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イタリア新世代コーチが提唱する「レジスタ機能」の再定義

2018.06.09

対談 レナート・バルディ(戦術分析コーチ) × 片野道郎(イタリア在住ジャーナリスト) 後編


前編の「レジスタ不要論」を受けて、レナート・バルディに「ピルロのような古典的なレジスタは生き残れるのか?」を聞いた。しかし、バルディはこの問い自体がナンセンスだと言う。
「1人のプレーヤーだけにフォーカスするのは現代サッカーにおいてあまり意味がない」
ボランチ/レジスタという機能もゲームモデルの中で再定義しなければならない時代を迎えている。
※このインタビューは17年10月に収録した


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古典的レジスタは生き残れるのか?

特徴を生かせるゲームモデルの中でならば、
生き残ることは十分に可能


片野
「セントラルMFやCBに対してはもちろん、かつてはライン際を縦に上下動するだけだったSBにまでも、レジスタ機能を含めたオールラウンド性が要求されるのが現代サッカーというのがここまでの話でした。もし全体の流れがそうだとすると、レジスタ機能に特化しており守備力は平均レベル以上とは言えないような、いわば古典的なレジスタは、これからますます活躍の場を限定されていくだろうという話になりますよね。今回の対談は、例えばピルロやシャビのような古典的なレジスタは生き残っていけるのか、という問いを立てるところからスタートしているんです」


バルディ
「そのプレーヤーの特徴を引き出し生かすようなゲームモデルとチーム設計の中でならば、生き残ることは十分に可能だと思います。もちろん、彼らの能力に合った、弱点をうまく隠すような形で割り当てられた守備のタスクを必要にして十分なレベルでこなすことが大前提です。ピルロやシャビもそうでした。

 それはさっき例に挙げたバゼッリやバルディフィオーリのケースも同じです。チームのゲームモデルとそれに基づく守備のメカニズムは、彼らを困難に陥れないように設計されている。もし我われがバルディフィオーリに、前の4人とSB2人は敵陣深くまで攻め上がるから、ネガティブトランジション時にもしプレスをかわされた時には侵入した敵を何とか中盤で追いかけて食い止めてくれとか、ウイングが内に入り込んだ時には外に開いて敵SBを捕まえておいてくれ、といったタスクを与えたら、彼は30分で燃料切れになってしまうでしょう」


片野
「ナポリのゲームモデルにおいては、ディアワラのようにシンプルにボールをさばいて、レナートの言う『壁パスのターゲットになる』タイプだけでなく、ジョルジーニョというフィジカル的には線が細く守備が得意とは言えない古典的なレジスタも機能していますよね。そこにはどんなメカニズムがあるのでしょう?」


バルディ
「ジョルジーニョがレジスタとして狭いスペースやプレッシャーの中でも機能しているのは、タイトにマークされてボールに触らせてもらえない時には、自らがマーカーを引きつけてスペースを空けることで他の味方がそこをよりフリーな形で使えるような動きをするからです。もちろんそれはサッリ監督がそういうメカニズムをプレー原則の中に織り込んでいるからでしょう。ボールタッチや位置情報に基づくデータには表れませんが、正しいタイミングで正しい場所に動くことによって、ボールに触らなくともチームを回して局面を前に進めることが可能なのです」


片野
「ローマではインサイドMFとして攻撃的に振る舞っていたピャニッチも、ユベントスの[4-2-3-1]では2セントラルMFの一角で、レジスタとしての機能を担ってプレーしています。彼も体格的にもフィジカル能力的にも、セントラルMFに求められる守備のタスクをこなすのに向いているタイプではありません。ユベントスのゲームモデルの中で彼はどのように機能しているのでしょう?」


バルディ
「彼のようなプレーヤーが困難に陥ることなく持ち味を発揮するためには、チームがコンパクトな陣形を保ちバランス良くピッチをカバーしていることが不可欠です。とりわけ守備の局面において、スペースが大きくなりそれをカバーするために運動量が要求されるような状況では、ピャニッチはすぐに困難に陥るでしょう。ユベントスはチーム全体を高く押し上げ、ボールを支配して敵陣で戦いますし、守備の局面でもピャニッチにはアグレッシブに前に出るプレスや、サイドまで飛び出してSBをマークするタスクは課していません。それは1列前にいるマンジュキッチやディバラがこなします。特にマンジュキッチは左SBアレックス・サンドロとの連係で、守備の局面でも左サイドのライン際すべてをカバーしています。ピャニッチは中盤センターでボールのラインよりも後ろにとどまり、鍵になるスペースをカバーしてインターセプトを狙う。システムは異なっていますが、果たしているタスクは先に見たモントリーボと変わりません」


片野
「ジョルジーニョやピャニッチのようなプレーヤーが生き残れるかどうかは、ゲームモデルの中で彼にどのようなタスクを課し、そこで抜け落ちる部分をどのようにしてチーム全体でカバーするよう戦術メカニズムを設計するかに懸かっている、という話に戻るわけですね。だとすると、彼らのようなレジスタが持ち味を生かすことができるのは、どのようなゲームモデルとして一般化できますか?」


