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ボローニャ時代の師、レナート・バルディが評価するアーセナルの冨安健洋(WEB特別編)

2021.10.12

本日10月12日発売の『フットボリスタ第87号』では、第2特集「All or Nothing ~アーセナル沼へようこそ~」において、冨安健洋のプレー解説を『モダンサッカーの教科書』シリーズ(小社刊)でおなじみのボローニャ戦術分析アシスタントコーチ、レナート・バルディ氏に依頼。開幕3連敗で最下位だったチームが22歳のDF加入で一変し、3連勝を達成した9月のプレミアリーグ第4〜6節、ノリッチ戦(1-0)、バーンリー戦(0-1)、トッテナム戦(3-1)でのパフォーマンスを評価してもらった。ここでは、そのインタビューの中からスペースの都合で誌面に入り切らなかったパートを一部、本誌掲載分を加えて再構成して特別公開。「今やトミはSBとしてもCBとしても攻守両局面で完成されたワールドクラスのDFに成長したと言っていい」――。ボローニャで2年間(19-21)若き日本代表を直接指導してきたコーチが、そのプレーヤー像を詳細に分析する貴重な内容を、本誌と合わせてお楽しみください。

最も印象に残るのは学習能力の高さ。
弱点だった空中戦が今や大きな長所に

――移籍希望を表明し、トッテナム、アーセナルが獲得に乗り出したものの金銭面でなかなか折り合いがつかず、ボローニャで21-22シーズンの開幕を迎えた冨安健洋でしたが、8月31日、移籍期限ギリギリになってアーセナルへの移籍が決まりました。今日は、9月の代表ウィーク明けから月末までに出場した最初の3試合でのパフォーマンスについての分析を聞かせてください。

 「この3試合での起用法が示しているのは、アーセナルはトミを純粋な右SBとして獲得したということです。守備の局面ではゾーンで守る4バックの右SB、攻撃の局面も4+1または2の配置で行うビルドアップ時には、タッチライン際まで大きく開いたポジションを取ります。その点は、ビルドアップ時には3バックの右に入ってやや内に絞ったポジションを取り、組み立ての起点となっていたボローニャでの役割とは多少異なっています。

 何日か前にうちのスポーツディレクター(リッカルド・ビゴン)とも話したのですが、トミのような能力と特徴を備えた右SBは、今のヨーロッパのトップレベルではレアな存在です。何よりもまず、トミはSBとしては際立った戦術的インテリジェンスを備えている。攻守いずれの局面においても、状況を的確に読み取ってベストの対応を取ることができます。ビルドアップにおいては、どこにどういうスペースがあるかを素早く読み取り、どう動いてパスを引き出しどの味方にどういうパスを展開すべきかを判断できる。何より左右両足で精度の高い長短のパスが蹴れるので、それを狙い通りに遂行することができます」

――以前に分析した時も、相手の守備ラインを越えるキーパスが多いのが大きな長所、という評価でしたよね。

 「ええ。常にそれを狙うわけではなく、自分ではない次の味方がキーパスを出せる状況にあると判断してそこにボールを送ることもできます。それに関連して言うと、特に昨シーズンの後半、そして今のアーセナルでもそうですが、トミは周囲の味方に積極的に指示を出すようになりました。ボローニャに移籍してきた(2019年夏)当初は、言葉やチーム環境への慣れという問題もあって、明らかに寡黙なタイプだった。しかし戦術理解の面でもグループ内での存在感という意味でもボローニャの環境に馴染んだ2年目は、ピッチ上でのコミュニケーションや指示で積極性が大きく増して、進んでリーダーシップを発揮するようになった。昨シーズンのトミは周囲からもはっきりと一目置かれる存在でしたし、自身の絶対的なパフォーマンスにもより大きな自信を持てるようになっていました」

――それはシーズン終了間際にインタビューした時にもはっきり感じました。言葉の端々に、ボローニャというステージはクリアしたという自信がにじみ出ていましたからね。

 「チームメイトや我われスタッフ、移籍市場を含めた業界内での評価ももちろんですが、何よりも彼自身が自分の能力と可能性に対する強い確信を得たということだと思います。個人的に最も強い印象を受けたのは、トミの学習意欲と学習能力の高さです。イタリアにやって来た当時、トミは技術的にいくつかの弱点を持っていました。最も大きかったのは空中戦、もう一つはペナルティエリア内における1対1での駆け引きです。しかしそのどちらも、この2年間で明らかな向上を見せました。

……

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アーセナルプレミアリーグレナート・バルディ冨安健洋

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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