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レロイ・サネ、ペップ・スタイルの要。ポジショナルプレーにおけるウイングの役割

2018.11.27

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 近現代のフットボールにおいて、必ずしも「ウイング」は絶対的なポジションではない。ライン際を主戦場にドリブルを仕掛けるワイドアタッカーは、強力なCFが希少な存在になりつつあることもあり、絶滅の危機に瀕している。 

 しかし、バルセロナに受け継がれるオランダ的戦術思想を重視するペップ・グアルディオラは、「純粋なウイング」を好んでいる。バルセロナではテージョやクエンカのような若いウイングを起用したし、バイエルンではドウグラス・コスタが相手を翻弄した。そしてマンチェスター・シティの潤沢な戦力にも、「純粋なウイング」と呼ぶべき選手が存在する。レロイ・サネ。22歳の若きウインガーは、グアルディオラのチームでさらなる進化を目指している。


ポジショナルプレーの鍵となる、特筆すべき資質

 プレミアリーグ公式サイトによれば、レロイ・サネはジェイミー・バーディーの記録を2018年に塗り替え「リーグ最速の男」となった。時速に換算すると35.48km/hの快速アタッカーは、スピードに乗るまでの時間も短い。スプリント勝負に持ち込めば、相手のSBは後追いとなる。

 スプリントを可能とする柔軟で強靭な筋肉は、セネガル人の父親から受け継がれたものだろう。ケビン・デ・ブルイネのスルーパスとは相性が抜群で、カウンターの場面でも力を発揮する。そのスピードを最大化するドリブルは、比較的強いタッチとアウトサイドでの切り返しを多用する。シンプルな仕掛けで抜けてしまうので、派手なフェイントを使うことは少ない。

 自らの仕掛けに加え、彼はチーム戦術における「重要な役割」も果たしている。ティエリ・アンリは「味方にスペースを生むために、ウイングは相手のSBをできる限り外に引き出す必要があった」とバルセロナ時代に「ペップ・グアルディオラから求められた役割」について語っている。サネも同様に、外にポジションを保つことで相手の守備を広げ、ハーフスペースへの侵入を誰よりも得意とするダビド・シルバのスペースを生み出す。

 サネがワイドのレーンに位置することで、相手の一列目も「外側」へのパスを警戒する。当然、守備側のチームは「俊足のドリブラーが足下でボールを受ける場面」を避けたい。D.シルバは相手の隙を見逃さず、ハーフスペースに侵入。外に動いた相手の守備陣を嘲笑うように、1つ内側のレーンでボールを受ける。アグエロも飛躍的にプレーの幅を広げており、サネの位置取りによって手薄になる「ハーフスペース」に入り込む。

相手がサネへのパスコースを外から消そうとすれば、D.シルバやアグエロがハーフスペースへ。D.シルバが相手の中盤を引きつけ、アグエロが中央へ下りるパターンもある

 柔軟にポジションを入れ替えるアタッカー陣をそろえたチームが陥りがちな落とし穴、それは「基準となる選手を失い、バランスを崩すこと」だ。それを避けるには、サネのような純粋なウイングを起用することも必要となる。ヘスス・ナバスがスペイン代表で重用されたのも、同様の理由だった。加えて、純粋にトップスピードに乗ったドリブルは「質的優位」を生み出す。右サイドでの密集から大きく展開した際に、孤立した左サイドを切り裂けるアタッカーは重要だ。


改善すべき、ボールを受ける能力

 グアルディオラは、自らのフットボールを常に研鑽している。その中で、サネに求められる役割が多様化しているのも確かだ。

 ハーフスペースで相手を背負って受けるような仕事も求められるようになり、逆サイドからのクロスボールに飛び込まなければならない。さらにバンジャマン・メンディという「異能」のサイドバックは、大外のレーンからサネを追い出してしまうかもしれない。ベルナルド・シルバやラヒーム・スターリングは器用にSBを使えるので、メンディとの併用も容易だ。

 サネはハーフスペースのアタッカーにボールを預け、トップスピードでスペースに抜け出す「打開の切り札」も持ち合わせている。だが、激しいポジション争いを勝ち抜くにはプレーの幅を広げる必要がありそうだ。正確にワンツーを返してくれるD.シルバやデ・ブルイネに「活かされる」だけではない、さらに高いレベルのプレーが求められているのだ。

 プレーの幅を限定している1つの要因は、視野を保ちながら縦パスを受ける能力にある。ドイツ代表においても中央に近いポジションで起用されたことで同様の課題に直面したが、サネは後ろを向いて縦パスを受ける際に「向き」を変える工夫が少ない。半身でボールを受けられる場面や、ターン可能な場面でも「後ろを向いた状態」で安易にボールを受けてしまい、足下にボールが来てから次のプレーを仕掛けてしまうのだ。純粋なウイングにとっては改善が難しい部分だが、今後は狭いエリアでのボールタッチ技術や判断力も求められる。

ドイツ代表でのサネが苦戦している理由を指摘するツイート。シティでのサイドではなくピッチ中央でのプレーを求められているが、それに足る「良い体の向きでの(ボールを受ける)準備」「正確なボールコントロール」が欠けていると解説している

 常に最先端を走りながら「進化を続ける」グアルディオラは、それぞれの選手にも「進化」を求めている。「優位性」を生み出せる貴重な若きウイングが「進化」に成功すれば、マンチェスター・シティとドイツ代表の両方で輝かしい未来が待っているはずだ。

ドイツ代表のフォトセッションにて。ロシアW杯から不振が続く“ディ・マンシャフト”復権の一翼を担うことができるか


Photos: Getty Images, Bongarts/Getty Images
Edition: Daisuke Sawayama

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マンチェスター・シティレロイ・サネ

Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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