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レスターだけじゃない!ロシア発のおとぎ話

2016.05.18

フットボール・ヤルマルカ

 今季、イングランドのプレミアリーグではレスターの奇跡に世界の注目が集まったが、ロシアのプレミアリーグでもそれに勝るとも劣らない番狂わせが起きている。昨季は14位に沈み、昇降格プレーオフの末に何とか残留を果たしたロストフが、4月24日に行われた昨季王者ゼニトとの天王山で3-0と快勝。5試合を残した時点で堂々の首位に立ったのである。(編注:5月18日時点では、最終節を残し首位CSKAモスクワと勝ち点2差の2位)

 2年前にロシアカップを制したものの、出場権を手にしたELへの参加が危ぶまれるほどの経営不振に陥りチームは一時崩壊状態に。現在も選手への給料未払い問題を抱えており、毎シーズン残留が一番の目標である中堅クラブの突然の飛躍は、ロシア国内で驚きとともに好意的に迎えられている。ゼニトのビラス・ボアス監督も敗戦後、「彼らの活躍はロシアサッカーにとって喜ばしいこと」と素直に実力を認め、彼らのサッカーに懐疑的だった一部メディアも「本物」だと認めた。

立役者は、バルセロナ下したあの名将

 チームの象徴となっているのは、ルビン・カザンを地方クラブでは初となるリーグ制覇に導き、09-10のCLでは敵地カンプノウでバルセロナから金星を挙げるなど欧州にその名を轟かせたクルバン・ベルディエフ監督だ。2年前の就任以降、チームの練習内容は一変。スプリントを重視して走る量が増え、ルビン時代の教え子であるエクアドル代表MFノボアやスペイン人DFナバスなど指揮官を熟知した選手たちを中心に、細かな要求を集団として体現できるようピッチ内での規律を徹底した。基本となる[5-3-2]の布陣はルビン時代を彷彿とさせるが、ベルディエフは「ルビンのコピーを作るつもりはない」と違いを強調する。

 実際、今季のロストフにはひたすら自陣を固めて守るというイメージはない。最終ラインから前線へのパスがよく繋がるため布陣を[3-4-1-2]にして攻める時間も多く、時には敵陣深くからプレスをかけて相手の反撃の芽を摘んでいく。こうした試合状況に応じた守備の使い分けと、各選手の献身性が25試合でわずか16失点という驚異的な守備力を可能にした。

 「この街がサッカーでこんなに沸いたのは、ユベントスがやって来た99年以来のことだ。ゼニト戦はチケットの問い合わせが16万件もあった。マラカナンでも全員を収容することはできないね」

 かつてロストフの主将を務めたミハイル・オシノフは本拠ロストフ・ナ・ドヌの熱狂を興奮気味に伝えた。CL出場権を獲得した場合には、すでに支援を申し出ている巨大スポンサーがあるという。再び国内屈指の指揮官として脚光を浴びることになったベルディエフは「レスターとは比べられないね。我われは彼らよりもずっと貧しい条件で戦っているのだから」と過度の期待に対して冷静だ。
どんな結末を迎えるかはまだわからないが、ロストフのおとぎ話はこれからずっと語り継がれていくことは間違いない。

Photo: Getty Images

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Profile

篠崎 直也

1976年、新潟県生まれ。大阪大学大学院でロシア芸術論を専攻し、現在は大阪大学、同志社大学で教鞭を執る。4年過ごした第2の故郷サンクトペテルブルクでゼニトの優勝を目にし辺境のサッカーの虜に。以後ロシア、ウクライナを中心に執筆・翻訳を手がけている。