフロントダイビングで飛び込んで止める方法。……などだ。

 どのシュートブロック方法にも一長一短があり、よって、ゾーン、ボールの質、相手と味方の状況……などに応じて、これらの方法の中から「最適なもの」を瞬時に「選択」してゴールを守らなければならない。

 裏を返せば、いくらすべてのシュートブロック方法を高いレベルで備えていたとしても、「いつ、どこで、どの方法を使うか」の選択を誤れば、ゴールを守ることはできないのだ。

 クルトワが優れているのは、ここで瞬時に的確な選択をできる「判断力」にある(もちろん、大前提として、どのシュートブロック方法も高いレベルで備えている。ポジショニングも正確だ)。

「その上で」、身長が199cmもあり、ずば抜けたリーチを誇るクルトワ。ゾーン1はスタンディング、ゾーン2はローリングダウンやワンステップからのセービングで守れると言われるが、クルトワの場合、単なるスタンディングやローリングダウンでも、体でつくる面の大きさ、守れる守備範囲が他のGKよりも桁違いに広い。

 そのサイズをもって、「的確な判断力」に基づき、状況に応じた「最適な方法」でゴールを守ってくるのだから、クルトワ相手にゾーン1、2を攻略するのは、至難の業だ。

 ロシアW杯のフランス戦で、ゾーン1の至近距離からのベンジャマン・パバールとの決定的な1対1を、両手両足を広げるブロッキングを瞬時に「選択」して右足1本でコースぎりぎりのシュートを止めたスーパーセーブは、その象徴的プレーと言える。ブラジル戦でも鬼神のごとく、ゾーン1、2のシュートをことごとく止めまくる姿は圧巻だった。このゾーンのクルトワは、まさに「難攻不落の要塞」だ。

 事実、ロシアW杯で、クルトワがセットプレー以外で流れの中からゾーン1、2のシュートを決められたのは、わずかに「1失点」のみ(「誰が」決めたのかは後述する)。レアル・マドリーでも2018年のリーガ、UCLでの全21失点中、「4失点」のみと極めて少ない(ゾーン1の失点数は、何と「0」)。※今回のデータには、FCWCは含まない。

 また、これだけのサイズがありながら、「速く遠くに動く」ことができるクルトワは(日本人の長身GKは、これができない)、ダイビングの飛距離もあるため、ゴールのほぼすべてをカバーできる。他のGKが「届かない」コースにも「届く」のだ。前述のブラジル戦のアディショナルタイムに、ネイマールのペナルティエリア外からの頭上を狙ったシュートを右手1本で止めたスーパーセーブはその典型で、あそこに「届く」のがクルトワなのだ。

 実は、2018年のロシアW杯7試合とリーガ14試合、CL3試合の計24試合中、ペナルティエリア外(ゾーン4)からシュートを決められたのはわずか「1失点」しかない(これも「誰が」決めたのかは後述する)。驚愕の数字だ。対クルトワにおける「ゾーン1、2、4」が、いかに攻略困難な「難攻不落の要塞」であるか、おわかりいただけるだろう。

 しかし、その「難攻不落の要塞」を打ち破った者がいた。

 それは……。

 他でもない、我らが日本人選手だったのだ。

クルトワの「攻略法」とは?

 ロシアW杯で「唯一」クルトワのゾーン2を攻略してゴールを決めたのは、日本代表の原口元気だ。そこにはクルトワの「攻略法」が隠されていた。

 原口はベルギー戦のゴールの際、ゾーン2からのシュートの前にフェイントを入れたことでわずかだがクルトワのポジションをニアに「動かし」、修正する時間を与えないまま瞬時に動きと逆側のファーにシュートを放って、クルトワに逆モーションでの対応を強いらせることに成功。見事、「難攻不落の要塞」を打ち破った。

 普通にシュートを打っていたのでは、そうそう入らないクルトワの牙城を攻略するには、原口のゴールのように、クルトワを「動かす」「タイミングをズラす」などで揺さぶりをかけないと、難しい。原口のゴールは、まさに「クルトワ攻略法」を提示していた。

 今季のリーガのエイバル戦でゾーン2から決められた失点も、シューターのトラップがニアに流れ、それに応じてごくわずかだがクルトワもニアに動き、その間に逆側のファーにシュートを決められており、原口のゴールとの共通点が見られる(ただし、角度、ゴールまでの距離、シュートに至るまでの過程を考えると、原口のゴールの方が数段、難易度が高い)。

 また、同じく2018年のロシアW杯、リーガ、CLすべてにおいて、クルトワから「唯一」ペナルティエリア外からのシュートを決めたのも、同じく日本代表の乾貴士だというのだから、驚きだ。繰り返すが、昨年のW杯以降、世界で「唯一」クルトワ相手にペナルティエリア外からのシュートを決めた選手が、乾なのだ。そして、ここにも「クルトワ攻略法」が隠されていた。

 ベルギー戦のゴール。もし、あのシュートの速度がもう少し遅ければ、どうなっていただろうか? おそらく、クルトワに足を運んでダイビングする時間を与え、止められていたことだろう。

 つまり、ゴールのほぼすべてをカバーできる守備範囲を誇るクルトワ相手にペナルティエリア外からのシュートを決めるには、乾のゴールのような「クルトワのセーブ速度をさらに上回る速度のシュート」を打つ…などしか道はない。これも「クルトワ攻略法」の1つだ。ただ、分かっていても、それが難しいのだが…。正直、決められてなお「あの速度で

