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リヨン育成部門のモットーとは?アカデミー6連覇達成の理由

2019.02.19

過去6シーズンで5度戴冠、2018-19も首位を独走するパリ・サンジェルマンがリーグ1の絶対王座に君臨して久しいフランス。一方、アカデミー部門では“6連覇”を遂げている。国も認める育成の名門として、昨年のロシアW杯優勝メンバーにも多数の出身選手を送り込んでいたリヨンだ。そのキーパーソンの存在、成功の秘訣、近年の変化に迫る。

 フランスで毎年6月に発表される、国の育成機関が認定したフランスリーグ36クラブのアカデミーのパフォーマンスランキングで、 リヨンは2018年も首位を獲得し6連覇を達成した。

 採点の対象となるのは、アカデミーからプロ契約した選手の比率、卒業生のトップチームでの出場試合数、代表チームでの出場試合数、コーチングスタッフ(人数や経験など)、そしてアカデミー生の学業成績の5項目だ。ちなみに欧州全体のランキングでは、リヨンは誉れ高いバルセロナのラ・マシアに次ぐ2番手にランクされている。

 今季のトップチームには、フランス代表としてロシアW杯でも活躍したナビル・フェキルをはじめ、ウセム・アウアル、アミン・グイリらがいる。近年に輩出した主なレ・ブルー経験者だけを見ても、やはりロシアW杯に出場したサミュエル・ウムティティ(バルセロナ)、コランタン・トリッソ(バイエルン)に加え、アレクサンドル・ラカゼット(アーセナル)、アントニー・マルシャル(マンチェスター・ユナイテッド)、カリム・ベンゼマ(レアル・マドリー)、ハテム・ベン・アルファ(レンヌ)、マキシム・ゴナロン(セビージャ)、クレマン・グルニエ(レンヌ)など、そうそうたる顔ぶれだ。

 彼らを発掘したのが、2003年からアカデミーのリクルート部門責任者を務めたジェラール・ボノー氏である。育成部のコーチとして1983年から在籍し、途中のブランクを経て計25年間をリヨンに捧げた彼は、昨季をもって退任し、スイスのジュネーブを本拠とするクラブ、セルベットのリクルーターに転職したが、生え抜き選手の活躍に支えらえたリヨンの栄光は、ボノー氏とともにあったと言っても過言ではない。彼のモットーは、「スタンドに座って選手を観察するだけがリクルーターの仕事ではない。選手が置かれた環境、家庭事情、プライベート、すべてを把握すること」だった。

 リヨンのアカデミーでは、CBやボランチなど特定のポジションを除き、選手を体格では判断しない、という規定を設けている。それよりも選手それぞれのポテンシャルに目を向ける。

 「難しいのは、この職業(プロフットボーラー)に適正があるかどうかということ。それと、この仕事には制約があることを理解できること」だとボノー氏。「差が出るのは、才能よりむしろメンタル」と語る彼が、あれほどの才能をリクルートできることは一生で二度とない、とまで言った選手はベン・アルファだ。

 コーチ陣とリクルーターが密にコミュニケーションを取り、アイディアや育成ポリシーをしっかり共有することも大事な要素であるという。例えば、できるだけ早く金銭的な利益を生み出すことを育成の目的とする指導者やクラブもある。またそれを望む家族もいる。しかし、クラブとしてぶれないポリシーを持ち続け、「サッカー選手ではなく、社会で活躍できる人を育てる」という一貫した哲学の下で育成に取り組んできたことが、リヨンアカデミーの成功の鍵だ。

近年は「売買」盛んに…どうなる?

 だが、近年では少しずつ変化も見られている。これまでのように14、15歳までの育成前期を終えた子をリクルートして育成後期を行いプロデビューさせる、という流れから、他クラブで育成後期を終えた20歳前後の新鋭を獲得する方向にクラブはより多くの予算を割くようになった。現チームのFWマルタン・テリエはリール出身、MFリュカ・トゥザールはバランシエンヌ、MFタンギ・エンドンベレはアミアン、DFフェルラン・メンディはルアーブルで育成を終えた。彼らは高額でも1200万ユーロで、だいたい500万ユーロ前後で獲得した人材だ。

 逆にリヨンで育成を終えた、将来を嘱望されるU-20フランス代表FWミジアン・マオリダや“ポスト・ムバッペ”と言われる17歳のFWウィレム・ジュベルスは、リヨンでプロ契約せずにこの夏それぞれニース、モナコに巣立ってしまった。こうなっては指導にかけた情熱、労力、時間、金銭などが報われないことにもなるが、ボノー氏が一番残念に思うのは「このままリヨンで成長していく姿を見られなかったこと」だ。

最新にして最高の逸材として昨季、16歳1カ月でリーグ1、同3カ月(史上最年少)でELデビューも果たした2001年生まれのFWジュベルス(右)。しかし昨夏2000万ユーロでモナコに去って行った

 ムバッペの台頭もあって、10代選手のリクルート市場はより一層ヒートアップしているが、フランスを代表する多くの有能なプレーヤーを生み出してきたリヨンには、これからも名門アカデミーを守り続けていってほしいと、多くのサッカーファンが願っている。

Photos: Getty Images

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小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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