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リバプール優勝への鍵を握る「3センター」の複雑な役割設定

2018.11.12

夏の市場に約250億円を投下し、目指すはプレミアの、そして昨シーズンは準優勝に終わったCLの頂点。そのためのプラスαを模索中だったシーズン序盤戦のレッズを、人気ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』でおなじみ、らいかーると氏が解説する。

 リバプールといえば、サラーマネフィルミーノの3トップがチームの顔となっている。しかし、今季のリバプールの鍵を握りそうなポジションが、彼らの下に控える3センターだ。他のポジションに比べると、2列目はスタメンが固定されていない。2列目に誰を起用するかは、彼らの試合内容に大きな影響を与えることになるだろう。そして、3トップの力を存分に発揮させるために、3センターは複雑な役割を担うようになってきている。


ボール保持の局面

 3センターの中央の選手は、一般的に中央から動くことはない。もし中央から動いたとしても、隣のレーンに移動し相手の守備の基準点を狂わせるくらいだろう。だがリバプールの場合は、中央の選手(ワイナルドゥムまたはヘンダーソン)が中央エリアから移動し、3センターの中央に他の選手(ケイタやミルナー)が移動してくることも頻繁にある。おそらく、特定の選手が中央エリアにいるべきと決まっていないのだろう。

 SBの上がったエリアには、インサイドMFの選手が移動することが多い。ハーフスペースの入り口に位置することで、先のハーフスペースで待つウイング(サラーとマネ)と大外レーンで待つSB(ロバートソンとアーノルド)にボールを届ける役割をインサイドMFの選手が果たしている。今季は試合を重ねるごとに、この役割をする機会が非常に増えていった。

 その他で特徴的な動きは、主に右インサイドMFミルナーが行っていた大外レーンへの移動だ。この動きによってSBとのコンビネーション、もしくはSBをハーフスペースの入り口に置くことによって、役割の交換を行っている。この動きも試合を重ねるごとに、ミルナー以外の選手もするようになってきている。

 これらの3センターの役割、配置を見ていると、ポジションごとに役割が設定されているのではなく、チーム全体としてエリアごとに役割が設定されていることがわかる。エリアごとの役割の変化は、相手の守備の基準点を乱すこと、選手が入れ替わることで、ボール循環のリズム、テンポを変えられることがメリットとして挙げられる。ボールを保持するチームにおいて、レベルアップには欠かせない約束事と言っていいだろう。

バックスから前線まで、あらゆるラインでプレー可能なミルナー。自らが位置するエリアによって求められる役割が変わる中で、その万能なプレースタイルが生きている

 現状の問題点は、中央を締めてくる相手に対しては、質的優位を提供してくれそうな3トップにボールが簡単に入らないことだ。サイドに移動してくれるマネにはボールが入る機会が多いのだが、特にサラーはサイドに移動したがらない(だからこそミルナーがサイドに流れるのかもしれない)ように見えるので、なかなかボールが入らない。ただし、3人にボールが入れば、コンビネーションによって一気に攻撃を加速させることもできる。マネのように、3トップが中央エリアに固執しなくなれば、さらに攻撃の迫力は増してくる可能性が高い。

 移動が多くなってきたリバプールだが、時どきポジションのバランスが悪くなる。つまり、選手の移動に対して、効率良くレーンを埋められない場面がまだまだ多い。特に幅広く動き回る3センターの空けたエリアに誰が移動してくるかは曖昧になってしまっている。その結果として、長所としていたネガティブトランジション(攻→守の切り替え)を回避されてしまう場面が増えてきている。

 もちろん、相手チームのボールを繋ぐ能力の向上や、リバプールのフィジカルコンディションがまだまだ上がっていないなどの理由も考えられる。開幕からここまで結果は出ているけれど、リバプールの試合内容に今までのらしさが感じられない理由は、この辺りにあるのではないだろうか。またはリードしている状況になると、ペースを意図的に落としている可能性も否定はできない。

(左図)それぞれに役割が設定しているわけではないため、3センターは流動的にポジションを移動する (右図)❶起点はSBかインサイドMF ❷ライン間はインサイドMFかウイング ❸大外は全員に可能性がある


ボール非保持の局面

 相手陣地にボールがある時のリバプールの配置は[4-1-2-3]。自陣に撤退した時の配置は、マネが2列目に移動することで[4-4-2]となっている。

 ボール非保持の局面において、可変式を採用しているリバプール。可変式のデメリットは、システムを変換している時間を相手に与えてしまうことだろう。この時間を解決するために、リバプールは3センターを利用している。いざとなれば、[4-3-3]のまま守ってしまおうという狙いだ。そのために必要な選手を3センターに起用している。この作戦はW杯のフランス代表の配置(カンテ、マテュイディ、ポグバ+ムバッペ)に似ている。

 3センターで守ることができれば、サラー、マネ、フィルミーノをカウンターに専念させることができる。ただでさえサラーを前に残す[4-4-2]を採用しているリバプールからすれば、[4-3]での守備さえ可能ならば、是が非でも実行したい作戦となるだろう。肉を切らせて骨を断つためには優秀なGKが必要であり、今季はアリソンが加入していることも非常に大きい。

 ただし、[4-3-3]、[4-4-2]にしろ、1列目のプレッシングが機能しなければ、カウンターのために3トップを前に残そう作戦は、絵に描いた餅となる。現状のリバプールは失点こそ少ないが、失点に直結しそうな場面を相手に作られてしまっている。アリソンやCBジョー・ゴメスの奮闘もあって、相手に崩された失点こそないが、いつ崩されての失点が訪れてもおかしくはないという現状になっている。


ひとりごと

 今季のリバプールの印象は、配置的な優位性とエリアごとの役割の明確化に取り組んでいる印象を強く受けた。ビルドアップの形は、昨季のマンチェスター・シティのような配置になっている場面も増えてきている。つまり、相手のプレッシングに対して、しっかりとボールを保持していこうという狙いがあるのではないだろうか。レスター戦(○1–2/リーグ第4節)のように、相手陣地から果敢にプレッシングをかけてくるチームには、アリソンを使ったビルドアップで対抗しようとする意図も感じることができた。

 これらの取り組みは、引いた相手を崩すためには有効な策と言える。昨季までのリバプールの課題が、撤退した相手から得点を取ることだとすれば、クロップ監督は非常に論理的な道を歩んでいる。ただし、新しい取り組みには迷いが付き物だ。しかし、4連勝という結果は、チームに余計な迷いを与えない。この先リバプールが適切なポジションバランスを手に入れて、今季も健在のスピードを武器とするサッカーを同時に披露することができるようになれば、彼らは優勝候補としての地位を揺るぎないものにしていくのではないだろうか。


Photos: Getty Images

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Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。

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