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高評価の試合内容に“モドリッチの後継者”…隠れ優良クラブ、レンヌに注目せよ!

2022.03.10

 レンヌは3月10日、UEFAカンファレンスリーグのラウンド16でレスターと対戦する。

 現在リーグ1で4位につける彼らは、『レキップ』紙による試合ごとのチーム全体のパフォーマンス採点の平均が、20クラブ中トップ(5.47)と、ゲーム内容の評価が高いチームでもある(ちなみにパリ・サンジェルマンは平均5.21で6位)。

 採点は個人の主観が入りがちではあるが、53得点・25失点というレンヌの得失点数が、ダントツで首位に立つPSGの 56得点・24失点 に迫る数字であることも、それを裏付けている。

 実際、キリアン・ムバッペリオネル・メッシら、世界トップレベルのアタッカーを擁するPSGと得点数が3点差しかないというのはすごいことだ。

好守のバランスは抜群

 現在リーグ1の得点ランキングでも、TOP10に選手2人を送り込んでいるのは彼らだけ(ガエタン・ラボルド 14点、マルタン・テリエ 13点)。かといって、守備を犠牲にしたラン&ガン戦術ではなく、失点数もPSG、ニースに次いで3番目に少ないという、攻守のバランスがとれた好チームなのだ。

 しかも平均年齢23.7才と、若手が多い再建中のチームであることを考えても、称賛に値する。

 彼らは、今季のリーグ戦で最初にPSGに土をつけたチームでもある。10月のホームゲームでは、ラボルドの1ゴール1アシストの活躍で2-0と完封勝ちした。

 そして2月、パルク・デ・プランスでの再戦では、90分まで0-0と好戦したが、アディショナルタイムにキリアン・ムバッペにカウンターから得点されて0-1と、惜しくもゴールレスドローで勝ち点1をゲットするシナリオにはならなかった。

 しかし、統制されたディフェンスで相手の展開を封じ込めた戦い方は実に素晴らしかった。 ボールホルダーにはきっちり寄せてプレスをかけ、サイドから上がってくる相手には数的優位を作って対応する。内側に絞った選手にもすかさずマークをつけて、パスの出しどころを限定する。

 言葉にすれば「当然やるべき守備」には違いないが、これを90分間、集中を切らさずやり切ることが難しいのだ。

 それゆえに94分、ムバッペにカウンターのチャンスを許したのは、見ている方としても無念でならなかった。

 レンヌのブルーノ・ジェネジオ監督も「選手の頑張りを思うと悔しくてならない」と失点を悔やんだが、「若いこのチームにとっては、この経験がさらに成長するための糧になる」と前を向いた。まさにその通りだろう。

 守るだけでなくシュートチャンスもあったが、決定機での精度も上げられれば、欧州の相手とでも好勝負ができる。

PSG戦後、試合終了間際の失点を悔やんだジェネジオ監督(Photo: Yukiko Ogawa)

注目はクロアチアの有望株

 さて、今回のレスター戦で注目したいのが、昨夏ディナモ・ザグレブから加入したクロアチア代表MFロブロ・マイェル。クロアチアで生まれたサッカー少年なら誰もが夢見る「ディナモ・ザグレブの10番」を背負った選手である。

 東欧サッカーの第一人者である長束恭行氏も彼にまつわる興味深いエピソードを書かれていたが、マイェルは昨季のUEFAヨーロッパリーグでも、ラウンド16でジョゼ・モウリーニョ率いるトッテナムを締め出す活躍を見せた。

ディナモ・ザグレブで10番を背負った昨季、ELでトッテナム撃破に貢献したマイェル(Photo: Getty Images)

 加入から1年半は出番が得られない時期を過ごしたが、監督交代後からチャンスを得ると、昨季はリーグとカップ戦のダブル優勝も果たし、「そろそろ次の章に行く時が来たと感じた」と23才で海外移籍に挑んだ理由を語っている。

 「変化は苦手」と言う彼だが、レンヌのプレースタイルに順応するのに時間はかからなかった。

 すでに7アシスト。さらにシュートシーンでは、数字には表れないがアシストの1つ手前で絡んでいることも多い。

 彼の歴代の指導者が、左利きの足下のテクニックと同様にゲームビジョンやインテリジェンスを絶賛しているように、マイェルのパスワークはチェスの差し手を想像させるような、2手先、3手先の展開を読んでいる感じだ。

 少年時代の指導者は「普通の選手が『こう展開しよう』というアイデアを1つ思い付いた時、彼には3つは浮かんでいる」とコメントしている。「彼には他の選手が見えていないものが見えている」と。

 パスを受けたチームメイトが「まさか自分のことが見えているとは思わなかった」と驚嘆することも珍しくないそうだ。

 レンヌでは現在、サポーターはマイェル見たさにスタジアムに足を運び、高い月額料金を払って有料テレビに契約している、と言われている。

 とはいえ、すでにレアル・マドリーを筆頭に、国外のビッグクラブも興味を示しているらしいので、リーグ1でのキャリアはそう長くはなさそうだ。

 ただ、海外移籍第一歩の地にレンヌを選んだのは、彼にとって大正解だったようだ。組織がしっかりしていて、リーグ上位争いにも絡む適度なプレッシャーがあり、大きすぎず小さすぎず良い感じに都会な街など、取り巻く環境も含めて彼に合っていた。

 ハムストリングを痛めて3月6日のアンジェ戦は欠場したが、9日の水曜日には全体練習に復帰しているので、10日のレスター戦は恐らく先発できるだろう。

 ポジションは同じではないが、“ルカ・モドリッチの後継者”と期待されるクロアチアの有望株の活躍と合わせて、今季のリーグ1の隠れ優良クラブ、レンヌにもぜひ注目してみてほしい。


Photo: Yukiko Ogawa, Getty Images

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キリアン・ムバッペトッテナムパリ・サンジェルマンレスターレンヌロブロ・マイェル

Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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