バルディ
「最終ラインから攻撃をビルドアップして、チーム全体をコンパクトなまま押し上げ、敵陣でポゼッションを確立し、ネガティブトランジション時も後ろに下がらず前に出てプレッシャーをかけ即時奪回を狙うようなゲームモデルでしょうね。攻守いずれの局面でも長い距離を一気に走ることを想定しておらず、また長いボールを多用してセカンドボールを狙っていくようなこともしない。セントラルMFの立場からすれば、背後に抜け出した敵を追ったり、サイドのスペースをカバーするために飛び出したりといった、一度に長い距離を走るプレーを要求されないゲームモデルです。常にチーム全体をコンパクトに保ってその中でボールを扱い、その外に出さない」

鍵になる戦術的インテンシティ

一時代前の古典的なレジスタとの違いは
フィジカル以上にメンタルなインテンシティ


片野
「例えばブンデスリーガで主流になっているような、フィジカルで上下動の多いトランジション志向のスタイルでないことは間違いなさそうです」


バルディ
「すべてにおいてフィジカルでアグレッシブ、攻守両局面で急加速と急減速を繰り返す、肉体的なインテンシティが極めて高いサッカーですからね。テクニックと戦術眼には優れているけれど、コンタクトにおいても運動量においてもフィジカル能力が高いとは言えない古典的なレジスタには適応が難しいと思います。ただインテンシティという点から言うと、一時代前の本当に古典的なレジスタとの違いはフィジカルなインテンシティ以上にメンタルなインテンシティに関わっています」


片野
「以前話をした戦術的インテンシティということですね」


バルディ
「そうです。古典的なレジスタ、例えばレドンドのようなプレーヤーにとって、守備の局面はメンタル的には一瞬気を抜く時間でした。これがジダンやルイ・コスタのような『10番』になるとそれがもっと顕著だった。しかし今や、セントラルMFはもちろん前線のアタッカーにすら、攻守が切り替わったからといって気を抜くことなど許されません。チームを困難に陥れることなく気を抜くことはもはや不可能ですからね。

 我われも前線のアタッカーには、ボールロスト時にはすぐに即時奪回のためのプレッシングに参加すること、もしそれができない場合も足を止めず、とにかく自陣に戻ってスペースを埋め、次の守備フェーズに参加することを要求しています。その切り替えが素早くできない選手は、それだけでチームを困難に陥れることになる。そして今度は味方がボールを取り返した時にも、状況に応じた正しいポジションを取り正しい動きをするかどうかで、ポジティブトランジションの質が決定的に変わってくる。もし自陣に戻らず敵最終ラインの手前を歩いていたら、味方がボールを奪ってパスを出してもオフサイドですからね」


片野
「逆に、テクニックが傑出していないけれど強靭な体格と高い運動能力を備えているというタイプのセントラルMFも、トップレベルでプレーするためには高い戦術的インテンシティを備えていることが不可欠になってきますよね」


バルディ
「ボールを持った時にはシンプルなプレーしかできないけれど、体格とフィジカル能力の高さを武器にしているセントラルMFは、トップレベルでも数多くプレーしています。その数が近年増えてきていることは間違いありません。ただ彼らに共通しているのは、まさに戦術的インテンシティの高さです。状況を素早く読み取って的確な判断を下し自らの長所であるフィジカルを武器にしてボールを刈り取る、セカンドボールやこぼれ球といったカオティックな状況に素早く反応してボールを回復し、シンプルなパスでポゼッションを確立して秩序を立て直すといったプレーを通して、彼らはチームに大きな貢献を果たしています。読みと判断の速さ、それに続くプレーを支えるフィジカル能力の高さを組み合わせて、状況に対して先手を取ることで違いを作り出しているわけです」


片野
「それだけのフィジカル的、メンタル的なクオリティを備えたプレーヤーが、もし繊細なテクニックまでも併せ持っていたとしたら、おそらくそれが現代サッカーにおける理想のレジスタということになるんでしょうね」


バルディ
「理想のレジスタというよりも理想のMFと言った方がいいでしょうね。MFに求められるあらゆる仕事を高いレベルでこなすことができるでしょうから。

 ただ、最後に言っておきたいのは、1人のプレーヤーだけにフォーカスするのは現代サッカーにおいてあまり意味がない。サッカーというのはコレクティブなスポーツであり、コレクティブな文脈の中で個々のプレーヤーがインタラクティブ(相互作用的)にプレーすることを通じて局面が動いていく。それをどのように進めるかを規定するのがゲームモデルであり、個々のプレーヤーがそのゲームモデルに基づくタスクを、周囲の味方と補完し合いながら遂行していくことによってゲームが進んでいくわけです。

 ここまで見てきたように、レジスタという機能一つにしても、セントラルMFという特定のプレーヤーが一身に担う時代はとうに終わっています。ゲームモデルや状況に合わせて様々なプレーヤーが分散的に担っているし、またそうでなければならない。スペシャリストではなくオールラウンダーが求められているというのもそれゆえです。もちろん個々のプレーヤーは長所と短所、個性や適性を持っています。しかし攻守どちらの局面においても11人の1人として組織のメカニズムにアクティブに参加し、高い戦術的インテンシティを保ってプレーを続けられることが最低条件になっている。その上で際立ったテクニック、高いフィジカル能力といったそれぞれの能力と個性を、ゲームモデルを実現するために最も効果的に組み合わせて機能させるというのが監督の仕事なわけです。そういう文脈を無視して理想のレジスタ像を語ることにそれほど意味がないことは、ここまでの話でわかってもらえたと思います」


片野
「そうですね。今日は長い時間ありがとうございました」


Photos: Getty Images

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ボランチレジスタレナート・バルディ片野道郎

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。