今季のJ3最大のサプライズと言ってもいいかもしれない。予算規模ではリーグの中でも決して上位ではないヴァンラーレ八戸FCが、クラブ史上初のJ2昇格を勝ち獲り、来季からは新たなステージへとチャレンジする。ただ、もちろんこの快挙は一朝一夕に成し遂げられたものではない。今回はチームを長年にわたって見つめ続けてきた『AOMORI GOAL』の夏目二郎が、ヴァンラーレがたどった悲願達成に至る道筋を丁寧に振り返る。
チーム創設20年目で掴んだ初のJ2昇格!
チーム創設から20年目を迎えたヴァンラーレ八戸FCが、ついにJ2昇格を決めた。このニュースは青森県内をはじめ、全国にも大きな衝撃を与えたことだろう。
Jリーグが発表した、2024年度のクラブ経営情報を開示した決算データを見ると、Jクラブ全58チーム中(3月決算の柏レイソルと湘南ベルマーレを除く)、53位と下位に沈んでいる八戸。その八戸がいかにして、J3で優勝争いを繰り広げ、昇格を掴んだのか。
2018年にJFLで年間順位3位となり、J3昇格を決めた八戸。初年度となった2019年は10位。2020年は15位。2021年は13位。2022年は10位。初めてだらけのことで時間は掛かったが、チームはもちろん、クラブスタッフも一緒に地に足をつけて地道に成長を続けてきた。そして2023年に“昇格請負人”と呼ばれる石﨑信弘監督が就任。これが大きな転機となった。
「わしが最初にここ来た時に目標を聞いたら、J2昇格と言ってきて驚いたよ(笑)。『えー!J2昇格?これでJ2昇格なんかできるわけないじゃん。お前ら間違えているんやないの?』と口にはしていないけど、本心はそうでしたよ」
J2昇格を決めた5日後、石﨑監督が就任当初の心境をこう話した通り、当時、9つのJクラブで監督を務め、744試合を指揮し、4つのクラブを昇格に導いてきた名将も頭を悩ませるほどの環境にいた八戸。そんな状況で石﨑監督は就任会見で「やりたいサッカーを植え付けていく」と宣言。“攻守の切り替え、アグレッシブ、ハードワーク”を合言葉に設定し、最初に選手の意識改革に着手した。
まずはきついトレーニングで有名な“フィジテク”と呼ばれる、フィジカルとテクニックを織り交ぜた独特のトレーニングで選手を徹底的に鍛えた。その甲斐もあり、「練習に取り組む姿勢が大きく変わりました。練習は100パーセントの力を出しているし、もちろんゲームでもね。八戸の気温10度以下の中でトレーニングしても、最終節の琉球戦みたいに20度以上の場所でも、ホームの選手より全然走っていましたからね。やはり、練習に取り組む意識がすごく変わったと思います」と石﨑監督が振り返る通り、選手たちは変化していった。そして守備の構築。細かい決まり事、動き方、細部にまでこだわった指示で堅守を実現していった。
石﨑信弘監督
「今日からの合宿で1年間戦えるフィジカルを鍛えて来ます。頑張ります。」#ヴァンラーレ八戸#石﨑信弘 pic.twitter.com/CzTuYZhq6A
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石﨑監督体制3シーズンの軌跡を振り返る
そして迎えた最初のシーズン。7試合無敗を成し遂げ、終盤には3連勝を飾り、過去最高成績の7位でリーグを終える。「土台はできた」と臨んだ2年目は、開幕から新加入選手との連係がうまくいかず最下位に沈んでいたが、4月に行われたYBCルヴァンカップ2回戦・鹿島アントラーズ戦(延長戦で1-2と敗退)で善戦すると、そこから順位を上げていった。
しかし、夏の移籍期間で得点源のオリオラ・サンデー、攻守の要だった柴田壮介を引き抜かれて石﨑監督の計算が狂う。「これからという時に、あの引き抜きは本当に痛手だった」と話す通り、2度の2連敗など調子を落とすが、それでも百戦錬磨の石﨑監督は何とか立て直し、プレーオフ圏内を最後まで争うところまでもっていく。最終的には11位に終わったが、確かな手応えを得たシーズンとなった。
石﨑信弘監督契約更新のお知らせhttps://t.co/qWsxQXYyxG#ヴァンラーレ八戸 pic.twitter.com/rTHqJei5Tf
— ヴァンラーレ八戸【公式】🦑 (@vanraure) November 23, 2024
「勝負の3年目」と銘打った今シーズン。昨季の得点力不足という反省を活かし、攻撃的な澤上竜二、中野誠也、高尾流星などを補強。昨季の主力流出も佐々木快(8月21日に八戸に復帰)、前澤甲気、山内陸だけにとどめ、石﨑サッカーを知る選手が多く残った。さらにクラブは、一昨年、昨年の課題だった開幕ダッシュに向けて、チームの始動日を例年より早く設定し、チーム作りに取り組んだ。
2025シーズンの開幕戦、FC岐阜とのアウェイ戦で勝利を収め、開幕からの5試合を2勝1分2敗と、八戸にとっては過去にない成績を収め、ここから勝点を積み重ねていった。そして13試合無敗、クラブ記録を大きく更新する7連勝と、第22節を終えて首位に立つ。
終盤戦にのしかかったプレッシャー。最終節までもつれ込んだ昇格争い
しかし、ここまで好調を維持してきたチームに衝撃が走る。
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Profile
夏目 二郎
1983年生まれ、青森県出身。ヴァンラーレ八戸FCの前身チーム・八戸工業SCでプレー。2009年、「青森県をサッカー王国に!」という思いで生まれた青森県内のサッカー&フットサル情報誌『AOMORI GOAL』の立ち上げメンバーとして、雑誌制作、取材、執筆活動をスタート。2022年より『エル・ゴラッソ』にてヴァンラーレ八戸FCを担当し、クラブオフィシャルカメラマン、Jリーグオフィシャルカメラマンも務めています。まだまだ未熟者ですが、色んなことに挑戦していきます!