あのコースに打たないと、入らないのか……」と、クルトワの凄さを改めて感じらせられる。

 そして、今回数字上のデータには含まれていないが、昨年のロシアW杯以降、世界で「唯一」流れの中からクルトワ相手にゾーン1からゴールを決めたのも、これまた同じく日本人選手の土居聖真だった。FCWCでレアル・マドリーから決めたゴールがそれだ。

 このゴールは、シュートがセルヒオ・ラモスの足下とマルセロの股間を同時に抜け、かつ、この2選手がブラインドになる、GKにとっては不運で、止めるのが極めて難しい特殊な状況ではあったが、基本姿勢が高いクルトワはグラウンダーのシュートにやや対応が遅れることがあるので、これもまた「クルトワ攻略法」の1つと言って良いだろう。

 「難攻不落」のクルトワの「ゾーン1、2、4」。それを、原口がロシアW杯で「唯一」、乾が世界で「唯一」、土居が流れの中から世界で「唯一」、打ち破った。

 「日本人選手はシュートが下手」「決定力がない」と言われて久しいが、この事実だけを見れば、実は、日本人選手は、世界でも有数のシュート技術を持っているのではないか……?と思えてしまうのは、錯覚だろうか?

クルトワの失点の「75%」を占めるのは

 クルトワが2018年に出場したロシアW杯、リーガ、CLの全24試合で喫した総失点数は「27」。その内訳を見ると、

ゾーン1:1失点
ゾーン2:5失点
ゾーン3:20失点(PKによる3失点も含む)
ゾーン4:1失点(乾のゴールのみ)

 さらに、そのうち「ダイレクトシュート」による失点数が何と「18」で、PKを除く24失点中、実に「75%」を占めていた。

 例えば、ゾーン1からの失点数はわずか「1」だが、これはロシアW杯のフランス戦で、CKからヘディングをダイレクトで決められたもので、流れの中からは「0」だ。つまり、クルトワ相手には、流れの中からのゾーン1、4のシュートは「ほぼ入らない」ことがわかる。

 ゾーン2からの失点数は「5」だが、うち2失点はやはりダイレクトシュートだった。

 最も失点が多いゾーン3だが、PKを除く17失点中15失点、実に「88%」がダイレクトシュートだった(ゾーン3の1対1からドリブルでかわされてゾーン2で決められた失点は、ゾーン3で計算)。

 失点の75%がダイレクトシュートであったというのは、裏を返せば、GKに準備や反応の時間を与えないダイレクトシュートでないと、クルトワからはそうそうゴールを奪えないことを意味する。

 以上のデータからクルトワを分析すると、攻略するには「いかにゾーン3に持ち込んでシュートを放つか」、さらに、「いかにダイレクトでシュートを放つか」が、大きなポイントとなる(これプラス、前述の原口のゴールのようなクルトワを「動かす」「タイミングをズラす」駆け引き、乾のゴールのような「クルトワのセーブ速度をさらに上回る速度のシュート」、土居のゴールのような「GKにとって不運な状況が重なる」「近距離からのグラウンダーシュート」などが必要となる)。

 実際、ゾーン1や2からシュートを打てそうな場面でも、相手がクルトワとの勝負を避けて、他のゾーンへパスしてダイレクトで決めるというゴールも多かった。逆に、可能性が低いゾーンから強引にシュートを打ちクルトワに止められるも、そのこぼれ球をダイレクトで押し込む、というゴールも3つあったが、成功確率は決して高くはなかった。

 以上のデータを踏まえて、改めて原口、乾、土居のゴールを振り返ってみると、クルトワからゴールを奪うのが極めて困難なゾーンからのシュートかつ、ゴールの確率が高いダイレクトシュートでもないにもかかわらず、クルトワの牙城を完璧に打ち破った、世界的にも非常に稀で、貴重な、価値あるゴールであったことがわかる。

真の「世界No.1GKへ」

 あくまで私個人の見解だが、ロシアW杯は過去のW杯と比べて、決してGKのレベルが高いとは言えない大会であった。GKのイージーミスが多く、また、2002年日韓W杯のオリバー・カーンや、2014年ブラジルW杯のマヌエル・ノイアーのような、明らかに他のGKとは「次元が違う」レベルの「ずば抜けて特出したGK」もいなかった。

 ロシアW杯では、ダビド・デ・ヘアやノイアーが、チーム状態や自身のコンディションの問題などから思うような活躍ができず、そんな中、クルトワが素晴らしい活躍をして最優秀GK賞に輝いたのは称賛しかないが、カーンやノイアーが上記のW杯の以前から、すでに代表でもクラブでも名実ともに「世界No.1GK」の称号を手にし、それを改めてW杯の舞台で証明したのと比べると、クルトワは現時点では、まだ、カーンやノイアーの域には到達していないのではないかと考える。

 現在所属するレアル・マドリー、そしてベルギー代表で、さらに圧倒的な活躍を続けて真の「世界No.1GK」の称号を手にすることができるか…? 2022年カタールW杯が、「世界No.1GK」であることを改めて証明する集大成の大会となるか…? クルトワのポテンシャルをもってすれば、そうなる可能性は充分にあると言えるだろう。

Photos: Getty Images

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ティボー・クルトワレアル・マドリ―

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Yoji Yamano